『カルロス・ゴーン経営を語る』  by カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス

カルロス・ゴーン経営を語る
カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス
 高野優 訳
日本経済新聞社
2003年9月8日一版一刷
2003年9月18日二刷


佐藤優さんが、『危ない読書 教養の幅を広げる「悪書」のすすめ』で、すすめていた本。

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カルロス・ゴーンは、いまでは日本から逃亡した犯罪者扱いだが、佐藤さんは、かれが日産を立て直したのはまぎれもない事実であり、ただの強欲な外国人、としてしまうのはもったいない、といっていた。

2003年の本。ほぼ20年前の本であり、その後の様々な世界、日本、日産、カルロス・ゴーンに起きたことを考えると、当時はそう思ったのね、、と思う内容もないことは無いが、カルロス・ゴーンが、どのような経緯で日産の経営者となり、どのように再生させていったか、ということがよくわかる本。

まぁ、本人が言ってることで、真偽はわからないけれど、、、、当時、本気で日産を再生させようと、自分の情熱をかけ、進退をかけて頑張ったことは間違いない。

 

カルロス・ゴーンは、1954年、ブラジル生まれ。父親方の祖父がレバノン出身で、ブラジルに移住。レバノンカトリックが多く、なかでもマロン派という忠誠心を大事にする宗教観なのだそうだ。「祖父は、あの時代の開拓者には珍しく、非常に清廉潔白な人で、誰からも尊敬されていました」と、家族愛、宗教観を語っている。忠誠心を大事にする。。日本から脱走したときは、どんな忠誠心でいたのだろう、、、、なんて思ってしまう。祖父を見習った、開拓者精神への忠誠心だったのか?

 

17歳の時、フランスのエリート学校へ。1978年、ミシュランから、「ブラジルでの事業立ち上げのために」ということで入社の誘いを受けて、ミシュランに入社。ブラジルは自分が生まれ育った国であり、多様な人種が混ざっているところに、居心地の良さがあったのかもしれない。入社後、すぐにはブラジルには飛ばず、フランス、ドイツで様々な経験を積み、27歳でブラジルへ。その後もアメリカへと、各国でミシュランの業績に貢献することになる。社長にも頼りにされ、18年もつとめたミシュランだったが、同族経営のために自分が社長になる道はかぎりなく狭い。1996年、ルノーからの誘いを受けて、ミシュランを退社し、ルノーで働くことにする。自動車メーカー各社が合併で巨大化していくなか、ルノーもどこか合併先を見つける必要性に迫られていた。日産は、経営立て直しの為に提携先を模索中で、最終的には、1999年、ルノーと日産の提携に至る。

カルロス・ゴーンが日産にきて、「NRP:日産リバイバルプラン」を記者発表したのは、1999年10月18日。

確かに、当時、日産に外人が乗り込んできた!みたいな騒ぎになった。食品製造メーカーにいた私にとっては、自動車業界はそんなに興味の対象ではなく、特に注視していた記憶はない。なんとなく、他人事のように、外国人が社長って、大変だろうなぁ、、くらいに思っていた。1999年、私もまだドメスティックにどっぷりつかっていた頃だった。

本書の中盤が、カルロス・ゴーンが、どのように日産を再生していったか、ということが、本人の言葉と、共著者フィリップ ・リエスの言葉で語られる。

今でも経営を志すものには、参考になる言葉はたくさんある。

カルロス・ゴーンは、フランスのルノーから日産に乗り込んだ他のメンバーに、
日産を変えようなどと思うな。日産を立て直す手助けをする。それに尽きる
と言う趣旨の事をいっていたそうだ。

提携や合併の時に、重要な考え方だろう。
自分たちの考えを押し付けるのではない。方向性を示し、実行するのをサポートする。 
コンサルタントもしかりだ。

最初に、当時の日産の問題点が指摘されている。
・収益性が低い
・ユーザーを考慮に入れない発想
・危機感の欠如
セクショナリズムの弊害
・ヴィジョンがない

 

1999年頃、日産にかぎったことではなく、日本の多くの製造業が抱えていた問題ではないだろうか? いや、2022年の今も変わらず同じような問題が、企業の危機の原因となっている気がする。
人は、危機が本当に自分自身に降りかかるまで、その危機を見て見ぬふりをするものだ。

 

カルロス・ゴーンは、これらの問題を解決するためにクロス・ファンクショナル・チームなるものをつくり、実行へつなげていく。
セクショナリズムを打破し、部門を越えて一つの目標「NRP」を実行するためのチーム。
事業の発展、購買、製造、研究開発、販売とマーケティング、一般管理、財務とコスト、車種削減、組織と意思決定プロセス、それぞれを担当するチームを作って、率直に話し合い、共通目標にむけて、行動していく

