『この制御不能な時代を生き抜く経済学』 by  竹中平蔵 

『この制御不能な時代を生き抜く経済学』
竹中平蔵 
講談社プラスアルファ新書
2018年6月20日 第1刷発行

 

竹中さんの著書、図書館の経済学の棚にあったので借りてみた。

2018年の本だけれど、コロナが経済状況を一転させ、トランプ政権がバイデン政権に変わったものの、、、日本としての動きは大きくは変わっていない気がする。今読んでも、十分楽しめた。

 

今の日本にはレジリエンス(=復元力)、生まれ変わる力が必要だと竹中さんは話している。そして、そのためにはショックセラピー、ある程度一気に変えるための政策、ショックとなるような政策が必要であろうと。この本は、ショックセラピーかもしれないと序章でいっている、竹中さんとしては、ショックセラピーを用いてでも、日本の構造改革を進めたいという思いでこの本を書かれたようだ。

 

残念ながら、ショックセラピーは、政策には効いていないような、、、、。それを選んでいるのも私たち国民であり、経済学から政策への反映って、難しいのだなぁ。。。と思ってしまった。

 

本の構成は以下の通り


序章 政策力を競い合う世界
第一章 トランプのレームダック化に備えよ
第二章 リープフロッグを日本のチャンスに変えよ
第三章 第4次産業革命の大波に乗れ
第四章 財務省厚生労働省は考えを改めよ
第五章 今すぐ人材評価を変えよ
第六章 未来にある危機を放置するな
あとがき 次の時代を作るために

 

序章では、世界経済フォーラムが運営するダボス会議に日本の閣僚は誰も参加しなかったという残念な話が紹介される。各国が強烈な政策をアピールするなか、日本の閣僚は、誰も参加せず、なにもアピールできなかった。竹中さんは参加していて非常に残念だった、という話。
日本の閣僚が参加しなかった理由は、国会があるから、、、、と。答弁するのが3分だったとしても、国会のためにグローバル会議への参加の機会を逸するとは、、、。永田町の常識は国益を損ねることにもなりかねない、と指摘する。

竹中さんの危機感が、序章にあふれている。

”世界経済はますます統合化している。米国と中国の双方が保護主義的経済政策を取れば各国が受ける影響は甚大なものがある。中でも心配なのは日本だ。2008年のリーマンショック時、世界で最も打撃を受けた国の一つが日本だった。各国の相場が次第に回復するなか、日本市場の低迷は長らく続いた。さらに2009年には、民主党政権が誕生。有効な手立てを打てぬまま日本経済は弱体化の一途をたどっていった。
日本経済の体力が弱ければ同じような危機的状況に陥る可能性がある。それを防ぐには、平時から地道に経済を強化するしかない。第4次産業革命の潮流の中、民間企業の創意工夫と活力で独自の技術を開発し、それを展開するマーケットを開拓する。そして国はその動きを促進するような政策を実施する。こうした当たり前の姿をしっかりと実行しなければならない。”
と。

 

第一章では、トランプ大統領レームダック化は時間の問題だから、だまされるな、と言う話。レームダックというのは、脚の悪いアヒル。役立たずの役人を比喩する言葉。実際、トランプ元大統領が取った数々の保護主義的施策は、アメリカの一部の地域・人々は歓迎したが、結果的にさらにアメリカの首を絞めることになっている。
グローバルにサプライチェーンが動いている時代、部分的な利権保護のために国として保護主義に走れば、その影響は後に全体に及ぶことになる。
合成の誤謬」ってやつだ。部分的には良くても、全体として間違っている。

 

第二章では、リープフロッグからのヒントを、逆輸入すればいい、と言う話。「リープフロッグ」とは、先進的な技術が後進国において一気に広まる現象を言う。ルワンダで救急ドローンが一気に広がっている、とか。南アフリカで、スマートフォンが一気に広がるとか。収入が安定しない人々は、プリペイド式のスマートフォンが都度利用できて便利なので、一気に広がった、とか。あるいは、銀行口座が持てない人も、スマートフォンの電子決済はできる、とか。その利用方法は、先進国での利用とは違っていたとしても、機能の一部に大きな需要があり、一気に広がる。日本の家電は、何でもかんでもスイッチだらけの機能お化けになっているけれど、必要な機能だけを供えていて、安価であれば、需要はあるだろう。Simple is the best.
また、この章では、日本の海外との関係構築も、課題ありだと指摘する。ブラジルは、日系ブラジル人も多く、いまでも日本語を話せる人が多くいる。だが、いまだに、厳格なビザの規定がある。確かに、ブラジルのビザは、今でこそマルチビザができているが、昔はシングルビザしかなく、出張の度に取り直さなくては行けなくて、不便だった。竹中さんは、そんなことだから、ブラジルにおける日本のプレゼンスは相対的にどんどん下がってしまっている、、、と。大事な貿易相手でもあるはずなのに。

