『時間は存在しない』 by  カルロ・ロヴェッリ

時間は存在しない
カルロ・ロヴェッリ
富永星 訳
2019年8月30日第1刷発行 (原書 2017年)
NHK出版

 

物理の本であり、歴史の本であり、文学のような本だった。

 

著者のカルロ・ロヴェッリは理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。大学卒業後パドヴァ大学大学院で博士号を取得。イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。本書はイタリアで18万部発行、35カ国で刊行決定の世界的ベストセラー。タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。

 

訳者の富永星は、1955年、京都府生まれ。京都大学理学部数理科学系卒業。一般向け数学科学啓蒙書などの翻訳を手がける。 

 

解説は、吉田信夫。1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学博士課程修了理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。

 

知り合いに、カルロ・ロヴェッリの「世界は『関係』でできている」をすすめられて読んだのだが、なんだかムズムズと面白そうな感じがするのだけれど、一度読んだだけだとイマイチ理解できている気がしない。二度目を読み始め、いや、前作を読んでみよう、とおもって、こちらの本を手にした。
いま、本屋に行くと、かれの『世界は「関係」でできている』の赤い表紙と、本書『時間は存在しない』の青い表紙が並んでいる。けっこうなインパクトの二冊だ。

本書は、
第一部 時間の崩壊
第二部 時間のない世界
第三部 時間の源へ
と言う構成。

 

目次をみても、????が並ぶ。
読み通して思ったのが、なんて登場人物が多いのだ!ということ。
それだけ、多くの文献に基づいてかかれているのだが、物理化学の難しい話ばかりではない。比喩に引用されるのは、文学だったり、音楽だったり、聖書だったり。。。
通常、1ページで収まる私の読書マインドマップは、マインドマップではなく、3ページに及ぶ学習帖のようになってしまった。

とても一言で覚書もかけない。

とりあえず、覚書。

 

第一部の時間の崩壊が理解できると、残りもついていける気がする。

 

まず、わたしたちが地球上で言っている時間というのは、山の上と平地では速さが違うということ。これは、実験的にも確認されている。

「過去、現在、未来」は、「親、自分、子供」で考えると、自分「現在」として、上と下に広がる世界。そして、、誰かにとっての「現在」と、誰かにとっての「現在」は、別々に存在している。だから、「現在」というのは、その人にとって自分を取り巻く泡のようなもので、人それぞれが、それぞれの現在を持っている。しかも、ゆらぎ、、傾きをもって時間を持っている。

 

本書には、図解されているので、図でみれば、分かりやすい。
砂時計が、たくさん散らばっている感じ。砂時計のくびれの部分が現在。様々な傾きで散らばっている。ブラックホールに近づくと、砂時計の斜めの面が、ブラックホールに並ぶ、、、、。ちょっと、言葉では言いにくいのだが、ブラックホールの円柱そって、砂時計が決まった向きにぴたっとくっついている感じ。。。そこから抜け出すには、現在の水平方向へ飛びださないといけない。


言っていることが意味不明だろうか。。。
でも、そういうこと。

 

そして、地球にいる自分と、宇宙にいる兄弟とでは、「今なにしているの?」という会話は意味がないし、成立しない、と言う話。宇宙に行くと「今」がなくなってしまう。今夜わたしたちが見る星の輝きは、「今」みているけれど、「今」放たれたわけではない。

そうか、時間って、人が「時間」ってっているだけだ。

 

日本が、今朝の8:00でも、ロンドンでは8:00ではない。そして、東京の8:00福岡の8:00は、明るさが違っていて、身体が浴びる光の量も異なる。
標準時間帯なんてものは、1883年に出来たに過ぎないのだ。電信、列車という技術の発明で、時刻表をつくるためには、標準時間が必要だったということ。

と、時間とは、絶対的なものではない、と言う話。

そして、時間をめぐってギリシャ哲学の時代から現代まで、ずーーっと研究者はその謎にとりくんできた。


結論は、
「時間の謎は、宇宙の問題ではなく、私たち自身の問題」となっているのだが。これまた、難しい。


でも、過去から、哲学者、数学者、物理学者、政治家、多くの人が時間の謎に向きあってきたけれど、結局のところ、正解がわかっているわけではない、、、という事なのだ。

 

そして、本当に、多くの人が登場してくる。

キーワードとして、覚書。
アルベルト・アインシュタイン一般相対性理論。大学教授になる前、スイスの特許事務所で働いていた。時計の同期に関する訴訟にかかわった。のちに、アリストテレスニュートンの考えくを統合し、「重力場」を提唱。量子力学に理論づけた。

アナクシマントロス古代ギリシャの哲学者、「地球は浮いている」事を知っていた

コペルニクス:地球は回っている。

ニュートン:力学の基礎

マックスウェル:電磁気現象

シュレディンガー:量子現象 (「世界は『関係』でできている」での主な登場人物)

ハイゼンベルク量子力学 (「世界は『関係』でできている」での主な登場人物)

二コラ・レオナール・サディ・カルノールイ16世に死刑宣告をしたロペスピエールの友人、ラサール・カルノーの息子。蒸気機関車

ルドルフ・クラウジウスエントロピー。熱力学第二の法則。熱は熱い物体から冷たい物体にしか動かない → 物理の式で唯一、過去と未来の認識が必要。時間の概念。

ルートヴィヒ・ボルツマン:ミクロな状態では、過去と未来の違いは消えてしまう。

アリストテレス:時間とはなんぞや?

ニュートン:絶対的な時間と、相対的な時間があるはず。

ライプニッツ:絶対的な時間は存在しない!

ロジャー・ペンローズ:時間と空間。相対性理論にかけているのは、量子の相互作用で起こることの記述。

アウグスティヌス:時間は今ここにはない。過去も未来もない。わたしたちの中にある。

カント純粋理性批判。空間も時間も知識も、アプリオリ(先験的)な形式。

ハンス・ライヘンバッハ:科学哲学者。時間の向き。

ヘーゲル:時間を超越した己

まだまだ、たくさん人がでてくるのだが、、、、、、キーワードだらけで、収集がつかない。。。


最後の章の文章を引用しよう。


「世界の出来事を統べる基本方程式に、過去と未来の違いは存在しない」
「時間が流れるリズムは、重力場によって変わる」
「この世界は、量子的であって、ゼラチン状の時空もまた近似でしかない」
「世界の基本原理には空間も時間もなく、ある物理量から他の物理量へと変わっていく過程があるだけだ。」
「わたしたちのこの世界は物ではなく、出来事からなる世界なのだ」

わたしたちには、旧約聖書の『コヘレトの言葉』にあるように、生まれる時があり、死ぬ時がある

 

結局、あらゆる学問と言うのは、人間が自然の謎に向き合う事から始まり、哲学、宗教、科学、、と、呼び名は変わっても、なぞとして立ち向かう相手は同じなのだ、と言う気がした。

 

たくさんの人がでてくるので、その人たちの関係性が、物語のようにも読める。師弟関係だったり、研究仲間だったり、はたまたライバルだったり。

 

面白い本を書く人だなぁ、と思う。

今更ながら、やっぱり、物理は楽しい。

宇宙も楽しい。

 

そして、読書は楽しい。

今年は、あと何冊読めるかな?

存在しない時間のカウントダウン。

 

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『時間は存在しない』