『上流思考  問題が起こる前に解決する新しい問題解決の思考法』by  ダン・ヒース

上流思考
問題が起こる前に解決する新しい問題解決の思考法
ダン・ヒース
櫻井祐子訳
ダイヤモンド社
2021年12月14日
原題:UPSTREAM (2020)

 

表紙の帯には
佐藤優
危機から抜け出すには、ふだん気づいていない構造的欠陥を矯正することが重要だ。知恵と実用性に満ちた一冊だ。
山口周氏
私たちはあまりにも「下流で起きる問題の解決」に時間をかけている。いま必要なのは「上流にある原因の根絶」だ。


「根本原因」にアプローチする、最大効率✖最大効果の問題解決術」”
とある。

どこかの書評で見て気になって、本屋さんでも平積みになっていたので、買ってみた。
1800円(税抜き)373ページ。
思考法/問題解決、の本に分類されるらしい。

 

後ろの帯には、
・「よく起こること」は上流で解決する
・「なぜ、こんなやり方なのか」を考える
・「設計」が間違っているから「結果」も間違う
・人は「目の前のこと」に反応してしまう
・「間違ったインセンティブ」が働いていないか
・成功の秘訣は「試行・錯誤・錯誤・錯誤」
・問題の「動的性質」に気をつける
・適切な「短期指標」を見つける
・「不要なこと」をする動機をなくす
・「惰性」という壁がある
・「俯瞰」することで打ち手が見える
・常態化している「異常」を見つける
・その決断の「本当の理由」は何か
と。
これだけを読んでも、なんとなく内容がわかるような。。。

 

著者のダン・ヒースは、テキサス大学オースティン校を卒業後、Thinkwell社を共同創設。ハーバード・ビジネス・スクールで MBA を取得。現在はデューク大学ビジネススクール社会起業アドバンスメントセンター(CASE)でシニアフェローを務めている。兄チップとの共著に『アイディアの力』『スイッチ!』『決定力!』などがある。 

訳者の櫻井祐子さん、どこかで名前を見たと思ったら、『NETFLIXの最強人事戦略』『OPTION B』などの訳者だった。かなり、読みやすい翻訳をされる方だと思う。

 

感想。
いつものヒースの本、という感じで、なかなかの良書。
構成もわかりやすく、さらっと読める。
上流=UPSTREAM、問題の発生原因に対処せよ、ということ。


目次
CHAPTER1 上流に向かえ 根本から解決する「新しい思考法」

SECTION 1 「上流思考」を阻む3つの障害
 CHAPTER2 問題盲 「そういうものだ」と思ってしまう
 CHAPTER3 当事者意識の欠如 自分で解決できるのに気がつかない
 CHAPTER4 トンネリング 「目の前の問題」しかみえなくなる
SECTION 2 「上流リーダー」になれる7つの質問
 CHAPTER5 「しかるべき人たち」をまとめるには? 多様なメンバーで問題を包囲する
 CHAPTER6 「システム」を変えるには? 目の前の「水」に目を向ける
 CHAPTER7 「テコの支点」はどこにある? 問題に寄り添う
 CHAPTER8 問題の「早期警報」を得るには? 価値の大きい警報を見抜く
 CHAPTER9 「成否」を正しく測るには? 「幻の勝利」に気づく
 CHAPTER10 「害」をおよぼさないためには? フィードバックループ」で改善する
 CHAPTER11 誰が「起こっていないこと」のためにお金を払うか? 「払った人が得をする」仕組みをつくる
SECTION 3 さらに上流へ
 CHAPTER12 予言者のジレンマ 「いまそこにない危機」に対処する
 CHAPTER13 あなたも上流へ 一個人として上流活動をする


事例は、ほとんどがアメリカの話。問題が発生したときに、上流に遡って対処することで、同様の問題の発生を減らしたというサクセスストーリーがいくつか出てくる。分かりやすい。
問題の根本原因に対処する、ということ。

 

SECTION 1では、なぜ根本問題に気が付けないのか、という話。
・そもそも、問題に気が付かない。思い込み、常態化していて変えられると思っていない。ブレインロック。ストール。
 (例)30年前のセクハラ。あっても仕方がないと思われていた。日本もしかり。
・当事者意識の欠如。問題の原因は自分ではないから、どうにかしようと思わない
・目の前のことにとらわれる。その場しのぎの連続。

 

SECTION2では、どうすれば根本問題をみつけて、解決できるようになるのか。リーダーとして、どうすればいいのか。
・自分一人でやらない。関係者の協力を得る。
 (例)若者のアルコール飲酒や不良行動対応。学校、家庭だけでなく、地域の関係者全員を巻き込み、生徒がアルコールよりも楽しくなれるものを増やすことで、問題発生低減。
・システムを変える。その場しのぎではないシステムにする。
・問題の根本原因を徹底的に考える。問題の当事者として向きあう
 (例)エスカレーターでの事故の多くは、乗るタイミング。最初の2→3枚ステップを水平にすることで、事故が低減。公共機関は、それが多いらしい。
・早めの問題発見をめざす。兆候をみのがさない。
 (例)日本の地震監視システム。銃規制の啓発動画「EVAN」。 
・成功の定義を、短期と長期で考える。
全体最適を考える。
 →ドネラ・メドウズのシステム思考に学ぶ
・全体の利益を全体で負担するシステムにする。

