『アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか』 by  ハンナ・フライ

アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか
ハンナ・フライ
森嶋マリ 訳
文藝春秋
2021年8月25日
HELLOW WORLD, How to Be Human in tne Age of the Machine  2018 

 

六本木アカデミーヒルズで、2021年に読むべき新刊として紹介されていた本。原本は、2018年。


著者のハンナ・フライは、1984年イギリス生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン高等空間解析センター准教授。数学者。数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究を行い、政府、警察、健康分析企業、スーパーマーケットなどとも協力している。TEDトークで人気を集め、BBCPBSのドキュメンタリーの司会も務める。

表紙の裏には、
犯罪の予測に警察はアルゴリズムを使っている。被告の量刑を決めるために裁判官もアルゴリズムを使っている。医師が自分の診断より優先させるアルゴリズム。倫理観を問われる自動運転車アルゴリズム芸術を数字化するアルゴリズム。民主主義を揺るがすほどの権力を握るアルゴリズムもある。
人の判断より機械の判断を優先させるべきなのか。
どんな時に機械に頼りたくなる気持ちを抑えるべきなのか。
その答えを見つけるために、アルゴリズムをこじ開けてその限界を見極めよう。」

なかなか、面白い一冊だった。
そんなことにもコンピューターが?!というほどの新鮮な驚きはないのだけれど、様々な分野で実際にアルゴリズムが使われていること、有効なこともあれば、有害なこともある。それを淡々と述べている一冊。
すごく新しく斬新なアイディアがあるかというと、そういう本ではないので、物足りなさを感じなくもないけれど、アルゴリズムが色々な場面で使われていることがわかる。

 

最初は、お決まりのチェスの対決の話。IBMのディープ・ブルーとカリル・カスパロフの対決。人がコンピューターに負けたわけだが、その裏話が面白い。ディープ・ブルーは、次の一手がわかってもすぐには打たなかったそうだ。それは、対戦相手、カスパロフのことを調べ上げ、相手が時間をかけてくるのは、自分の手がいいときだという自信をもつ確率が高くなり、自信から油断につながる可能性があることを調べていたから。わざと、じらした。時間をかけた。カスパロフは、ディープ・ブルーが考え込むくらいだから自分の手はいいものだと思い込んだ。そこにスキがあった、と。なるほど。コンピューターも心理戦を盛り込むことが出来るのか、と、驚き。でも、それは、コンピューターが考えたわけではない。あくまでも、人がそうプログラミングしただけのことだ。

 

ネットでの買い物のお薦め広告は、誰でも経験があるだろう。時々、何でこんなものが広告にでてくるの???というものもあれば、もう、買ったからいらないよ、とは思うものの、自分の興味にかなり沿っているものがでてくることもある。人に見られたくない広告がでてくるのは、勘弁してほしい・・・。ダイエット食品とか、アンチエイジングサプリとか?ま、興味あるけどさ。。。

 

お腹が空いているお昼前の裁判だと、裁判官がくだす量刑が重くなりがちだとか、ひとつ前の裁判での量刑が、次の量刑に影響をおよぼすアンカリングが認められることとか、人の不合理さは、裁判でも発揮されてしまう。かといって、アルゴリズムだけで人を裁くと、可能性、、、だけで判断されてしまう危うさ。実際の殺人犯の比率は、男96%、女4%。だから、この女が殺人犯の可能性は低い、とアルゴリズムならば、はじき出してしまう。まさか、裁判がアルゴリズムだけで判断することはないだろうが、人の判断だって、たいして公平でも公正でもないという事実。やはり、両者バランスよく、活用することが必要なのだろう。

 

画像認識が進んだことによる、医療の現場でのコンピューターの活躍。がん細胞を見分けるのは、AIの方が正確かもしれない。かといって、AIが診断できるわけではなく、やはり、医師が他の状況も踏まえて診断するのが正しい医療だろう。
AIの画像診断ががん細胞と言ったからと言って、それが治療可能あるいは必要なのかどうかは、確率でしかない。実のところ、人間の身体というのは日々変異を起こして、修復しているわけだ。たまたま感度高く見つかったがん細胞は、即日修復される運命だったかもしれない。AIによる1点観測で、診断されたのではたまらない。

 

犯罪捜査にもアルゴリズムが活躍している。ただし、顔診断では、そっくりさんが間違って逮捕されて警官に暴行される、なんていう事件も起きているという。あるいは、空港の入国管理で、あなたはテロリストだから入国できません、と言われてしまうとか。

重要なのは、コンピューターをどう活用し、人とどう共働するか、ということだろう。自動運転技術は進んでくれるといいと思うし、飛行機も自動操縦で墜落事故は減っている。


コンピューター、AIに頼る利益と弊害を見定めるという事が重要なのだろう。

 

著者のハンナ・フライが言っている。
「未来は偶然の産物ではない。未来を作るのは私たちなのだ」
だから、コンピューターをいかに人々の暮らしに活かすか、という事を考えるのが大事。

 

最近じゃぁ、採用にもAIを活用して、という話がある。すぐにやめてしまいそうな人をAIが判断する。なんだかなぁ、と思う。
そこは、人間力でみきわめるんじゃないのか?と、昭和っぽく思ってしまう。
知らない間にアルゴリズムの渦のなかで生活しているわけだけど、やっぱり、自分の頭で考えることも大事。 

 

身近な生活で、圧倒的に良くなったと思うのは天気予報の当たる確率かな。

衛星がよくなったという事もあるだろうけれど、衛星を飛ばしているのだって、コンピューターで計算しているわけだ。画像だって、デジタルで送信されてくるわけだ。

 

コンピューターがない世界では、もう暮らせないだろう。

でも、コンピューターだって、結局は人間が作ったモノ。

それをどう使うかは、私たちが考えないといけない。

 

最後は、やはり、自分の頭で考える。

それに尽きる。

だから、失敗もあるけれど、思いがけないことが起こって楽しいともいえる。

最初から、結果のわかっている人生なんて何の面白みがある。

思い通りにいかないから、人生楽しい。

そんなもんだ。

 

アルゴリズムを、楽しい人生のために使いこなそう。

 

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

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アルゴリズムの時代』 ハンナ・フライ