「学問の自由があぶない 日本学術会議問題の深層」 by 佐藤学 上野千鶴子 内田樹 編

学問の自由があぶない 日本学術会議問題の深層
佐藤学 上野千鶴子 内田樹
2021年1月30日
晶文社

 

図書館で内田樹さんの名前で検索をかけた時に出てきた本。

2020年10月1日、菅首相日本学術会議の新会員任命拒否をしたことを受けての出版。

ニュースで聞いたけれども、私自身は、「また変なこと言い出したな」ぐらいにしか思わなかった。安倍政権の続きなのだから、何を言いだしても驚かない。けど、こうして政治に鈍感になっていくのは、危ない。民主主義の崩壊だと、この本を読んで、ちょっと危機感をもった。

 

当時、ネット上では、様々なコメントが飛び交っていたらしい。それすら私はあまり興味をもっていなかった。日本学術会議自体を非難するもの、政府のやり方を非難するもの、本書によればかなりのフェイクニュースも飛び交ったという。誹謗中傷、名誉損といえるものまで。日本学術会議そのものが、どんな機能の組織なのかということが、玉石混合、色々と言われていたことを知った。本書に書かれていて、事実のことは事実なのだろう。

本書によれば、日本学術会議とは、政府の諮問機関の一つであり、政府の諮問をうけて答申する。政府が諮問しないかぎり、諮問への答申はない。factとして、2008年以降ずっと政府からの諮問がないために、答申していない。それが、活動してないのに金をもらっているといった中傷が出た理由らしい。が、その代わりに、自主的な提案はしてきている、というのももう一つのfact。が、政府はそれを無視し続けている。かわりに政府は、「識者」と呼ばれる御用学者を指名する審議会方式で政策決定をしてきているから。そして、そこには、戦争反対を大きくうたっている日本学術会議はずし、の意図があるという。ただ、ここでいっている意図は、本書の筆者の見解であって、factかどうかはわからない。

 

コロナのニュースでも「有識者会議」というのは、ミミタコだろう。


本書の編集者を含む13人の学識者のコメント、任命拒否された当事者のコメントが掲載されている。加えて、本件に関する声明を公表した学協会一覧。 その数は、800以上に上る。


私がかつて所属していた学会も名前を連ねていた。おそらく日本に存在する学会のほとんどと言っていいのだろう。 現在の日本学術会議は、人文社会・生命・理工の3部制。ほぼあらゆる方面の学問を網羅していると言っていい。その人達ほぼ全員が声明を出したということ。


それぞれの方のコメントは、それぞれだが、共通しているのは、政府が任命拒否したのは憲法違反である、ということ。そして、それを棚に上げて、学術会議の改革が必要だと、別の理論も持ち出している政府のやり方の危うさを指摘している。

 

で、そのあと、どうなったんだ?
任命拒否の理由は結局明かされていないようだ。

 

内田樹さんのコメントは、いつもの内田節でスパイシー。
「日本は国家目標を持たなくなった。もう米国からは独立していることにしてしまった」

そんな国だから、

「何をクリエイトするかよりも、どうマネージするかが優先される」。
なるほど。
痛い指摘だ。

 

ちょうど、先週、世界の科学論文ランキングがニュースになっていた。
2007~2009年の平均では、アメリカがNo.1でシェア34.9%、No.2 中国 7.6%、日本はNo.5で4.3%だった。
それが、最新の2017~2019年の平均では、中国が24.8%でNo.1。アメリカはシェアを落として、22.9%でNo.2。首位の座を中国に譲った。そして、日本は、、、、2.3%と前回の半分にまで下がり、順位は10位。

 

大学も、クリエイトする場から、マネージする場になっていることを、内田さんが指摘している。
大学も、国からの助成金がある。政府が気に入らない言動があればお金を減らされてしまうかもしれない。だから、マネージなのだ。


本書をよんで、各国の「学問の自由」にあたるものにも、色々なものがあることをしった。中でも、日本の「学問の自由」というのは、とりわけ個人がどんなことを研究するかの自由という事ではなく、「政治の世界からの介入を防ぐ」という意味合いがつよい、憲法第23条。個人に関して言えば、別途、19条「思想・良心の自由」、21条「表現の自由」がある。
だから、23条「学問の自由はこれを保障する」というのは、政治的圧力をうけない、という意味。

だから、日本学術会議の会員任命拒否は、憲法違反ということ。

 

と、今回の件がどういうことが問題なのかは、本書を読むとよくわかる。

が、その後どうなったのかが、コロナやオリンピックの色々でほとんど報道されていない。いったいどうなったんだろう。

そして、そのうち、興味を失っていく。。

 

興味を失うのが一番危うい。

ヤマザキマリさんもよく言っている。

「参加するのが民主主義」

 

ちょっとだけ、興味をもって、本件の成り行きを見てみようと思う。