「ふたつの海のあいだで」 by カルミネ・アパーテ

「ふたつの海のあいだで」(TRA DUE MARI)

カルミネ・アパーテ 著
関口英子 訳
新潮社 (CREST BOOKS)
2017年2月25日 発行
(原作は、2002年)

 
書類の整理をしていたら、「ふたつの海のあいだで」という走り書きのメモがでてきた。読もうと思って、書きとめていたのだと思う。忘れていた。
図書館で借りてみた。
 
やっぱりそうだった。

裏表紙に、「ヤマザキマリ」のコメントが付いている。ヤマザキマリさんのお薦めだから読んでみようと思ったのだと思う。
 
感想。
美しかった。
読み終わったとき、鳥肌がたった。
久しぶりだ、この感じ。
映画のラストで鳥肌がたつのと、似た感じ。
心が持っていかれた。
あぁ、小説も好きだ、、、と思った。
海が、海岸の景色が、まぶたの裏にまざまざと浮かぶ。
イタリアに、今すぐ飛んでいきたくなる。
そんな、一冊だった。

作者のカルミネ・アバーテは1954年。裏表紙にあった写真は、ちょび髭をはやした、おでこの広いおじさん。。。
多分、初めて彼の作品を読んだと思う。
本書の説明によると、
イタリア南部カラブリア州の小さな村カルピスに生まれた人。少数言語アルバレシュ語の話される環境で育ち、イタリア語は小学校で学んだ。バーリ大学(南イタリアの大学)で教員免許を取得。ドイツ・ハンブルクでイタリア語教師となり1984年にドイツ語で初めての短編集を発表した。その後イタリア語で執筆した「サークルダンス」(1991)で本格的に小説家としてデビュー、2002年に発表した本作が高い評価を得る。
ということ。
言葉に対する、繊細さをもったひとなのかもしれない。
文章を読んでいると、女性が書いたのかな?という気がしなくもない。
 
翻訳は、関口英子さん。 翻訳も上手いと思った。私は、イタリア語は読めないから原語と比べることはできないけれど 、たぶん、元の文章が素晴らしいということもあるだろうけれど、とても読みやすい。
「月を見つけたチャウラ ピランデッロ短編集」で第一回須賀敦子翻訳賞を受賞された方、ということ。
須賀敦子さんは、大好きな作家さん。イタリア語、イタリアの物語と言えば、須賀さん、という方。その方の名前が付いた賞を取られた方ということなので、翻訳も素晴らしいということは、間違いないだろう。

 

とても素敵な本に出合えた。

 

以下、ネタばれあり。

舞台は、イタリア南部、カラブリア州の田舎町、ロッカルバ。
カラブリア州は、イタリアの長靴のつま先の州。西はティレニア海に、東はイオニア海に囲まれている。

 

”彼のことなどなにひとつ知らなかった。7月のあの日に逮捕されて以来、何年ものあいだ僕の人生から姿を消したきりで、誰も彼の話をしてくれなかった。・・・・・”

と、始まる。


彼とは、「ジョルジョ・ベッルーシ」。主人公の僕、フロリアンの母方のおじいさん。

物語は、僕の語りで始まる。
ロッカルバは、お母さんの故郷。ハンブルクから車で家族と一緒にお母さんの故郷にやってきた僕。夏休みを過ごすためにやってきた。そこには、叔父さん家族、従兄のテレーザ、ジョルジョ・ベッルーシの妻である僕のおばあちゃんが、待っていた。そして、海の方向には、将来、「ジョルジョ・ベッルーシ」が再建をはたすべき、一族の象徴《いちじくの館》、旅館が廃墟になっていた。

 

物語りは、ジョルジョ・ベッルーシが23歳の時の旅に時間がもどる。23歳の一人旅。

旅の途中でであったのは、僕のお父さんのお父さん、つまり、僕のおじいちゃん。ドイツ人。ドイツ人は写真をとる旅の途中で、23歳のイタリア人の青年と出会う。

 

ドイツとイタリアをまたいだ家族の話になっていく。

「ジョルジョ・ベッルーシ」が逮捕された理由は、殺人だった。街の暴れん坊からさんざん嫌がらせを受け、畑の木を切られ、買っていた羊を殺され、金をせびられ、、それでも、静かに耐えていたのに、堪忍袋の緒が切れた・・・・。

 

刑期を終えて還ってきたジョルジュ・ベッルーシは、街のみんなに歓迎される。だって、悪いのは、街の暴れん坊だ。
そして、《いちじくの館》の再建を始める。


しかし、再建の途中、ふたたび、街の暴れん坊一派から、《いちじくの館》の爆破というしかえしを受ける。
資金が底をついている。でも、再建にすべてをかけるジョルジュ・ベッルーシ。
手伝う僕。


資金不足を助けてくれたのは、ドイツ人のもう一人のおじいちゃんだった。今や有名なカメラマンとして世界中を飛び回るお金持ちのおじいちゃんが、《いちじくの館》の再建を助けてくれる。

 

再建された《いちじくの館》は、一族の象徴どころか、街の象徴になる。
県知事までがお祝いに駆けつけた、オープニングセレモニー。
人々の記憶に残るパーティーになる。
僕は、お父さんとお母さんが身体を寄せ合って踊る姿を、初めて見る。
僕も、恋人のマルティーナと幸せな時をすごす。

幸せの象徴のような、《いちじくの館》。

が、物語はそこで終わらない。。。


パーティーの後、二人のおじいちゃんは、ふたたび一緒に旅をする。
そして、街の暴れん坊が二人の命を奪う・・・。

 

え?!
という、はなしの展開。

美しい風景の描写と、どこまでも残酷な死。

 

物語の最後は、
”マルティーナと僕は結婚します。ここ《いちじくの館》で盛大な披露宴をひらくつもりです。”


何世代にも渡る、愛の物語。
最後は、僕の未来に向けた愛の物語。

鳥肌がたった。 

 

なんだろうか、この感じ。

生命力。

 

ただのハッピーエンドではないけれど、生きるエネルギーを感じるというのか。

無念でも、理不尽でも、それでも生きていく。

世代をつなぐことができるという幸せ。

 

素敵な本に出あえた。

 

カルミネ・アパーテの本を他にも読んでみたくなった。

関口さんの訳した本を他にも読んでみたくなった。

イタリアに行きたくなった。

 

読書は世界を広げる。

読書は楽しい。

 

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