私にふさわしいホテル
柚木麻子
新潮文庫
平成27年12月1日発行
図書館の棚で見つけて借りてみた。
なんとなく時間潰しに薄い本を探していて見つけた本。
解説も含めて 282ページ。
柚木麻子さんといえば、わたしにとっては、『ナイルパーチの女子会』が、すごいインパクトだった。そんな柚木さんの本だから、借りてみた。
柚木麻子さんは、1981年、東京生まれ。2015年の『ナイルパーチの女子会』は、山本周五郎賞を受賞。
歯に衣着せぬ物言いというのか、そこまで人間の本性をさらけ出すか、というのか。世の中を冷静に見ていると言えばそうだろうし、むき出しの欲望をここまで言葉にするか?!という感じもある。人の醜い部分を表現することで、それでもに人は生きていくんだというたくましさを文字にしている感じ。
本作は、ちょっと、リアルな大人の承認欲求といういやらしさと、一生懸命さにホロリとするような、、、。思わず、苦笑いしてしまうような、一冊。『ナイルパーチの女子会』は、笑えないほどダークなリアルだったけれど、これは、なかなか、愛も友情も、ありえないほど大胆な行動があって、笑いがある。
さーーっと読んでしまったが、なかなか、筋肉質な感じ。
裏表紙の紹介文には、
”文学新人賞を受賞した加代子は、憧れの〈小説家〉になれる……はずだったが、同時受賞者は元・人気アイドル。すべての注目をかっさらわれて二年半、依頼もないのに「山の上ホテル」に自腹でカンヅメになった加代子を、大学時代の先輩・遠藤が訪ねてくる。大手出版社に勤める遠藤から、上の階で大御所作家・東十条宗典が執筆中と聞き――。文学史上最も不遇な新人作家の激闘開始!”
と。
目次もなかなか面白い。
第一話 私にふさわしいホテル
第二話 私にふさわしいデビュー
第三話 私にふさわしいワイン
第四話 私にふさわしい聖夜
それぞれ、主人公が自分の夢の実現のために、奮闘する姿が描かれる。
以下、ネタバレあり。
主人公は、小説家を目指す女性、加代子。昭和の文豪が愛する「山のホテル」が舞台で物語は始まる。まだ売れない小説家でありながら、何が何でも原稿の掲載にこぎつけるために、大手出版社の「新人賞」を受賞するために、、ありとあらゆる手段を尽くす、、、。
自分の気持ちをアゲアゲにするために、自腹で「山のホテル」に泊まる。貧乏なのに。そう、文豪の愛したこのホテルこそ、私にふさわしいホテル、というわけだ。
自分の夢をかなえるため、加代子が尽くすその手段の取り方が、半端ない。
文壇の大御所への「原稿落とし」作戦。大学の先輩でもある編集者・遠藤から聞いた、自分の上の部屋で大御所が執筆のための缶詰めになっているという情報。彼が原稿を落とせば、彼女の作品が雑誌に掲載される。そのチャンスをつかむために、学生時代、演劇部で鍛えた演技力で、大御所の執筆を邪魔しまくる。ホテルのメイドになり切って、部屋にシャンパンのお届け。部屋に侵入して、ブンブンふったシャンパンボトルを大御所が広げているパソコンに向かって開栓!じゃっぷ~~ん。パソコンは起動不能、、、。そこからは泣き落とし、、、などなど、、、。現実にはありえんだろう!!と思うほどの大胆さで。
無事に、加代子は原稿を雑誌に掲載されるが、大御所にはホテルでの事件が加代子がしくんだ芝居だったことがバレる。
そして、その大御所との長年にわたる仕返しごっこ。
章ごとに、時が流れ、場面も変わる。
ありえないだろう、と思うような大胆な作戦の数々。そこは、くすっと笑ってしまうような、痛々しいような、、、。利用できるものは利用しまくる。
加代子はその後、出版は重ねることが出来るようになったものの、業界からは褒められることもあれば、批判されることも、、、。なかなか、売れない自分の小説を何とか売り込もうとする必死の努力。
ストーリーのところどころに挟まれるセリフが、小説家なら、だれしもが感じたことのある現実なのかもしれない、と思わせる。
ある、有名コメンテーターからの批判に落ち込む加代子に、売れっ子作家がかける言葉。
「それは、DV被害者と同じ発想です。○○さんの評価が絶対だなんて、どこのだれが決めたんですか」
「俺の作品のAmazonレビューよんだことあんのか?」(だれでも批判する人はいる)
「若いと得だとか、簡単に言うな!その分、叩かれやすいんだよ」
あるいは、
「○○賞の選考委員の長老が、○○さんだから、、、、」
という、選考の光と闇。。。
そして、作家と編集者との関係性。
編集者は、作家の見方なのか?作家を利用しているだけなのか?
そんな疑心暗鬼から、ときに編集者への復讐のために共謀する加代子と大御所。
最後は、主人公の小説は、映画化され、カンヌ映画祭へ、、、。
そこには、長年犬猿の仲でありながらも、ともに小説家として苦楽を共感する人ともなったあの文豪の姿も。
そして、
「作家を救うことが出来るのは、編集者ではなく、作家だけ」ということで、お互いに認め合う。
最後、多分、柚木さんのメッセージとも思える1ページで締めくくられる。
大事なのは、イノセンスだと。
”平成の作家に圧倒的に欠けているものは、きっと執念とハッタリ。そして最も大切な、己の力で取り戻すイノセンス。これから先何度でも彼女はそれを失い、そして手にするのだろう。”
と。
執念とハッタリ。
大事だ。
自分の夢をかなえたいなら、執念とハッタリが時に大きな力になるのは間違いない。
正しく、自己過信、とでもいおうか。
自信過剰は、ろくでもないものだけど、時には、自分を過信することで一歩前へ踏み出すことが出来る。失敗をおそれなければ、それでいい。
失敗なんてない。
経験だ。
アルベルト・アインシュタインの言葉。
『失敗や挫折をしたことがない人とは、何も新しいことに挑戦したことが無いということだ』。
そうだ、挑戦してみよう!
そんな元気をくれる一冊。
なかなか面白かった。
読書は楽しい。