「コロナ後の世界を生きる 私たちの提言」からの話題提供、ヤマザキマリさん。

 「コロナ後の世界を生きる 私たちの提言」
村上陽一郎
岩波新書
2020年7月17日第1刷発行


コロナ禍によって照らし出された社会の現実、その深層にある課題など、今何を考えるべきなのか各界の第一任者24名の提言を、村上さんが編集された本。

村上楊一郎さんは、1936年生まれ。東京大学名誉教授。国際基督教大学名誉教授。科学思想史・科学哲学専攻。

 

図書館で、ヤマザキマリで検索した時に 出てきたので借りてみた。


P.80 「我々を試問するパンデミックヤマザキマリ


ヤマザキさんは、もともと、海外を転々と暮らしてきた人だが、当時、イタリア、パドヴァで家族と暮らしていた。2020年の2月、仕事でミラノに滞在した後、家に戻ろうと思ったら、教員をしている夫から、パドヴァには帰ってこない方がよいのでは、と言われた。日本からの移動を含めて、それまで不特定多数の人たちと毎日無意識に接触してきたことを考えると、自分が感染をしているかもしれないからということで、自宅に帰らずそのまま日本に帰ってきた。
そして、ヤマザキさんは2021年6月の今なお、日本にとどまっている。
その、ヤマザキさんがみた、パンデミックが人々に考えさせたこととは?

家族と会えないヤマザキさんには申し訳ないが、そのおかげでヤマザキさんの日本での発信をたくさん得られたのは、私には、幸いなことである。


彼女の一番のメッセージは、

”自分で判断できる智恵を身に着けられる社会をつくっていくには?”という事のように感じた。


他の本でも、ヤマザキさんはドイツのメルケル首相の対応、国民に向けて行なった演説を高く評価している。本書でも、メルケルさんを演説上手の代表として取り上げられていた。 メルケルさんは、「自分たちの政治的判断と行動の根拠の透明感が大事であり、国民それぞれの知識の共有と協力によって成り立つのが民主主義であると説き、国民からのパンデミック対応への指示を得た。」とある。内容も、演説そのものもうまいのがメルケルさん。

イタリアのコンテ首相も、国民の命と健康は何より優先順位で守られるべきであると告げて国民を納得させた。


ここまで読んで、私の頭に浮かんだ問いは、

「ドイツ、イタリアの二人が演説によって国民の協力を得たのに対して、日本は?!?!そもそも、自分の考えを伝える訓練ができていないのではないか?」

ということだ。

 

欧州では子供の時から弁論に慣らされていくので、自分の考えを自分の言葉で伝えることを学び、質問があっても臨機応変に答えるという訓練がされている、という。
その辺が、演説上手の背景になる。日本の教育では、そういう訓練の場が少ない。


もう一つ、海外と日本の教育の違いとして、過去の疫病や戦争について、どのように子供たちに考える機会を与えるか、ということ。

イタリアでは、一般教育の段階で習得の機会があるという。


疫病についていえば、小説「いいなずけ」(アレッサンドロ・マンゾーニ著) が中学校での国語の授業における課題図書となっているそうだ。17世紀に発生したペストの流行の様子が記述されている小説。私も読んだことはないけれど、読んでみようと思う 。


また美術の授業時間にも黒死病の大流行を絵画を通じて学ぶ機会があると言う。

日本においては、戦争や震災のような風景を変えてしまう史実はともかく、疫病大流行のようなものが、あまり記録として残されていないらしい。ヨーロッパの旧約聖書に根付く人間至上主義的な考え方は日本にはなじみが薄く、疫病にしても自然現象との共生の一つととらえる日本的な考え方があるのかもしれない、とヤマザキさんはいう。


「水に流す」というのは、日本に特徴的な文化の一つだと、以前、キリスト教聖職者だった知人がいっていた。
ちょっと、重なるところがあるかもしれない。

 

そして、疫病や戦争など、苦しい悲惨な時を経た時に人々はどうなるか。それは、昔から現在まで、おおきくかわらないのでないか?でもこれから選択していくのは、私たちなのでは?というのが、ヤマザキさんの問いかけ。


以下、気になったところ、要約&抜粋。


「ヨーロッパにおいては、ローマの時代から戦争やパンデミックが起こると、自己顕示欲しかないような愚帝が権力を掴み、一方で民衆の間ではキリスト教信者が増えるという現象が起こっている。第1次世界対戦の最中に発生したスペイン風邪では、人々が生き延びるための精神の拠り所として、復興への強い思想と演説によって、圧倒的なカリスマを備えたヒトラームッソリーニのような人々を信望し始めた。人々から自分で物事を思考する力を奪い神や指導者などへの神奉に自分の命の責任を委ねる心理を発芽させる。パンデミックの性質はこうした歴史の中からも認識できる。」

 

不安が発芽すると、絶対的なカリスマリーダーに、自分の未来を委ねたくなるのが人間なのか?


本書の中でのヤマザキさんの最後の問いかけは、以下の通り。


メルケル首相の言葉通り、『国民それぞれの知識の共有と協力によって成り立つのが民主主義』であるのなら、人類の歴史上において何度となく繰り返されてきたこの疫病による混乱も、そして終息後の世界も、今までとは違う水準のものに変化していく可能性があるはずだ。個人の意識と行動力次第だが、逆に自分の頭で考えた言葉を待たず、政府や権力者の判断や指示のみにすがって生きていく方向を選ぶのであれば、そんな展開への妄想は抱かない方がいい。
2世紀のアントニヌスのぺストや前世紀のスペイン風邪のような国力や社会衰退への顛末を歩むことになるのか、それとも14世紀の黒死病代流行を経て文化も経済も繁栄を極めた ルネッサンス のような世界を迎え入れることができるのか、その答えもまたこのパンデミックが教えてくれるだろう。」

 

このパンデミックの後どういう世界にしていくかは、わたしたち一人一人の判断そして行動によっているのだ。


2020東京オリンピックは開催まで3週間となった。
ただ「開催反対」というのか、開催するならば、自分はどう行動するかを決めるのは、自分である。

 

自分の頭で考える。

それが、大事だと思う。

手洗い、うがい。

自分の身は、自分で守る!