「おそめ 伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生」 by 石井妙子

「おそめ 伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生」 

石井妙子 著

株式会社 洋泉社

2006年1月24日

 

楠木建さんのお薦めだったので、読んでみた。

(「この一冊、ここまで読むか!」から)

あぁ、こういう時代があったのね。

文豪があつまる銀座のバー。

白洲次郎川端康成大佛次郎、、、、

そんなお店なら、私も働いてみたかったかも?!?!

 

 

著者の石井妙子さんは、最近だと「女帝 小池百合子」の著者。

ノンフィクション作家。

本書は、石井さんの初めてのノンフィクション。

5年の年月をかけて出版に至った。

確かに、巻末の参考文献一覧は13ページに及ぶ。

当時の週刊誌等が多いけど、たくさん調査したのだろう。

インタビューも百名近い方々だったと。

匿名を希望される方が多かったという事で、全員の名前が匿名となった。

 

おそめ、本名 上羽秀、の半生をつづった本。

伝説の銀座マダムだったそうだ。

映画「夜の蝶」の主人公のモデルだと言われた人。

実際の映画に出てくる女は、本人とは異なる点も多かったようだが。

本書を読む限り、本人のほうがよほど人間的で魅力的に思う。

 

京都木屋町に炭問屋に嫁いだ母、よしゑの長女として大正12年1月15日に生まれる。

翌年、秀の妹、掬子が生まれる。

しかし、幸せな家庭ではなかった。

よしゑは、嫁ぎ先での舅、夫からの様々な嫌がらせ、暴力から逃れるように、秀と掬子を連れて、家をでる。

一生、呪ってやる、と心に誓って家をでた母よしゑ。

でも、時代が時代。出戻り娘が簡単に実家に戻れる時代ではない。

そして、よしゑは、掬子を義兄夫婦の養子としてもらい、秀を一人で育てることとなる。

小学校を卒業した秀は、進学は望まず、新橋の花柳界に出ることとなる。

さいころから、「芸妓さんか、女優さんになりたい」といっていた秀は、夢の第一歩を15歳で歩み始める。

15歳で、一人、東京の知り合いのところへ居候しながらの芸者修行。

秀は、楽しかった。東京も気に入った。このまま東京でお座敷にでたかった。

でも、修行が終わって、さぁ、お座敷へという頃に、3年も離れて暮らしていたことに耐えられなくなった母に京都に連れ戻されることになる。

そして、祇園へ。

芸妓 おそめ 誕生。

日本人形のように美しい秀は、すぐに売れっ妓となる。

外見の美しさだけでなく、その人となりも人気だった。

祇園の客は、当代一流の人たち。

裏表なく、子供のように素直でいて、日本人形のように美しい秀。

一流の人たちが、秀に夢中になった。

そしてそんな中、旦那がつく。

そして、19歳の時に、落籍される。

要するに、旦那の妾になって、お座敷を降りたということ。

でも、秀が好きになった相手ではない。

相手は秀にぞっこんだけど。

そういう時代。

 

旦那は、とことん秀にやさしかった。

戦時下にあっても、何一つ不自由のない暮らしをさせてもらっていた。

でも、それは秀の望んだ生活ではなかった。

そして、昭和二十年。終戦

街に活気が戻ってきたころ、秀は、街に出て、恋をする。

旦那を裏切っての恋。

それでも、旦那は、秀にやさしかった。

そのあと生活に困らないであろう手当も渡して、秀を自由の身にする。

そして、秀は、恋した相手の娘を生む。

 

俊籐浩滋。

秀が、最後まで人生の伴侶として添い遂げることになる男。

でも、「おそめ」で活躍する秀の稼ぎで生きる男。

ろくでもない男にしか思えないけれど、秀が惚れて惚れて尽くした男。

後に、任侠映画の父と言われるまでになり、秀を最後まで守り抜こうとした男。

 

俊藤と暮らすようになって、働かない俊藤の代わりに、楽しんで働く秀。

昭和23年、自宅の一部を改造して「OSOME」会員制ホームバーを開店。

お客は、祇園時代の数々の名手。

小さなお店は大盛り上がり。

東京からのお客さんも付くようになる。

そして、昭和30年、「おそめ」は銀座に店を開く。

 

栄枯盛衰・・・・。

時代の流れ、行き過ぎた店の拡張、俊藤の勝手なふるまい。

 

東京に出て23年、1978年に「おそめ」はひっそりと閉店となる。

 

そのころになって、俊藤は任侠映画のプロデューサーとして名を上げ始め、秀は家庭に入って夜の街を引退する。結局は、最後まで支え合い続けた二人だったのだろう。

 

日本の高度成長期の夜の店。

その一つの栄枯盛衰の物語、と言えばそうだけれど、秀の天真爛漫な性格が伝説のマダムと呼ばせるのだろう。

俊藤には、実は本妻がいた。子供までいた。それでも、秀は俊藤との生活を続け、本妻や子供の面倒まで見続けた。

晩年に、本妻百合子と離婚した俊藤は、秀に結婚してくれと頼む。秀は、籍を入れることには全く興味を示さなかった。

秀は、お金にもあまり興味がなかった。

だから、店を拡張しても事業には無関心。

ただ、お店に出ていることが楽しかった。

お金は、持つものではなく流すもの。

そんな、さっぱりして、執着しない性格が、伝説のマダムのなのだろう。

 

そういう時代があったのだと、思い起こす。

今よりも限られた女の人生の自由。

でも、自由に生きた秀。

 

なにも、衰退の話なんか書かなくてもいいのに、という気もしなくもない。

でも、お店を閉じたからと言って、いじけるわけでもなく、

晩年にも「また、お店をやりたい」と言い続ける秀がいい。

 

名誉やお金に執着しない生き方。

それが、伝説なのだろうと思う。

 

執着しなければ、人生は楽になる。

お金は、流しているば、流れてくる。

そんなことを、信じたくなる一冊。

 

そして、ちょっと信じているから、まだまだ、私もなんとかなるかも、と思っている。

執着せずにいこう。