岸惠子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない
岸惠子
岩波書店
2021年5月1日 第一刷発行
母に「面白かったから読む?」と聞かれて、別に岸惠子に興味ないからいらない、と言っていた本だったのだけれど、本屋で、「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」の文字が目に入り、やっぱり貸して、と言って母から借りた一冊。
著者の岸惠子さんは、1932年、横浜生まれ。1951年女優デビュー。1957年医師・映画監督であるイヴ・シャンピとの結婚のために渡仏。1963年、娘デルフィーヌ誕生。1976年、離婚。1987年NHK衛星放送『ウィークエンド・パリ』のキャスターに就任。女優として映画・TV作品に出演し、主演女優賞のほか数多くの賞を受賞。作家、国際ジャーナリストとしても活躍を続ける。
しかし、私にとっては、女優としての岸惠子さんは、良く知らない。キャスターといっても、ちょっと舌足らずな活舌だし、なんとなく、綺麗なおばさん、、、くらいに思っていた。80を過ぎた母の世代にとっては、あこがれの大女優なのだろう。
母は、たまに、岸惠子に似ていると言われることがある(正しくは、あった、の過去形か?)。ついでに、吉行和子にも似ているといわれる。つまり、どちらにもそんなに似ていないけど、なんとなく、そんな雰囲気があるので、岸惠子に興味があるのだろう。
1932年生まれという事は、今年、90歳になられるということ?!そう考えると、恐ろしく若くて美しい。草笛光子さんと同世代。草笛さんなら、TVでも舞台でも、大活躍の女優さんと、現役のご活躍がすぐわかる。
自伝ということで、子供時代の話から始まる。1945年には、横浜空襲で自宅が直撃弾を受けている。たまたま観た映画『美女と野獣』で、映画の世界に憧れ、女優の道へと進むことになる。数々の作品、共演した俳優さん、女優さんの話は、私には良く知らない作品、人たちで、イマイチ、ピンとこなかった。鶴田浩二さん?佐田啓二さん?名前は聞いたことあるけれど、よく知らない。佐田啓二さんは、中井貴一さん、中井貴惠さんのお父さん。中井貴一さん、中井貴惠さんなら、わかる。
サラーーっと読みながら、「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」のくだりが気になった。
フランス人のイヴ・シャンピと結婚するために、祖国と両親、愛する者すべてのものへ決別を選ぶのか、、、あるいは彼の元へ、渡仏するのか。
1957年、まだ、日本人が簡単に海外にいける時代でもなければ、国際結婚はレアな時代。
プロポーズされた岸さんには、イヴ・シャンピのいった言葉が心に刻まれていた。
「人の一生には、何度か二者択一のときがある。」
「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」
そして、
「わたしはわたしの卵を割った」と。
むむ、そういう使い方するの?卵とオムレツの話って??
先日、『新・100年予測 ヨーロッパ炎上』(ジョージ・フリードマン著、2015)のなかで、
”人類に対する愛を全うするには、一部の個人に対しては無慈悲にならねばならないという理屈だ。レーニンはそれを『卵を割らなければオムレツはできない』という言葉で表現した」”
というくだりで、卵とオムレツの話を目にしていたので、意味に疑問を持った。
どうやら、フランスでは、「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」という諺は、
「冒険なしに、結果を得ることはできない」とか、「自分の殻を割ることなしに、素敵に変化することはできない」という意味で使われているらしい。
レーニンの使い方は、その冒険が不要な人の抹殺。。。
あまりにも使われ方の違いに、何が正しいのだろう???と疑問に思ってしまった。
卵のたとえが、国によって違うのは、それぞれの国における卵の貴重性が違うから??
オムレツという言葉からして、日本にはなじまない。。。
卵を割ることなしに、厚焼き玉子はつくれない、、って、あんまりぱっとしない・・・。
話を本に戻すと、渡仏して結婚し、娘が生まれる。でも、日本とフランスを行き来する生活は続いていた。そして、夫の不倫。離婚。
日本に戻って、女優、キャスターとしての活躍、世界各地への取材の旅。
無謀な現地取材の話もでてきて、ちょっと、あまりにも考えなしなんじゃない???と思わなくもない。ユダヤ、イスラム、、、よく知らないままによく現地に入ったものだ、、、とちょっとあきれるところもある。
別に、キャスターの無知は愛嬌でもなんでもなくて、単なるプロ意識の欠如の気がする、、、。とはいえ、やはり、美しい人だ。
最後は、孫の話もでてくる。舞台に立つおばあちゃんを見てびっくりする孫。孫にとっては、ただのおばあちゃんで、日本の女優さんだなんて、知らなかったわけね。
そりゃそうだ。
私だって、この本で、「まちこ巻」なるストールのかぶり方が、岸惠子さんが『君の名は』という映画作品中でかぶったやり方だったと初めて知った。ロケ地の美幌峠で雪が降り始めてしまって、寒くて私物の白いストールをかぶったそうだ。
ま、今の若い人は、まちこ巻もしらないか。
たんなる、ほっかむり、、、だと思うんだけど、子供のころ、札幌の叔母にまちこ巻にされて、おもちゃにされた記憶がある。大人にとっては、岸惠子の真似をしたチビは「かわいい」だったのかもしれないけれど、私にとっては、動きずらくて邪魔!だった。。。
昭和の時代を生きた、一人の女性の物語。
岸惠子の現役を知っている人には、きっと楽しい一冊なのだろう。
知らない人にとっては、ただのバイオグラフィー・・・。
きっと、昭和のおばちゃんがたくさん読んでいるんだろうな。
表紙の帯には、上野千鶴子さんの言葉だし。
時代を感じる一冊だった。
自伝って、、ちょっと、なぞ。
岩波書店がだしているのが、またまた、なぞ。
ま、こういう読書もたまにはいい。