『酒と作家』 平凡社

酒と作家
平凡社
2021年9月22日

 

様々な著名人の酒にまつわるエッセイを集めたもの。
笑った。
ふふふ、って感じで笑える。
おもろい、って感じ。

そうそうたるメンバーがでてくる。時代も、高村光太郎(1883年)から村上春樹(1949年)、さくらももこ(1965年)、、と幅広い。

 

へぇ、こんなすごい人も、お酒の失敗もあるんだ、と、勇気をもらう?!
最後に、それぞれの人の略歴がついている。

好きな作家さんのところだけを読んでも楽しめると思う。

さーーっと読める。

 

おまけに、昭和51年雑誌『酒』創刊250記念号に掲載された、文壇酒徒番付
西の横綱は、井上靖さん。東の横綱井伏鱒二さん。なかなか、圧巻。
かつての編集者は、本当に作家の人たちとよくつきあい、一緒に飲み歩いたそうだ。
今は、違うのかな?

昨今の健康ブームで、アルコールが悪者であるかのように言われたり、若者のお酒離れがいわれている。フランスでも、ワインの消費量が減っているという。でも、やっぱり、お酒は人生の潤滑油として必需品なんじゃない?と、私は思っている。

私の祖母も、100才でもちょこっと飲んだりしていたもの。長生きとお酒は関係ない気がする。そりゃ、身体を壊すほど飲んで、周りに迷惑をかけるのはいかがなものか、、と思うけど。
先日、20代の若者と一緒に飲む機会があったのだが、初めて色々と自分の興味のあることを話してくれて、面白かった。料理人を目指して勉強中の身だけれど、どうやら芸術にも興味があるらしい。一緒に飲んでいなかったら、そんな話を聞くことは無かっただろうと思う。年齢にして、私の半分にもならない若者。おっとりしている子だとおもっていたけれど、なかなかの情熱家かもしれない。頑張れ!と応援したくなる。


酒は百薬の長。わたしは、それでいこうと思う。
たまに、電車を乗り過ごす失敗をしたりもするけど。。。

本書では、みんな、もっとすごい失敗の話がでてくる。失敗談だけではなく、お酒愛のはなしとか。

 

新井素子さん(1960年、東京生まれ)の話は、お酒も好きだけどご飯も好き!という話で、面白かった。お刺身やら、天ぷらやら、ご飯と一緒に食べたいのだそうだ。ビールをのみながらご飯でおかずを食べたい、と。育ち盛りの高校生みたい。って、高校生はビールは飲まないか。宴会で、ビールが出て、お刺身が出て、天ぷらが出て、さて、食事のはじまりはじまり。でも、彼女にとって肝心なご飯は、でてこない。。。。「ご飯下さい」と言えば、もう飲まないものと思われてしまう。「え、もう、ご飯ですか?」と。ビールとご飯を一緒に楽しんで何が悪い!というのが、彼女の言い分。ま、そうよね。たしかに、旅館でも、食事処でも、ご飯ものは最後と相場が決まっている。最後の方に、「ご飯お持ちしてよいですか?」とか、聞かれてしまう。それは、そろそろ〆ですね、の合図であったりもする。
ご飯が食べたい人には、なかなか、厳しいしきたりだ。そうね、ご飯が食べたい人のは、最初からご飯を出してあげよう。なるほど。そういう人もいるのか。。。。と思った。

若いころは、よく新井素子さんの本を読んだけれど、最近はすっかりご無沙汰している。人間らしくて、いいな、と思う。

 

