悲しき熱帯 レヴィ=ストロース 

「悲しき熱帯」いつか読んでみようと思って、図書館で借りて、返却日間際になって、バタバタと読む・・・。

 

構造主義」について全く無知だったところから、内田樹さんの「寝ながら学べる構造主義」、出口顕さんの「ほんとうの構造主義」を読んで、やはり、レヴィ=ストロースは何を考えた人なんだろう???と思っていたところに、佐藤優さん監修の「一生モノの教養が身につく世界の古典 必読の名作傑作200冊」に、「悲しき熱帯」がでてきたので、やはり読まねば!ということで借りてみた。

図書館の本だが、かなりボロ。貸出票が裏表紙の裏に貼ってあって、”62.10.11" のゴム印。。。昭和62年が最初の貸し出しだったのね。古い。一か所、鉛筆で翻訳の修正かのような書き込みがあった。。。

日本語版の初版が1977年。

原書は、1955年パリにて出版。著者が1930年代~40年代、民俗学者としてみた新世界(彼は本の終りの方に、”新世界は我々の世界ではなく、我々が破壊した世界”という言い方をしている)について、帰国後15年たってから5か月で書き上げたという。そして、それを日本語に翻訳した川田さんは、翻訳に12年かかったという。。。

 

古典かどうかはさておき、名著というのは、わかる気がした。

哲学書ではなく、経験に基づく彼の思考の記録、、という感じ。彼が実際に体験した旅日記に近いが、日記ではないのは、時系列が必ずしも順番ではないのと、色々な記憶と思考が行き来しつつ、文章が構成されているから。でも、読みやすい。

 

読みながら、翻訳者がどれほどレヴィ=ストロースを理解しようとしたか、どれほど日本語でその思いを伝えようとしたか、という熱意も伝わってくる感じがした。翻訳者の川田さんに、翻訳苦労話をお聞きしてみたいくらい。。。

 

ブラジルが主な舞台になるのだけれど、この本は、私自身がもっと若いときに、ブラジルで仕事をする前に読んでおきたかった。南アメリカへのヨーロッパ人の入植は、ワインの歴史でも学ぶところではあったが、ブラジルはワインの歴史では出てこなかったけれど、時期としては同じである。ダイアモンドを求めて。白(砂糖)を求めて。黒(コーヒー)を求めて。人は、海岸から奥地へ奥地へ、、、開拓、言い換えると侵入、、、を進めていった。ブラジルって、そういう歴史の国だったのだ、と日系ブラジル人と仕事をしてきたにもかかわらず、ちゃんとわかっていなかった。

本って、思わぬ学びがあるものだ。

あ、マルティニック島のラム酒プエルトリコラム酒の表現も、一つの学び。やっぱり、マルティニック島のラム酒は美味しそうだ。

 

下巻の最後のほうに、新世界を旅することでの気づきのような思考のまとめが記載されている。



”個人が集団の中で一人ではなく、各々の社会が他の社会の中で一人ではないのと同様に、人類は宇宙の中で一人ではない。”

 

こういうところから、構造主義という言葉が生まれてきたのか、とようやく少し構造主義の輪郭が見えてきた気がする。

図書館の返却日が近いので、わりとサーっと読んでしまったが、この本は、どこかの旅行先でゆっくり読みたい気がする。忙しい日常の中ではなく、時間に縛られない旅の中でゆっくり読んでみたい。

 

読み終わって、ちょっと、胸が痛い気もする。インディオへの入植者価値観の押し付け。宗教の違いによるいさかい。半世紀たっても、そういうところは人は変わっていない。だから、今なお新鮮な気持ちで読める本なのだろう。そうか、それが古典の名著ということか。

 

今回も、翻訳としてほほぉ、、、と思ったことを一つ。

「・・・・その時にはすでに左前になっていたのだが。」 という一文。

入植者が始めたビジネスが、すでに苦しくなってきた、というくだりでの表現だっだけど、左前って、明らかに日本語からくる表現で、原語はどうだったのかなぁ?って思った。でも、こういう日本語を使ってくれているから、読みやすい。


にしても、左前になるって、最近聞かなくなったなぁ、、、、。

バブル以降、ずーーーと、右肩下がりだからか???

 

と、まぁ、また読み直してみたいと思う本だった。

でも、なんで「悲しき熱帯」というタイトルにしたんだろう。

原題 Tristes Tropiques。

Tristesって、日本語にすると悲しい、にしかならないのかしら?

悲しい、より、哀しい、のほうが近いかな? 

読んだ後に、確かに胸が痛かった。

 

言葉って難しい。

あ、本の中に、文字を理解しない人たちもでてきたのだけど、言葉の前に、文字があるという事にも感謝しないとね。

言葉って、面白い。