『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』by  佐藤優

大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす
佐藤優
NHK出版新書
2016年11月10日 第1刷発行

 

表紙の裏の説明には、
”大統領選後のアメリカの行方はどうなるのか? イギリス離脱後の EU の行方は? プーチンユーラシア主義の本質とは? 英米からロシア中東から中国まで。新旧政治家の比較考察から各国に特有の論理を読み解く政治的アプローチ。地理をふまえて各国の戦略に迫るアプローチ。双方の合わせ技で国際情勢の本質を一気に把握する。「分析家・佐藤優」の集大成!”

 

2016年の本だが、序章でいきなりロシアとウクライナの関係性について語られている。2022年の今読んでも、充分に勉強になる一冊。今、プーチン大統領がとっている強硬な姿勢のわけが、少し理解できる。ウクライナは、ロシアにとって極めて重要な緩衝地帯なのだ。

 

序章 国際情勢への二つのアプローチ
第1章 英米を動かす掟 「トランプ現象」と「英国 EU 離脱」の共通点
第2章 ドイツを動かす掟 「生存権」から 「EU 帝国」へ
第3章 ロシアを動かす掟 スターリンプーチンの「ユーラシア主義」、「地政学」を多用するプーチン
第4章 中東を動かす掟 「サイクス・ピコ協定」から「IS」  まで
第5章 中国を動かす掟 「海」と「陸」の二兎を追えるか

 

国際情勢を理解するアプローチとして大事な2つ、不変の要素としての「歴史」と「地理」があるという。もちろん、それだけではなく、「宗教」アルゴリズム(算法)」も加えて、世界のインテリジェンスは情勢分析をする。基本となる、「歴史」と「地理」の要点をまとめたのがこの一冊。

 

佐藤さん曰く、歴史的に地政学戦争につかわれることがあったことから、学校での授業に視点として入っていない、という。確かに、学校で地政学という視点で戦争の歴史を深く学んだことはない気がする。なので、わたしにとっては、勉強になる一冊だった。

 

英米の掟は、海洋国家としての掟であり、それは、もともとは孤立主義アメリカは1823年のモンロー宣言から第二次世界大戦までは、ヨーロッパに対して相互不干渉を表明し、孤立主義外交政策の基本としてきた。それが、くずれたのが1941年12月7日、日本の真珠湾攻撃。戦争で、他国との同盟が欠かせなくなったから。
だから、トランプの自国第一主義のような主張は、かつてのアメリカの孤立主義に戻ったに過ぎないということ。
これは、イギリスのEU離脱も然りである。


1991年のソ連崩壊によって東西冷戦が終結し、時代は新自由主義となった。イギリスのサッチャー首相アメリカのレーガン大統領、日本の中曽根首相がすすめた、小さな政府政策。企業や個人の自由競争を促進することで成長を促す。一方で、結果的に格差が広がった、というわけだ。
そして現れた、トランプ現象とEU離脱。これは、新帝国主義の特徴を浮かび上がらせているという。

 

ヨーロッパについては、経済格差の根っこは、ローマ・カトリックプロテスタントによる違いが大きいという。有名なのが、マックス・ヴェーバーの著書プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 (岩波文庫)

イギリス、ドイツ、スイスといった北ヨーロッパ国は、カルヴァン派プロテスタントが多く、生まれる前から神に選ばれているという選民思想があり、選ばれたものは選ばれたところで頑張る、という資本主義につながる考え方が根底にある。

本書の本文から引用すると、

”彼らの信仰心の根底には、生まれる前から神に選ばれているという選民思想があります。天国に神のノートがあり、そこに自分の名前が書かれている。したがって、カルヴァン派の信者は、「自分たちはこの世での成功が保証されている。一見失敗したようであっても、それは神の試練であり、これに耐えれば必ず成功できる」「世の中のため人のために努力すれば神は喜ぶ。自分の人生は神を喜ばせるためにある。」という教えを信じています。そこに生じる禁欲的な職業倫理が強い経済に結びつくのです。”

禁欲的に頑張れる人たち。だから、経済が強い。

一方、イタリア、ギリシャポルトガル、スペインといった南ヨーロッパ国は、ローマ・カトリック派。人生はたかだか80年(いまなら100年?)だけど、あの世は永遠。であれば、天国に行けるように教会にすべてを寄付しようとするので、資本は社会を循環しない。その代わり教会にお金がたまり、豪華な建物をたてて、教会インフラという形で富を蓄積する。天国における来世を重視するカトリシズムの考え方がある、と。なるほど、全く考えたことがなかった。
質実剛健か、、、楽観的か、、、わかる気がする。

