「ビジネスの未来  エコノミーにヒューマニティを取り戻す」 by 山口周

ビジネスの未来  エコノミーにヒューマニティを取り戻す
山口周
株式会社プレジデント社
2020年12月21日 第1刷発行

 

2021年2月ころの、アカデミーヒルズ読むべき新刊、お薦め本。

 

山口周さんは,
1970年東京都生まれ。独立研究家、著作家、パブリックスピーカー、ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科理学部美術史学専攻修士課程修了。電通ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)で、ビジネス書大賞2018準大賞。

パブリックスピーカーという肩書ってあるんだ。

確かに、色々なところでスピーカーとして登壇してらっしゃる。実は、私よりだいぶ年上だと思っていたのだけれど、1970年、お若くていらっしゃった。彼の本は何冊も読んでいるけれど、こうして書いていて、初めて年齢に目がいった。

本書は、21世紀の世界を過去との比較で見直し、これからの未来にどうしていくべきかを発信している一冊。

 

はじめに
第一章 私たちはどこにいるのか?
第二章 私たちはどこへ向かうのか?
第三章 私たちは何をするのか?
 イニシアチブ1 真にやりたいことを見つけ取り組む
 イニシアチブ2 真に応援したいものことにお金を使う
  イニシアチブ3 ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入
補論

という構成。

 

概略の理解でよいのなら、「はじめに」と「補論」だけでも充分把握することが出来る。第一章から第三章までは、具体的なデータや事例、様々な人々の意見などを参照して、山口さんの持論が展開される。

内容的には、これまでの彼の主張と特に変わることは無いのだけれど、言葉の使い方が 独特で新しいかな?とも思う。博学ぶりもてんこ盛り。そして、図にして表現するのが旨いなぁと思う。

 

「はじめに」では、ハンス・ロスリング(ファクトフルネスの著者)のGapminder.orgから1800年と2019年の世界を比較したデータを引用し、私たちの社会は、「物質的貧困を世界からなくす」という目的はほぼ達成しつつあり、「物資的不満の解消」から「生きがい」や「やりがい」など「意味的価値」が求められるように変化してきた、という21世紀の現状が説明される。
これまでの彼の主張と同じことの繰り返し。

 

そして、いきなり、本書のサマリーといって、4ページにわたって要約が記載されている。
主文だけ抜粋すると、
1 私たちの社会は明るく開けた「高原社会」へと軟着陸しつつある。
2 「高原社会」での課題は、エコノミーにヒューマニティを回復させること。
3 実現のカギとなるのが「人間性に根ざした衝動」に基づいた労働と消費。
4 実現のためには教育・福祉・税制等の社会基盤のアップデートが求められる。

 

山口さんがいう「高原社会」とは、成長曲線の頂点でほぼ飽和し、高原の平地のように水平に展開している線の上の世界。それは、「低成長」「停滞」「衰退」ということではなく、物質的に満たされた、住みよく、優しい、良い世界。

コロナになる前から、世界経済はすでに低成長に入っていた。2021年の経済状況は、別に、コロナで経済が止まったことだけが要因ではない。つまり、「経済とテクノロジーの力によって、物質的貧困を社会からなくす」というミッションは、すでに終わった、といのが山口さんの説明。物資的不満が解消された後も、ずっと「経済成長」を追い続ければ、それは、「ムダ」「過剰」消費の世界になっていく。そうしてでも経済を延長・蘇生させようというのは、不毛なゲームではないのか、と。


物質的成長ではなく、「意味的価値」が得られる社会にシフトしていくべきだと。

第一章で山口さんは、「資本の価値」「時間の価値」はゼロになった、という。金利がゼロと言うのは、資本の価値が無くなったという事だし、長く預金しても金利がつかないというのは時間の価値が無くなったという事だと。

 

たしかに、ある視点から見ればそうかもしれない。ただ、ゼロ、っていうのはちょっと違うな、という気がする。お金の実質価値という切り口からすれば、そうかもしれないけれど。
おなじ1万円でも、10代の時の価値と、30代での価値は違う。物価水準が変わらなかったとしても、その人にとってのありがたみは変わるだろう、っと、私は思っている。
だから、若い時に稼いだお金は、若いときに使った方がいい。

 

第二章では、経済的合理性限界ライン、という言葉がキーワードだ。
横軸に、問題の普遍性、縦軸に問題の難易度を取ったとき、その中に描かれる緩やかな弧を描いた右肩上がりの線。
問題の普遍性と言うのは、市場はどれだけその問題解決を必要としているか。右に行くほど普遍性が高い=市場が大きい。
問題の難易度と言うのは、問題解決するのに、どれくらい「ヒト・モノ・カネが必要なということ。上に行くほど、多くを必要とする。

ビジネスが成功しやすいのは、普遍性が高く、難易度が低いもの。右下に位置する。このカテゴリーのものは、横展開もしやすい。だから、投資対効果が高く、市場を開拓すればどんどん広がるビジネス。