丸谷才一さん(1925年 山形県生まれ)、
「あらゆる人間は酒好きとそれ以外にわかれる。これはまあ、いいでせうね。もちろん本当は、その中間の人だって大勢ゐるわけですが、そこを強引にわけてしまふのである。たとへば、週に一回以上飲む人は前者にはいる、といふ具合に。あるいは、何かの時に一杯飲んで『うまい!』と思つた事のある人は前者、といふ具合に。
そして、あらゆる酒好きの人間は、、、、、、いいですか、ここからが独創的ですよ。今までこの問題をこんな角度から論じた人はゐなかつた。ひょっとすると、ひとりくらおゐゐるかもしれませんが、わたしは知らないから、つまりゐないやうなもんです。あらゆる酒好きの人間には、酒について書かれた文章を好んでよむものとそれ以外の者とに分かれる
と、このことを丸谷さんは、不思議だ、不思議だといってる。色々なお酒の場面や文書をもちだしつつ、、酒の話を読めばうまい酒に巡り合うし、食べ物の話もまたしかり、と。
そして、酒の文章を読まない人を指して、以下の分で締めくくられる。
「ああ、何とかはいそうなことだ。さういふ連中は今夜もまた、日本の政治の腐敗や文学の不振や日米貿易摩擦をうへながら酒を飲んでゐるに相違ない。」
笑った。

なるほど。
わたしは、こうして、お酒や食べ物にまつわる文書を読むのも好きだ。
米原万里さんもよく、話に出てくる食べ物をすぐにでも食べたくなる、という事を言っていた。お酒も然り。
わたしも、だんぜん、本を読んでいると、でてきたものを飲みたくなる派。村上春樹を読んんでバーボンを飲みたくなったり、百閒さんを読んで、ビールを飲みたくなったり。

面白い。

丸谷才一さんといえば、『笹まくら』。日本酒とかでてきたかなぁ、、なんて、思い返す。

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失敗談のダントツは、小林秀雄さん(1902年 東京生まれ)。
タイトルが、「失敗」だもの。
従弟と東京で飲んで、鎌倉で飲んで、まだ飲み足りない。2時をまわって、いやまだ飲みたい、まだ、やっている店はあるはずだと、ぐでんぐでんに酔っぱらったまま、一軒の勝手口らしいところを無理やり開ける。従弟と一緒に、茶の間らしい部屋に上がりこんだ。
「卓袱台とお櫃があり、そこいらが散らかっている。何だ、きったねぇ部屋だな。座敷はないのか、座敷は。と、卓袱台の前に座って、初めて女中さんの顔を見たがどんな顔をしていたか覚えていない。上がってきた従弟は、隣部屋を開けて寝ている男の頭髪を掴んで、起きろ起きろ、失敬な奴だ、とゆすぶっていた。遅くなって済まなかったな、何にもいらない、2、3本飲んだらすぐ帰る、というようなことを言い、ここでいいから、少しそこいら片付けろ、酒を早く持って来い。従弟に起こされた書生さんらしいのが手持ち無沙汰に部屋の隅に座っている。酒が来ると二人は周囲を全く黙殺して飲みだした。お調子を何本かおかわりしているうちに、ロクに口も聞かないでかしこまってる女中さんと書生さんの様子と、特に気がついたわけではないが、なんとなくあたりの調子が変だと僕は気が付いた。まさかと思いながら、念のために、ここは待合さんなんだろうねと聞くと、冗談じゃない私たちは別荘の留守をしているのだという。これには驚いた。平身低頭して明日改めてお詫びに上がると外に出て、どこをどう帰ったのか。二人は翌日無事に僕の家で目を覚ました。」

そして、結局、その勝手に上がり込んだ家がどこだったのかは、さっぱり思い出せず、いまだに、謝りにも行っていないと。。。
「狭い土地のことだから、女中さんも、書生さんも、その後僕に何度も会っているかもしれない。さぞ、この野郎と思って見ていることだろう。致し方ないことである。」

笑った。
酒豪というのか、豪快というのか、、、、。
今なら、即警察に通報されるって感じだ。

小林秀雄さんと言えば、『考えるヒント』。『本居宣長』は、いつかゆっくり読もうと思って読んでいない。すごい堅物秀才とおもっていたけれど、本書にでてくるお酒の失敗や、『骨董と葛藤』にでてきた骨董趣味とか読んでいると、なんて、人間味豊かな人だったんだ、と思う。

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とまぁ、色々な人が色々とお酒を楽しんでいる。
よいではないか、よいではないか。

 

人生は、楽しむためにある。

そう、お酒も楽しむためにある。

酒は飲んでも飲まれるな。

はい、気をつけて楽しみます。

 

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『酒と作家』 写真は檀一雄、寝床でコップ酒