プロリン」と呼ばれる、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』も、要約してしまえば、そういう事なのか。


そして、ドイツは、GDPの40%を輸出に頼っている。だから、いいものを作って、海外に買ってもらわなければならない。EUという買い手が居なくなるのはドイツにとっては痛手になるので、EU内の自由貿易体制は維持したいわけだ。
また、そもそもEUを作った目的はナショナリズムの抑制であり、ギリシャ地政学的理由から欧州に取り込まれ、EUの一員となったという話。ギリシャは、西側のキリスト教文明の橋頭堡だった、ということ。ギリシャ脆弱性は、ヨーロッパ諸国の思惑が思わぬ形で現れた。

 

ロシアは、スターリンの時代から「ユーラシア主義」が根底にあり、それはプーチンも引き継いでいる。
ロシア・マルクス主義の父、ギオルギ・プレハーノフは、1900年代初期の著書のなかで、「海と川は人を接近させるが、山脈は人間を分離させる」というヘーゲルの一部を引用 し、地政学の重要な点、「地理的環境と、経済的発展は重要に関係する」という事を指摘しているという。

 

最初のロシア国家であるキエフ公国は、13世紀にモンゴル軍によって滅ぼされている。以降約240年にわたって、ロシアはタタール、すなわちモンゴルに支配された。これを「タタールのくびき」というそうだ。
そして、ロシアは、攻め込まれる心配がある地域には、「緩衝地帯」を置くようになったという。佐藤さんは「面の国境」と言っている。ウクライナもその一つ。

緩衝地帯には、自分たちの体制だけでなく、西側の要素を入れておく。ポーランドハンガリー東ドイツなどは、かつて、そういった緩衝地帯だったわけだ。
なぜ、プーチンがクリミアにこだわるのか。大事な緩衝地帯なのだ。失ってはいけない、緩衝地帯なのだ。だから、プーチンは強硬になる。
それは、昨今のウクライナの問題と同じことのようだ。まさに、今起きているウクライナの問題は、そういう事だったのか、、、。
緩衝地帯を失いたくないロシア。

 

中東は、また、複雑だ、、、、。前に何かの著書でも佐藤さんが言っていたことだが、「人権」の反対は、「独裁」でも「抑圧」でもなく、「神権」だと。
神が一番偉いイスラム原理主義の理論だ。
シリアの混乱、イラクサウジアラビア、、、何度聞いてもよくわからないけれど、、、イスラム教のシーア派スンナ派か、、、とういことだけではないから、ややこしい、、、、。
イスラム国の世界観は、「神権」であり、国境というものを認めない、というのはわかる気がした。

 

スンナ派のおさらい。イスラムスンナ派の主な4つの派。
ハナフィー派イラク西部、トルコ、シリア、中央アジア、エジプト西部、南アジア
マーリキー派:アラビア半島東部、北アフリカ
シャーフィイー派:イエメン、イラク中部、エジプト東部、東アフリカ、東南アジア
ハンバリー派:カタールアラブ首長国連邦東部 
  ハンバリー派の一派にワッハーブ派:サウジアラビ、アルカイダ、「イスラム国」

 

何度聞いても覚えられないけれど、「神権」が極端になったのがタリバンであり「イスラム国」なのだということだ。

 

政治的、経済的、各国のかかわりについて勉強できる一冊。

2016年の本だけど、参考になる。

「歴史」と「地理」は、不変だから。

 

ただし、中国は「地理」を変えている。埋め立てることで海域を広げているから。

といいつつ、日本の沖ノ鳥島だって、似たようなものだ。

指摘されないように、双方、大きな声では指摘しない。

岩なのか、島なのか、、、、。

それによって、排他的経済水域が変わるわけだから、、、島ってことにしておこうという思惑は両国共通ということだ。

 

世の中、色々あるなぁ、、、、。

自分の生活に直接かかわりがないと、アンテナが立たないけど。

でも、これからの世の中を考える上では大事なことだ。

ときには、こういう読書もいい。

 

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『大国の掟 「歴史」×「地理」で解きほぐす』 佐藤優