『中国が世界を攪乱する AI・コロナ・デジタル人民元』
野口悠紀雄
東洋経済新聞社
2020年6月4日 発行
図書館でみつけて、借りてみた。
野口さんの本を読むのは、久しぶり。
野口悠紀雄さんは、1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省入省。72年イエール大学 Ph.D( 経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究所教授などを経て、2017年より早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。
私にとっては、「『超』整理法」( 1993年)の人。私は、今でも色々なモノの整理に時系列整理を取り入れている。メールもフォルダに分けたりしない。時系列のまま。
Megurecaも、内容によって分類したりしないのは、日にちがはいっているから時系列そのものだし、キーワードで見つければいいと思っているから。
本書は、2019年7月~2020年3月にWeb版『現代ビジネス』へ寄稿したものがもとになっている。2018年に始まった米中貿易戦争から、これからの世界を展望する、と言うつもりだったのだろう。だが、単行本でこうして出版するころには、世界は新型コロナウィルスという予期せぬ出来事に対峙することになってしまった。ということで、米中対立ということだけでなく、コロナについても触れられながら、中国と言う国について書かれた本。
Amazonの紹介文を引用すると、
”2018年以降、米中貿易戦争が世界経済に大混乱をもたらした。
2020年、新型コロナウイルスの感染が世界に広がった。
感染源とされる中国では経済活動が徐々に平常化しているが、欧米をはじめ各国では依然、予断を許さない。
これらのできごとを通じて見えてきたものは何か?
中国は人類の長い歴史において世界の最先端にいたが、
16世紀頃から状況が変わり、とくにアヘン戦争以後は衰退がめだっていた。
しかし、最近の中国の躍進ぶりを見ると、昔の歴史が復活してきたように見える。
超長期の観点で見ると、これは「歴史の正常化」なのだろうか?
歴史の正常化とは、単に中国が大国化するというだけでなく、社会の基本原理に関する対立が復活することなのかもしれない。
分権的で自由な社会を作るのか、集権的で管理された社会を作るのか。
米中経済戦争やコロナとの戦いの本質は、未来社会の基本原理をめぐる戦いだと捉えることができる。
われわれは、いま、歴史の重要な分岐点にいる。”
野口さんは、歴史の潮流として、古代ローマ共和国からアメリカまで、自由と寛容を強みに発展してきた、という。一方で、中国は、官僚国家であり非寛容の国だ。そんな国が、世界の中心になることなんてあるのか???
なりそうだから、まさに、歴史の分岐点、と言うわけだ。
中国は、覇権国になるつもりでいる。中国は、未来世界のヘゲモニー(主導的地位・指導権)を握れるのか??
個人的には、原論の自由のない国は、それ以上は発展しないと思っている。というか、そうであってほしい、、、と思う。
でも、本書の中で語られるのは、中国が強権的国家であるからこそ、コロナ感染地域の封鎖が迅速に可能で、国内での感染拡大を比較的早く抑えられたこと、フィンテックの分野でもいまやアメリカを上回る会社を育てていること、監視カメラによるビッグデータが監視社会になっていたとしても、それがAIの進歩に有利に働いていること、などなど、、、。集権的で管理された社会として、巨大化し、力を持ちつつある、、、。
様々な数値データと共に、野口さんの自論が展開される。
関税のかけあいによる米中貿易戦争は、数字で見ると、一応、輸出依存の低いアメリカに軍配があがっているようだ。アメリカの経済への影響は小さかったが、実は日本は中国と同様に悪化している。
米中の問題は、米中間だけの話ではない。数字でもそれが示されている。
興味深かったのが、仮想通貨の話。アメリカもEUも、Facebookの提案した仮想通貨「リブラ」にNoをつきつけた。中国にしても、「リブラ」が出回れば、仮想通貨として自国資本が海外に流出してしまう恐れがあった。「リブラ」がNoとなったことは、中国にチャンスをあたえることになった。つまり、中国は人民元のデジタル通貨を仮想通貨とする計画を実行する可能性が高まったということだ。ビットコインは、すっかり投機目的となって価値が安定せず、通貨として使われるケースがないままだけれど、人民元デジタル仮想通貨が「リブラ」より先に出回れば、世界のお金の動きは、中国がすべてを把握しかねない。
野口さんは、「リブラ」を拒否したのは、大失敗だ、と言っている。
ハイテク分野でも、中国の衛星測位システム「北斗」の衛星数は、2019年時点でGPSの31基をぬいて、35基。EUの衛星が26基、ロシアが24基、インドが6基、日本が4基。
ファーウェイの排除をしても、何の意味があるのか?
次世代インターネットのインフラだって、中国に支配されかねない。
毛沢東の「文化大革命」は、多くの餓死者をだした改悪だった、と理解していたのだけれど、その時、国有企業から株式会社に移行したというのが、その後の中国の成長には大きな意味があったということが説明されていた。
国有企業を民営化することで、リスクに挑戦する組織ができた。それが今の中国の強さのもとになっているという。
リスクに挑戦しない組織は、衰退する。
そういうことか。
人間もそうだ。
挑戦をやめたら、、、衰退する。
それにしても、本当にこれから中国はどうなっていくのか?
本書の中で野口さんは、
「2040年には、中国は日本より豊かな国になっている可能性がある」
と言っている。
いまから、18年。きっと、あっという間だ。
いやいや、、、やっぱり、、、、やだ。
なのに、日本にはどうも危機感がない。
野口さん曰く、「支配されないためには、強い経済力を持つ必要がある」と。
その通りだと思う。
さて、どうやって、日本に強い経済力を復活させるべきなのか?
その答えは、本書にあるわけではない。
それぞれ、考えよ、という問題提起の本なのだと思う。
『チャイナ・アセアンの衝撃』『米中戦争前夜』もインパクトあったけれど、本書もなかなかのインパクト。
『現代ビジネス』の記事だったということなので、情報提供のための本と言えると思うが、中国について、また少し、勉強になった。
そして、2022年1月6日の朝刊のニュース、中国政府は3月からインターネットでの布教活動禁止、だと。。。。日経新聞の記事によると、中国は、プロテスタント6000万~8000万人、カトリックが約1200万人、イスラム教徒が約2100万人。共産党員が9500万人というから、政府としては若者への宗教の浸透を警戒しているのだろう。
見たくないから見ない、ではなく、ちゃんと見ないとな、と思った。
そして、寛容で自由な社会、リスクにチャレンジできる社会、そんな大きな目標を一つ掲げておかないといけないな、と思った。
うむ。
読書は学びだ。
読書は、楽しい。