ビジネスとして誰も手も出さず、社会問題が解決されにくいのは、普遍性が低く、難易度も高いカテゴリー。
極めて稀な難病の治療などは、ここに相当する。命にかかる大問題として重要な問題であるけれども、開発費用が膨大過ぎると、一つの企業では抱えきれない。

こういった関係から、経済的合理性限界ラインが引ける、というのだ。

この図解は、わかりやすい。

 

また、市場のニーズというのは、大きく二つに分類され、
絶対的ニーズ:満たされなければ生活が困難になる。一般ニーズ。日常品。
相対的ニーズ:優越感を満たすニーズ。贅沢・奢侈(しゃし:必要な程度や身分を越えた贅沢)。
があるという。

 

相対的ニーズに的をしぼったビジネスは、確かにもうかるだろうが、行き過ぎれば、「ポットラッチゲーム」になるという。
「ポットラッチ」というのは、文化人類学者のマルセル・モースが1925年に著した『贈与論』において紹介した、主にアメリカ先住民の間に見られる一種の儀式。この儀式において部族の酋長たちは、「どちらがより多くの財産を蕩尽できるか」を競うことで、お互いの立場の優劣を決める。つまりボットラッチというのはより気前よく、より大胆に富・財産をばら撒き、破壊した方が勝つという「ゲーム」。「蕩尽の応酬」は、過剰な消費、行き過ぎれば奴隷の殺害にまでエスカレートしたという。
さすがに現代の文明世界で殺人にまで至ることは無いだろうが、めちゃくちゃな消費に走る、というのは想像できなくはない。
「優劣のゲーム」ならば、不要だ。

 

ただ、ゾンバルトの言葉を引用し、「奢侈には二種類ある。一つは、壮麗な聖堂を黄金で飾って神にささげる。もう一つは、自分のためにシルクのシャツをオーダーする

そして、自分のためのシルクのシャツと、神にささげる聖堂では、天と地ほどの差があると。


シルクのシャツは、他者には役立たない。聖堂は時を超えて長く人々に喜びを与える

 

シエナの大聖堂は、長きにわたってそこに存在し、新たに二酸化炭素を出すこともなく、追加で自然を消費することもなく、そこを訪れる多くの人に「至高の体験」を提供することができる。
そういう、奢侈は、意味があるのではないか、と言う。
まぁ、聖堂にお金をかけることは奢侈とも言わないような気もするが、言わんとすることはよくわかる。

日本で言えば、金閣寺か。


第三章では、私たちは何をすればいいのか、ということ。それが、3つのイニシアチブ。
何をするかとは、自分は何をするか、と考えること。
「私たち自身の思考・行動様式をどのように変えるか」
小さなリーダーでいい、自分自身が何をするかを考えて実行する。
もしも、今、世界は悪い方向に進んでいると思っているのであれば、その原因を作っているのは他者でも政府でもなく、自分自身なのだという事を意識する必要がある、と山口さんは言う。
世界は、小さなリーダーシップで変化する。だから、自分だって小さなリーダーシップをとればいい。自分の目指したい社会のために。

 

山口さんの「日本は、市民主導による社会革命を一度も経験せずにここまで来てしまったために、多くの人々は、そのうち政府に素晴らしいリーダーが出てきて変革を主導してくれるだろ」とぼんやり夢想しているだけだと指摘する。

 

「市民主導の革命がない」というのは、まさにその通りで、日本人の社会問題へのかかわり方が特徴づけられているのかもしれない、と最近感じていた。明治維新にしても戦後の復興にしても、市民主導ではないのだ。市民が行動にでたというと、百姓一揆米騒動、、、、くらいか。


自分で、リーダーシップをとるべきだと。世界を変えるのは、小さなリーダーシップだと。

社会を変化させるにも、外を変えるのか、内を変えるのか、といえば、内。自分たちをどのように変えるのか、が大切。

そして、自分の行動としては、やりたいことを見つけて取り組み、応援したいことにお金をつかう。それが小さなリーダーシップ。

日本においても、公害問題への対策などは、小さなリーダーシップから始まったと言えるかもしれない。

 

やりたいことへ情熱を!

事例として、安藤百福さんの話が引用されていた。余談。なんだか、最近、百福さんのはなしにであうことが多い・・・。インスタントラーメンなんて、めったなことでは食べないけれど、ちょっとたべてみるか、、と言う気がしてくる。

megureca.hatenablog.com

最後に、ベーシックインカムの話など、社会保障に関する山口さんの見解で締めくくられる。ベーシックインカムについては、ここで語るとながくなるので省くことにする。

 

盛りだくさんだが、繰り返しも多い。だから、わかりやすいのかもしれない。

言っていることは、不要な経済成長を目指すのではなく、必要な成長を目指そう。

そして、何が必要なのかは自分で考える

とういうことかもしれない。

 

山口さんの本は主張がわかりやすく、読みやすい。

 

読書は楽しい。

 

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ビジネスの未来 by 山口周