カルロス・ゴーンが打ち出した共通目標「NRP:日産リバイバルプラン」は、次の3つがメインだった。
① リバイバルプラン着手の初年度に黒字化
②  3年後までに有利子負債を半額に削減
③ 同じく3年後までに営業利益を4.5%に上げる

 

結果、日産は目標を達成したのだから、カルロス・ゴーンのリーダーシップと、クロス・ファンクショナル・チーム方式は成功したのだろう。

組織運営をするうえで大事なことや、日本企業として意識しておくべきことが結構たくさん参考になる。

 

覚書。

・現地に任せる。任せることで、責任の所在を明らかにする。さもなければ、「現地の人々は、『本社がこうしろと言ったので、その通りにやりました。結果はよくありませんが、私たちの責任ではありません』というでしょう」、、、と。

 

・日産を再生させるのは、日本人。ルノーのメンバーは架け橋をつくる。

 

・経営者は、自分でコントロール出来るうちに引退するべき。時代が変わり、適切な判断が出来なくなったと思ったら、「過去の人」と言われる前に、後任に任せるべき。

 

・大人にとって、外国へ行って言葉ができないというのは、誰かを頼らないと生活が出来ず、自分が退化してしまったように感じるもの。 言葉は大事

 

・不健康を認めなければ、健康になれない。認めなければ強力な解毒剤は使えない。経営もしかり。

「日本の人々は、どうやったらよいのかわからないでいる。そしてただ体面を失いたくないという気持ちで、現状を認めるのに抵抗する。」

 

計画を発表するときは、全体を発表するとき。一部の情報の一人歩きは命とりになる。

 

・全員一致でないと前に進まないような日本式コンセンサスは、迅速行動の足かせでしかない。かつ、何もしないことの言い訳になってしまう。

「日本式コンセンサスは、隠れ蓑にすぎないのだ。だが、高度成長経済のあと、組織が次第に動脈硬化を起こして、日本の多くの企業が官僚主義的な体質になってくると、日本式コンセンサスというのが、自身がなく、能力にも欠ける経営陣が、何も決定しないですませるための言い訳に使われるようになる。」

 

・「公平」という概念を、入社した人一律ということではなく、貢献した人への公平という概念に変える。「努力の文化」から「結果の文化」へ。

 

などなど。
そりゃそうだよな、と思う事が結構ある。

また、日本の悪い文化(と、カルロス・ゴーンが言っていること)があげられていて、結構、耳が痛い。
・責任を曖昧にする文化
年功序列文化
・終身雇用
・世代交代がすすまない

 

責任を曖昧にする文化というのは、「会社がうまくいかないのは、他の人のせいだ」とすることにつながる、という。
それはそうだ。

 

「そこは、そんなに白黒つけずに、大人の判断で・・・」なんていうのは、丸く収まっているかのように見えて、何も解決していない。そして、解決したふりをしている裏に、誰かの我慢があるかもしれない。
仕事の白黒と人格の白黒はちがうのだから、やはり、仕事は白黒つけないとなんだか悪いものが残る気がする。でも、そうしようとすると、居心地の悪い思いをすることがあるのが日本企業の文化にある。でも、見て見ぬ振り、自分が我慢すればいいや、、、はサステイナブルではない


「No」という勇気、責任を明確にする勇気、その上で、自分の責任をしっかり果たす責任感が大事だと思う。

 

日本に限らず、組織に限らず、人として大事なことは、
互いの相違点を確認してその価値を認め合うこと。
 相手を尊重した上で率直に語り、また相手の言うことに真摯に耳を傾けること。

それは、万国共通だと思う。

 

うん、結構、いいことも言っている。
そりゃそうだ、一時は、時代の寵児のようにもてはやされたのだから。ただ、本書の中には、それは当時の日本がリーダー不在という環境だったから、、ということも言っている。


日本を去るときの去り方が、残念だ。
でも、これも、日産の言い分、検察の言い分、カルロス・ゴーンの言い分、それぞれのいい分があるのだろう。

まぁ、今のところ、私の生活には何も影響がないので、特に追いかけるつもりもないけれど、、、。

 

なかなか、面白い本だった。
半分くらいは、うんうん、と思って読める。 

 

肯定できることも、否定したくなることも、自分はなぜそう思うのかを考えながら本を読むというのは、なかなか、充実感がある。

佐藤さんの教えは、すごい。

 

読書は楽しい。

 

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カルロス・ゴーン 経営を語る』