『ハイコンセプト』 by ダニエル・ピンク (大前研一 訳)

『ハイコンセプト』
「新しいこと」を考え出す人の時代 富を約束する「6つの感性」の磨き方
ダニエル・ピンク 著
大前研一 訳
三笠書房
2006年5月20日 第1刷発行
A Whole New Mind 2005)

 

友人が読んでいて面白そうだったので図書館で借りてみた。

著者のダニエル・ピンクは、ノースウェスタン大学卒業、エール大学ロールスクールで法学博士号 取得。世界各国の企業、大学、組織を対象に経済変革やビジネス戦略についての講義を行っている。また、『ワシントン・ポスト』『ニューヨーク・タイムズ 』『ハーバード・ビジネス・レビュー』他、精力的に執筆。

大前研一さんが訳していて、最初に訳者解説もついている。大前さんと著者は、ドバイで開かれた「インターナショナル・リーダーシップ・サミット」で、クリントン元大統領やゴルバチョフソ連大統領らと一緒に講演をした者同士、と言う関係だそうだ。

 

大前さんの言葉。

「私はこの本の翻訳を二つ返事で引き受けた。それほど、これからの日本人にとって大きな意味があるからだ。
なぜ、この本が現在の我々にとって重要なのか。
本書には、日本人がこれから一番身につけなければならない『右脳を生かした全体的な思考能力』と、『新しいものを発想していく能力』そしてその実現の可能性を検証する左脳の役割などについてわかりやすくまとめられているからだ。
これからは、これまでの思考の殻を破った『ハイコンセプト(新しいことを考え出す人)の時代』であり、本書は、そういう『突出した個人』が持つ『6つの感性』の磨き方を示している 。」

と。

 

2006年の本で、その当時に、20世紀の情報化社会(第三の波)の後に来る、21世紀の新しいうねりを「コンセプチュアル社会」(第四の波)とし、そこで生き抜くためのハウツー本、という感じだろうか。
ちなみに、第一の波は、18世紀の農耕社会。第二の波は、19世紀の産業社会だ。

 

前半は、第四の波が来ているという話。そして、第三の波、情報化社会の時には、論理・分析をつかさどる左脳主導思考型のナレッジワーカーが活躍したが、コンセプチュアルな時代になると、ゲシュタルト・経験の統一的全体・感情の表現などをつかさどる右脳主導思考型がより重要になってくる、と言う。
右脳を使って新しいことを考え、左脳で理論的にも考える。そして『ハイコンセプト』、新しいことを考えられる人が活躍できる時代になる、と言う話。

デザイン思考を大事にするという考え方と共通していると言えると思う。

そして、後半は、『ハイコンセプト』に必要な6つの感性の説明。

1.「機能」だけでなく「デザイン」
2.「議論」よりは「物語」
3.「個別」よりも「全体の調和(シンフォニー)」
4.「論理」でなく「共感」
5.「真面目」だけでなく「遊び心」
6.「モノ」よりも「生きがい」

「デザイン」「物語」「全体の調和(シンフォニー)」「共感」「遊び心」「生きがい」

 

2021年の今読んでみると、今では多く語られている内容、ともいえる。
2006年にあっては、結構、斬新な本だったのかもしれない。 
多く語られて、多くの人の意識にのぼってはいるけれど、実行できているかどうかは、別問題だ。

 

それぞれの感性について、実際にその感性をビジネスにした成功例や、各感性を磨くための講座、訪れるべき場所、本、ウェブサイトなどがまとめられている。アメリカを中心にした紹介だが、本はいくつか翻訳本もあって、参考になるものもありそうだ。

 

「デザイン」を取り入れた成功例で、景色の良い病室、と言う話が紹介されている。太陽光がはいる明るい病室の方が、治癒が早いという話。デザインがよいと、環境にもやさしいとか。
気になるデザインがあれば、メモをしておこう、と薦めている。

 

「物語」が有効である例として、本書の最初の章にでてきた、ある数字とエピソード、覚えているか?と。確かに、数字だけ思い出せと言われてもぱっと思い出せないけれど、エピソードは思い出すことができた。
数字は、今後10年間にアメリカから後進国へ移ってしまう賃金の総計は。1360億ドル。
エピソードは、コンセプト時代におけるジョン・ヘンリーは誰か? チェスの世界チャンピオン、ゲーリーカスパロフの話。(IBMディープ・ブルーに人間がチェスで負けた話)
そして、医者も、患者の話を物語として聞ける人の方が、患者の命を救える可能性が高いとか、自分の人生を語るというのは、物語で説明する力をつける訓練になる、と言う話。

 

「全体の調和」は、言うまでもないだろう。部分最適より全体最適を考えられる人の方が、ビジネスで成功できる。ゲシュタルト、ホリスティックと言った言葉が並ぶ。
比喩(メタファー)をうまく使えるようになるにも、全体調和の思考が大切。
面白いのが、FedExのロゴの紹介があった。言われるまで気が付かなかったのだが、FedExのロゴのなかに、矢印がかくれているって!ほほぉ!!気が付かなかった。。。Eとxの抜きが矢印なのだ。へぇぇぇ!
同じようなもので、HERSHEY'Sのキスチョコも文字にキスチョコがかくれていると。へぇぇぇ!確かに!KとIのあいだに、キスチョコがいる。
そんな風にみたことはなかった。

 

「共感」は右脳が働く。面白いのが、人は赤ちゃんを抱っこするときに、左手に抱く事が多いと言う話。そうすると、視線を左にむけるために頭を左にかたむけることになり、右脳が働きやすくなるそうだ。右利きだと、右手を自由にしておきたいから、という事だけではないらしい。身体の左を使うのは右脳。右脳を使っているとき、共感が生まれやすい、と。面白い!

 

「遊び心」は、ゲーミフィケーションで勉強しよう、という話と似ている。アメリカ陸軍が、軍人への興味を持ってもらうためにテレビゲームを開発した話が紹介されていた。インドの「笑い」の研究から「笑いヨガ」の話。遊んでたのしんだり、笑っているときというのは、右脳が働いているらしい。

 

「生きがい」は、日本人には、結構馴染みのある言葉だと思う。「IKIGAI」と英語でも言われたりするくらいだから、もともと日本発の言葉なのかもしれない。とういか、儒教的なのかもしれない。
人は、だれでも良い人生をおくりたいと思っている。良い人生と言うのは、幸福であり、自分自身が生きていることに意義をみいだせる人生。「生きがい」を感じる人生。
だから、「モノ」ではなく、「生きがい」を求める。ビクトール・フランクル『夜と霧』の話がでてくる。アウシュビッツで彼が生き残れたのは、「生きがい」を探したから、と。究極の話といえる。


6つの感性、しっくりくる。

仕事の説明資料を作るときにも、この6つを意識するといいかもしれない。

 

ちょっと古いけど、参考になる本だった。6つの感性、書いて壁に貼っておこう。

 

読書は楽しい。

2022年も、たくさん読もう!

 

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『ハイコンセプト』 「新しいこと」を考え出す人の時代