「逆・タイムマシン経営論」 by  楠木建 杉浦泰 

逆タイムマシン経営論
楠木建 杉浦泰 
2020年10月12日
日経BP
 
楠木建さんの本だから借りてみた。


著者の楠木建さんは、1964年生まれ。競争戦略で有名。彼の著書に初めて出会ったのは、2012年の「ストーリーとしての競争戦略」だったと思う。

そのころなんとなく、そうだろうな、と思っていたことが活字になっていて、ものすごく腹落ちした記憶がある。2011年の震災の後で、これまで信じてきたモノの価値観が揺らいでいた時期かもしれない。
本書は、4月に図書館に予約したものが、ようやく8月の末になって回ってきた。さすが人気者。私としては、すでにサラリーマンは辞めていたので、急いで読みたい、というより、楠木さんの本だからいずれ読んでみよう、という感じだったので、図書館で借りた。
 
逆タイムマシンと言っているのは、つまり、過去に学ぼうということ。


楠木さんの言葉で言うと、「近過去の歴史に学ぶ『思考の型』」をセンスとして身に着けよう、ということ。
今起きていること、ファクトフルネス、ではなく、パストフル、過去から学ぼうと。言うまでもなく、時というのは常に過去からの連続なのだから、今の姿は過去からの連続なのである。
 
そして、過去から学ぶことで、「同時代性の3つの罠」から抜け出せ!というのが、この本の指南するところ。
 
3つの罠とは、
1. 「飛び道具トラップ」
2. 「激動期トラップ」
3. 「遠近歪曲トラップ」
 
どのトラップをも、キーワードになる「時代の流行語」のようなもののトラップに、はまるな、ということ。
 
1.「飛び道具トラップ」とは、AI、IoT、DX、オープンイノベーションといったマジックワードに、万能必殺技のような効果を期待してしまう罠。手段でしかないものを、目的が定まらないままに、組織に導入しようとする。文脈離脱。たいてい、よく理解していない役員とかが言い出す。
「厄介なことにこの手の人は、自社文脈についての理解も浅い傾向があります。飛び道具に一般的な関心を持つだけならまだ良いのですが、自社文脈を無視して飛び道具を無理やり導入しようとします」 
あるある過ぎて、笑ってしまった。


飛び道具トラップによる成り行きをまとめると
1)同時代の空気の土壌の上で
2)人々の耳を聞く成功事例が生まれ
3)それを「飛び道具サプライヤー」があおる中で
4)「同時代のノイズ」が発生し
5)飛び道具が「過大評価」され
6)関心を持つ人々による事例文脈から「文脈離脱」が起こり
7)「文脈無視の強制移植」が行われ
8)「手段の目的化」と「自社文脈との符合不適合」により逆機能が起こる
 
見たことあります、こういうの、、、、っていう感じ。


もっと、笑ったのが、「トラップに嵌りやすい人」のプロファイリング。
第1:情報に対する感度が高い人
第2:考えが浅い人
第3:せっかちな人
第4:何らかの意味で行き詰っている人
第5:視野の狭い担当者。
 
おもわず、声をあげて笑ってしまった。。。。
 
現場は、それを導入する必要性を感じていないのに、トップが言っているからと言って高額な投資をして「手段」を導入することが「目的」になっていく、、、、。悲しいかな、大きい組織ほど、よくあることだと思う。小さい組織なら、資金がないから、そんなムダ金は使っている場合ではない。


そうして、会社の儲けというのは、価値創造していないところにも配分される。。。サラリーマンのお給料の仕組み。


 
2. 「激動期トラップ」は、時代の最先端技術を過剰評価することによるトラップ、とでもいえばいいだろうか。2004年のセグウェイ、2013年の3Dプリンター、2016年のランドロイド(自動洗濯+洗濯ものたたみ機)、などの失敗事例が紹介されている。技術が失敗なわけではないのだが、事業としては失敗。
技術として「できる」ということと、人がそれを「つかう」というのは、別のこと。
技術は、技術革新によって急激に進化し革命を起こすことがあるが、人は、急には変われない。
人々の思考や生活に起こるのは、革命ではない。


技術は非連続に進化しても、人は、連続の中でしか進化できないのである。
また、要素技術の進化は速くても、大きなプラットフォームとなるシステムの進化は遅い。水素自動車の開発は進んでも、水素ステーションは増えない、ということ。

 

そういえば、仮想通貨が出始めたころ、「ブロックチェーン」という技術が大きく取り上げ手られていて、金融だけでなく世界が変わるかもしれない、なんて思ったけど、今、「ブロックチェーン」が応用展開されている現場はあるのだろうか??

あまり、耳にしなくなった。。。

 

 
3. 「遠近歪曲トラップ」、遠くのものほどよく見えて、近くのものほど粗が目立つ、ということ。
シリコンバレー発の会社ならどこもすごくて、日本のベンチャーはたいしたことないと判断するとか。
人口減少に対する評価も、時間という遠近歪曲トラップだという。
今、日本は、急激な少子高齢化に突入し、特殊出生率を如何に上げるか、とやっきになっている。でも、昭和生まれの人なら、だれもが記憶にあるだろう。
「明るい家族計画」。戦後、夫婦+子供2人が適当であるとされていた時代。
ほんの50年前には、出生率を下げることに躍起になっていたのだ。
そして、その前は富国強兵、産めよ増やせよ、、、、。これを近視眼的と言わず、何という??
 
楠木さんは、そもそも、「日本企業」なんてものは存在しない。マクロとミクロを混ぜるのは極めて危険!!という。
 
平均思考の罠と同じかもしれない。

平均値でできている人なんて、どこにもいない。


 
大きな組織の陥りやすいトラップではあるけれど、これは、個人事業主にも参考になる視点だと思う。
時代の流れに流されるな。
流れは自分でつくって、自分で乗れ!
 
なんて、そうできたらいいんだけどね。 
真面目に、考えてみようと思う。

個人事業の規模で言うと、激動期トラップのリスクが高そう。

営業にはSNSだとか、Youtubeだとか。

ポストコロナは、世界が変わるとか。

 

いつの時代も、人間が求める本質は変わらない。

方法論に嵌る前に、目的を明確にしよう。

何を社会に提供したいのか、

誰に提供したいのか、

なぜ、自分がそれをやるのか。

 

と、考えてばかりで行動が伴わないのでは、前に進めない。

行動できなかった自分の過去にも学んでみよう。。。