『白い声』 by (上) (下) 伊集院静

『白い声』 (上) (下)
伊集院静
新潮社
2002年2月25日 発行

 

先日、本好きな知人との会話で、「小説と言えば伊集院静の『白い声』もいいよね」、ということがあり、図書館で借りてみた。


伊集院静さん、1950年生まれ 。作家としての作品もたくさんあるけれど、昭和世代にとっては、夏目雅子さんの恋人であり、松田聖子をはじめ多くの芸能関係のプロデューサーという印象。わたしは、これまで、彼の本を好んで読むことはなかった。好き嫌いではなく、単に、興味がなかった。。。なんとなく、俗っぽいひと、という偏見をもっていたから。
本作品も俗っぽいと言えば俗っぽいかもしれない。出てくる男はどうしようもないダメ男。かたやヒロインは聖母マリアのような美しく純粋な少女。
ピュアな少女に尊敬されたい、、、そんな男の人が夢見る物語なのかなぁ、、なんて冷めた目で、、、なんて思わなくもないけど、それなりに感動しつつ読んでしまった。

星3つくらい、、かな。(5点満点)

中年男と少女の恋愛物語。

 

本の紹介には、
(上)
バルセロナで生まれた玲奈は、モンセラットの山道で自分を助けた男を運命の人と信じた。しかし、その男、野嶋は25年前に大ベストセラーを出したきり、自堕落な日々を送っている邪悪な作家だった。神を憎悪する野嶋と18歳の敬虔なカソリック信者・玲奈。重なり合う筈のない二人がめぐり逢い、すれ違いそして絡まりあって…。伊集院静が描く、極上の恋愛小説!」
(下)
「清純な18歳の娘だった玲奈が、邪悪な男、野嶋と恋に落ちた――。日本で面倒を起こした野嶋は、深手を負ってスペインへ逃亡する。周囲の反対を振り切り、スペインに野嶋を追う玲奈。やがて約束の橋でめぐり逢った二人は、一路、サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指し星の巡礼街道を歩み始めるが…。伊集院静が描く、究極の恋愛小説!」

と。

 

以下、ネタバレあり。

 

場面は、バルセロナから始まる。父親の海外赴任で親子三人でバルセロナで暮らしていた牧野一家。バルセロナの明るい日差しの中、玲奈はカトリックの信仰を深めながら、家のお手伝いさんの子供であるスペイン人の友人と共にスクスクと育っていく。玲奈が10歳の時、病弱だった母は、闘病の末に亡くなる。ミサに出席していた玲奈は、その時、「母の死」を第六感で悟った。
玲奈が12歳の時、事件が起きる。友人家族と修道院へ向かっていた途中、山道で行方不明となり、一晩捜索したが見つからなかった。早朝、山に来た若者によって、発見される。打撲とかすり傷くらいで大きな外傷はなかったが、その後、玲奈は時々断片的に記憶をなくすようになる。玲奈はその事故の時、崖から落ちた自分を抱き起こし、草の上にそっと寝かせてくれた男の顔を忘れられなかった。神の顔に見えたから。。。
玲奈の治療のために父娘は日本に帰り、故郷の金沢で暮らすようになる。
カトリックの学校に通う玲奈。そこでも、信仰を深め、どんどん美しい少女に育っていく。
偶然にも、教会の音楽コンサートで、あの日、モンセラットの山で自分を助けてくれた男の顔を見かける。バルセロナで出会ったひとが、金沢にいるなんて!玲奈は、運命の人だと思い定める。
その男、野嶋は、かつて一冊の本がベストセラーとなり、以後書けずにいた落ちぶれた作家だった。それでも、野嶋の周りには、いつも女がいた。稼げない、女にだらしがない、犯罪にも手を染めているような男。玲奈は、そんな男を運命の男と思い定めてしまったのだ。

そして、野嶋の犯罪と逃亡、どこまでも追いかけたい玲奈、、、、。
女と犯罪がからみ、ドロドロの大人の世界の中、ただ一人純粋な玲奈。

最後は、国外逃亡しか生きる道が残されず、スペインへ逃亡する野嶋。スペインのどこにいるのかもわからない野嶋を追って、玲奈もスペインへ、、、。

 

カトリックの信仰が話の軸にある物語。
最後は、心身ともにボロボロになった中年の野嶋と18歳の玲奈は、巡礼の旅をめざす。
サンティアゴ・デ・コンポステーラ
スペインの西、ヤコブの棺が眠る街。。。