 

SECTION3では、これから将来のこと
・今は目に見えていない危機への予防を考える。
 (例) 宇宙ゴミ
・行動は今すぐ。結果は気長に待つ
・個人の小さな活動から、全体の大きな活動へつなげる。

どれも、いわれればその通り、と思う事ばかり。
大きく共感する。

 

問題の早期発見の話では、日本の地震警報がすごく早い、という話が出てきた。実は、どこの国より素早く地震のP波を検知し、わずか3秒で主要な企業・鉄道・工場・病院・学校etcに警報が届くしくみだそうだ。
3・11以来、あの「キューーン、キューーン 緊急地震速報です」の警報が、ものすごく恐怖を呼び起こすものになった・・・。避難はスピードが勝負。事が起こることを早く察知して、早く行動を起こす。確かに大事だ。

 

そして「EVAN」。これは、、、、結構衝撃の動画。高校での銃発砲事件が繰り返されることから、対策として作製されたビデオらしい。
以下で視聴可能。

www.youtube.com


普通の学校の風景だ。でも、衝撃の最後の場面。ライフルをもった少年が、バンと開いた扉から入ってくる。きゃーーという生徒たちの悲鳴。
でも、実は、ほんとの衝撃は、同じビデオをもう一度再生したときにわかる。
数々のシーンに、銃撃犯が移りこんでいて、イジメられていたり、一人でポツンとしていたり、、、。

兆候はあっても、誰も見ていない。
そして、事件発生・・・。

未然に防ぐ。それが一番。
予防保全

 

短期と長期で成功の定義を考えるというのは、枝廣さんが著書『好循環のまちづくり」で言っている「先行指標と遅行指標」と同じだと思う。

megureca.hatenablog.com

これは、本当に重要で、成果が目に見えるまでに時間のかかる目標こそ、短期に見える先行指標が重要になる。そこが間違ってしまうと、長期目標の遅行指標までたどり着かない。

システムを作るという話では、ドネラ・メドウズのシステム思考が引用されている。ドネラさんの『世界はシステムで動く』は、本当に素晴らし本なので、世の中の仕組みを理解して、より良い方向にしたいと思っている人にお薦め。枝廣さんのシステム思考も、ドネラさんを師匠にしている。『地球の法則と選ぶべき未来』もおすすめ。

megureca.hatenablog.com

 

予言者のジレンマでは、予告したことに対処し、事がおこらなければ、予言は現実のものとならないから、予言者が正しかったのかどうかはわからない、、、というジレンマ。
結果は、気長に待たなくてはいけないことほど、、、そうだろう。

 

今、地球環境保護のために、私たちが取り組んでいることがはたしてどのくらいの効果になるのか、わからない。レジ袋の有料化でCO2が減るとは、誰も思っていない。でも、ちょっと地球温暖化をもたらしているのは私たちの毎日の活動の積み重ね、っということに気が付くきっかけになるかもしれない。そのことで、なにかもっと根本的な活動につながるかもしれない。。。
と、個人的には、レジ袋の有料化ほど見せかけだけのものは無いと思っているけど・・

 

健康も、病気になってからの治療法の開発より、病気を防ぐ方法研究、周知にもっとお金をかけるべきだ。でも、それって、儲からないのよね。
だからこそ、全体の利益を全体で負担するシステムが必要なのだと思う。

医療費が増えるなら、医療費がかからない健康つくりにもっとお金をかければいい。
本書の中には、「予防」に力を入れる方法として、医療を取り上げて説明している。
・お金がかかる問題の発生場所を特定する。
・その問題を防止できる最適な立場にいる人を特定する。
・その人に仕事をさせるために必要な、報酬方式を考える。

医者は、積極的に予防に関わると、治療する患者が減り、収入が減るというジレンマがある。そこを解消できるシステムが必要ということ。

最近、医師にインタビューをすることがあるのだが、皆さん、今の日本の医療システムの問題を指摘される。保険点数にならないと、病院の収入にならない。もちろん、患者を救うために持ち出しでも病院は最善を尽くそうとするわけだが、、、病院だって稼げないと人を雇っていけない。。。。 

 

上流思考は、組織、社会のリーダーにこそ重要な考え方。

目の前のことにとらわれすぎず、問題の根本原因、ボトルネックを見出し、関係者を巻き込んで解決にあたる。

どんなに問題発掘能力があっても、周りを巻き込む力が足りないと、うまく進まない

なぜなら、根本解決にはシステムの改変が必要で、システムををかえるということは多くを巻きこむことになるから

 

多くのリーダーは、上流思考が重要なことは気が付いている。

具体的に、どう行動するか。どう、人を巻き込むか。

それが問題だ。

会社も政治も、ちっちゃな組織だって、上流思考で行こう。

ほんと、そう思う。

 

やっぱり、ダン・ヒースの本は面白い。

買ってよかった。

読書は楽しい。

 

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『上流思考』 ダン・ヒース