確かに、ビザの必要な国とそうでない国と、、、あまり意識したことは無かったけれど、言われればそうだ。貿易相手として大事な国は、民間の交流も容易な方がいい。

 

第三章では、第四次産業革命の波に乗れ、ということ。イギリスでは、「Tell Us Once」というシステムが導入されているらしい。日本では、引っ越ししたり、親が死亡したりすると、役所、金融機関、もろもろ、ひとつずつ対応しなくてはいけない。それを、役所で一度手続きしたら、どんどん連絡がいくシステムらしい。すばらしい!
そういうことをするためにマイナンバーカードをつくったのではないのか??カードすら普及しない日本。。。コロナの助成金受け取りのために、多少作った人は増えたかもしれないけど。。。
Uberだって、民泊だって、既存業界の反対によって作られたルールのせいで日本では進まない。政府の介入は、既得権益を守ることに目がいっている。だって、そうしないと選挙に影響するから、、、、。
変化できない日本は、残念だ。

車は、人を乗せて走らないと、ただの箱だ。活用するのがなぜ悪い?家だって、住まなければただの箱だ。使って何が悪い??

結局、性悪説を持ち出して、あれが怖い、これが怖い、危ない、とあおって規制する。

好きじゃないな。

 

第四章では、税金に関する話。プライマリーバランス基礎的財政収支は、確かに重要だけれど、財務省がそこで役に立たないことは、よくわかった。年金もろくに記録できていない。竹中さんは、「歳入庁」を作って、取りこぼしているものをなくすこと、ただしく配分するのが必要だといっている。厚労省財務省も、やれていないのだから、今の体制にこだわることはない、ということかもしれない。

 

財務省の友人がいるが、恐ろしく寝ていない。自殺省と言われるくらい、自殺者の数が多い。。。らしい。友人は、正しく活躍していると思うが、みんな、意味ある仕事で頑張ってほしい。

 

第五章では、人材。ここでも、政府の余計な介入を指摘している。JAL東芝の再建に政府が介入するのも間違っていたと。JALANAとなぜ、二つのフラッグシップが必要なのだ?と。東芝に至っては、あれだけの粉飾決算をしておいて、政府もメディアも「不適切な会計」とかいう、わけのわからない言葉をつかい、上場廃止にしなかった。会計には、「適正」と「粉飾」しかない。あきらかな「粉飾」を「不適切な会計」って、なんじゃ??
しかも、東芝にだれも逮捕者がいないのもおかしい、と。ホリエモンは、一発で逮捕なのに。
日本における不祥事の多くは、「無謬性の罠」だという。前任者は間違ったことをしているわけがない、、という思い込み。
あるいは、前任者のことを否定できない、空気、だろう。自分をひきあげてくれた兄貴分に、まさか、「あなたのやってきたことはまちがっていた」とはいえない、、、空気。あるあるだ。

 

そして、第六章では、これからの危機を放置してはいけない、と。高齢化と介護難民、出生率の低下、格差拡大、どれもこれといった決め手の政策に着手されている感じはしない。
ベーシックインカム」の導入が提案されていた。

山口周さんの本でも「ベーシックインカム」が推奨されていたのだけれど、仕組みがよくわからなかった。今回、ちょっとわかったのは、「ベーシックインカム」を導入するということは、社会保険制度全部を変えるという事。

 

生活保護の場合、所得を得た分だけ支給額が減らされる。つまり、働くことに負のインセンティブが働く。基本的に救済制度なので、人目を気にしてできれば受けたくないと思う人も多い。
ベーシックインカムの場合、働かなくても給付されるが、働けば働いたぶんの一定割合収入が増える仕組みにできる。これなら誰もが抵抗なく受け取れ働く意欲も削がない。

ベーシックインカムが導入されると、所得控除が廃止され老齢基礎年金や児童手当雇用保険生活保護などをベーシックインカムに置き換えることになる。”

という事らしい。

なるほど、老齢基礎年金 、今なら65歳から年間70~80万円うけとれるやつがなくなる。その代わり、ベーシックインカムとして、若い時から受け取れるなら、その方がいいじゃないか、と言う気がする。

でも、たしかに、この変換は大変そうだ。

 

経済学は、政策に反映させても効果が出るまでに10年単位で時間が必要だろう。それでも、何か手を打たないことには、現状は打破できない。

 

経済学を学ぶというのも大事だなぁ、と思う今日この頃。

学ぶことがたくさんあるというのは、楽しいことだ。

 

読書は、楽しい。

 

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『この制御不能な時代を生き抜く経済学』 竹中平蔵