結核に侵されていた野嶋は、旅の目的地へたどり着く前に、絶命する。。。
一度は日本へ帰る玲奈。でも、ふたたびスペインへ旅立つことを決心する。
玲奈のお腹には新しい命がやどっていた、、、。
二人なら、どこででも生きていける、、、、。

 

という、無茶苦茶な話。


麻薬に手を出し、女に手を出し、、、こんな男のどこがいいのだと思う人物、野嶋なのだが、なぜか、女にもてる設定になっている。
玲奈も、今どき、、、、純粋で美しくてマリア様みたいな美少女、かつ強い意志を持った女神、、、そんな娘いるか!と突っ込みたくなるような女性として描かれている。


そんなこと、あるかいな!と突っ込みたくなる設定は多いけど、上下巻、一気に読んでしまった。

『私にふさわしいホテル』に続き、主人公は物書き、のストーリーだった。

megureca.hatenablog.com

 

書けずに悩む小説家、という点はある意味共通。でも、小説家というテーマより、スペイン、というテーマに惹かれる。

 

スペインに行きたくなる。

バルセロナは、10年くらい前にサグラダ・ファミリアを見たくて遊びに行ったことがある。1週間弱滞在した。泊まったホテルはよく覚えていないけど、バルが楽しかったこと、海と空の青さに感動したことを覚えている。
一人旅だと、豪華なレストランはなかなかいけないけれど、バルセロナはバルなら事欠かない。一人で飲んでいても、地元の家族ずれが声をかけてきてくれたりして、楽しく過ごせた。
子供は可愛いし、おじいちゃん、おばあちゃんも人懐っこい感じで、あぁ、陽気な街だなぁ、と思った。

 

話は飛ぶが、佐藤さんの『十五の夏』を読んで思い出したことがある。

megureca.hatenablog.com

私もバルセロナで地元のおじいちゃんに親切をもらった。バルセロナの街が一望できることで有名な、ガウディの作品もあるグエル公園だったと思う。その近くの高台からもっときれいにバルセロナが見える、とホテルにおいてあったガイドに書いてあって、小山を登り始めた。ちょっとうっそうとした林の中を舗道があったので歩き始めたのだが、誰もいない・・・。だんだん不安になる。10分くらい登っても、誰にも合わない。けものみちか???と、迷子になったのかと思って急に怖くなって走って坂を下りかけた時、前から犬を連れたおじいちゃんが下りてきて、スペイン語で何かを私に言っている。何を言っているかわからない。でも、身振りからすると、もっと、先まで登っていけ、と言っている感じ。ようやく人に出会ったし、犬と散歩中のおじいちゃんだったから悪い人ではないのだろう、とおもって、ちょっと怖くなったけど、そのまま登り続けることにした。そのあとすぐ、小山の高台、開けた場所にたどり着き、それはそれは、素晴らしい景色を見ることが出来た。ただの山の中腹。公園でもなんでもない。だれもいない。あ~~~~~~!バルセロナ~~~~!海~~~~~!と叫びたくなる絶景だった。おじいちゃんは、きっと旅行者に見えた私に、もっと登ればちゃんと景色の良いところがあるよ、って教えてくれたのだと思う。旅は、人との出会いでもっと楽しくなる。

あぁ、旅行に出たい。

 

本作の中には、バルセロナをはじめ、スペイン各地の修道院もでてくる。逃亡している二人が、宿泊先にするのだ。怪しい東洋人の男女だが、玲奈がスペイン語が達者で敬虔なカトリック信者という事がわかると、どこの修道院も玲奈たちをかくまってくれる。
そういうものなんだな。
神は、誰もに手を差し伸べる。弱きものを助ける。

 

スペインの美術館も、宗教画が多く飾られている。加えて、明るい現代アート。やっぱり、ヨーロッパを旅するには、宗教の歴史を知っておくというのは、楽しみが何倍にもなる。

小説の中に出てくる地名を地図でおいつつ、スペインの街を想像しながら読むと、自分もスペインで一緒に逃亡しているような気分になりながら楽しめる。

あまりに一途な玲奈に、おいおい!そんな男、やめなさい!、と突っ込んでいしまいたくなりながら、一気読み。
なかなか、面白かった。

 

スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラカトリックの教会の世界にどっぷりつかった一冊だった。

 

たまには、こういう、べたべたの恋愛小説もね。

気分転換。

 

読書は楽しい。

 

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『白い声』