真贋の森
松本清張
平成25年2月25日発行
角川書店
( 初出: 中央公論新社 1976年6月1日)
『物数寄考』を読んでいて、本書が出てきたので読んでみた。Kindleで購入。元々は、1976年の作品。
何年ぶりかに松本清張を読んだ。何十年ぶりかもしれない。
面白かった。推理小説ではない 。
最初から結末が分かっているような話であるのだが、どう展開していくのかが、ドキドキワクワクするような 小説。主人公のアカデミアの権威に対する反骨みたいなところが、共感してしまう。
人間の人間臭さが赤裸々にむき出しになっている。
出てくるだれもが、様々な欲望でいっぱい。
認められたい。
認められないのは、奴らのみる目がない。
オレはもっとすごい。
認めろ。
いつか、認めさせてやる。
そんな野心と、どこかで小心と。
面白いストーリーだった。
以下、ネタバレあり。
あらすじ。
主人公、宅田伊作は、白髪まじりで、見た目にはぱっとしないような中年を過ぎた男。家庭があるわけでもなく、飲み屋の女のところへ時々通う、しがない中年男って感じ。でも、実は、骨董の鑑定屋からも頼りにされるほど美術鑑定や、美術センスの確かな腕の男。だが、本人は、美術界の権威に気に入られなかったがために、世間から埋もれた人生を送らされる羽目になったと思っている。その恨みの相手は、本浦奘治教授と教え子の岩野祐之。
ある日、古本屋で本浦奘治の著書が5冊も並んでいるのを見つける。
「伸びた白髪まじりの頭を乱して、よれよれの単衣ものを着て下駄履き出こうして立っているみすぼらしい現在の俺にしたのは、文学博士本浦奘治」と、恨み節をつぶやく。
自分が尊敬していた津山先生と本浦との仲が悪かったが為に、自分は干されたと。
日本美術史の狭い世界を思い起こし、十数年に起きた偽画事件を思い出す。
そして、自分の代わりに能力もないのに偉そうにしている岩野を貶めるための計画を思いつく。
権威への反感、恨み、自分よりうまく立ち回った者への妬み。
偶然、付き合いのある鑑定屋から見せられた絵が、計画実行の一歩につながる。それは、出来はいいが、贋作である。でも、自分には見抜けても、岩野のような才能のない男にはわかるまい。。。
鑑定屋に、その贋作を描いた人物を探させる。そして、その男、酒匂鳳岳に徹底的に浦上玉堂の画風を教え込み、贋作を描かせる。いくつもいくつも描かせる。そして、だれも贋作と気づかないまでに腕をあげていく酒匂鳳岳。
俺の計画は、この贋作を大々的に発表して、岩野に素晴らしいと言わせしめること。
そして、後に、贋作だと告発する。。。。岩野の権威は地に落ちるはず。。。。
妬みから始まった計画。出世したいと思う煩悩、認められたい欲望、、、、様々な人間の想いが交錯し、その計画は、、、、。。
と、最後のネタバレはやめておこう。
主人公の計画は最初から読者にわかるようなヒントがあるのだが、最後まで、ドキドキして思わずあっという間に通読。
面白かった。
権威へ反感と反抗というテーマは、昭和も平成も、令和も変わらないものかもしれない。昭和のストーリーながら、面白い。
浦上玉堂って、知らなかったなぁ。
美術作品が発掘されて、市場にでるまでにはどんな手順があるのか、なんてことも勉強になった。まぁ、昭和の時代の話だが。
松本清張といえば、サスペンス推理小説というイメージが強いけれど、これはまた、なかなか面白い一冊だった。
本書には、他、4編の短編がおさめられている。どれも、人の心の闇をむき出しにするなぁ、と思った。
さらっと読める。
こういう本も悪くない。気分転換になった感じ。
読書は楽しい。