『豊饒の海(ニ)奔馬(ほんば)』 by  三島由紀夫

豊饒の海(ニ)奔馬(ほんば)
三島由紀夫
新潮文庫 
昭和52年8月30日発行 
平成14年12月5日43刷 改版
平成24年6月30日62刷
(この作品は昭和44年2月新潮社より刊行された )

 

豊饒の海の続き、(ニ)奔馬を読んでみた。

読み始めて、なるほど、(一)と、こうつながるのね。というのがわかる。

本の裏の説明には、
「今や控訴院判事となった本多繁邦の前に、松枝清顕の生まれ変わりである飯沼勲があられる。「神風連史話」に心酔し、昭和の神風連を志す彼は、腐敗した政治・疲弊した社会を改革せんと蹶起を計画する。しかし、その企ては密告によってあえなく潰える。彼が目指し、青春の情熱を滾らせたものは幻に過ぎなかったのか?ーー若者の純粋な〈行動〉を描く『豊饒の海』第二巻。」

やっぱり、(一)を読んでいないと、(二)にでてくる細かなあれこれの意味がわからない。順番に読んでよかった。

 

感想。
(一)春の雪、と同じような感想。なんだ、このしょうもないガキんちょの若造は・・・。と。

それでも、読み始めたら止まらない。あっという間に読んでしまった。
でてくる、誰もかれもが、「何考えてるの?!?!」という感じだけれど、つまり、そういう時代だったという事だ。

5・15事件がおきたような時代の話。(5・15事件:1932年5月15日に起こった海軍急進派青年将校を中心とするクーデタ事件犬養首相が射殺された。)

親子の関係も、男女の関係も、職業というものも、令和の今とは大きくちがうのだから、価値観が大きく違う。そんな時代の話。でも、複雑に関係しあう人間関係、物事の関係など、さすが三島由紀夫というべきなのか、面白かった。

 

(一)春の雪とおなじ登場人物としては、清顕の友人・本多繁邦。清顕の世話係で後に松枝家を追い出される飯沼。飯沼と一緒に松枝家を出たお手伝いのふね。清顕の父親である侯爵。清顕と聡子の逢引きの場を提供した宿屋主人。聡子との縁談が破談となった宮様、治典王殿下

こういう、仕掛けで、人を登場させるわけね、、、と、話の壮大さに驚く。まだ、(三)(四)があるわけで、どうつながるのか、これまた楽しみ。

 

以下、ネタバレあり。

 

(二)の主人公は、飯沼の息子、勲。本多は38歳になって妻帯し、大阪で立派な判事になっている。知り合いの代理で見学者として参加することになった神社での剣道の試合で、飯沼の息子、勲と出会うことになる。修行のために滝にうたれる勲の脇腹に、清顕と同じ3つのほくろがあることをみつけ、勲を清顕の生まれ変わりのように感じる本多。
清顕は、亡くなる直前、「今、夢を見ていた。又、会おうぜ。きっと会う。滝の下で」と言い残している。まさに、滝の下で、清顕に出合ったと感じる本多。

勲の父、飯沼は右翼活動で有名になっている。勲は、『神風連史話』という正義に生きた男たちの話に夢中になっており、自分も正義のために命をつかうのだ、と使命に燃えている。
仲間を募り、知り合いの軍の協力も得られるようになり、勲が悪と考える政治家・財界の大物暗殺を企てる
俗物として末梢すべきと思っていた財界の黒幕・蔵原武介は、実は父の経営する右翼塾の資金もととなっていたことを知る。けがれた金で育ってきた自分に、嫌悪する勲
時々、勲と会う機会ができた本多は、会うたびに、勲が清顕の生まれ変わりと確信するようになる。

暗殺の実行計画が、すすんでいた矢先、協力してくれていた軍の中尉が、満州に異動してしまうことになる。軍が協力してくれないならば実行は難しい。そうこうしているうちに、勲たちの企ては、警察の知るところとなり、全員逮捕されてしまう。
警察に密告したのは他でもない、勲の父だった。息子を犯罪者にはできない・・。その父に密告したのは、勲が思いを寄せていた女性であり、勲の活動にも支援の姿勢を見せてくれていた槙子だった。

事態を知った本多は、判事をやめて、弁護士になり、勲らの弁護を引き受ける。
裁判では、無罪にはならなかったが、勲らは釈放される。

釈放、喜びの宴。
そんななか、勲は、自分の正義が果たせなかった無念さ、父にも、槙子にも裏切られたというむなしさ。。。酒をのみ、酔いつぶれる。
そして、うわごとのように、
ずつと南だ。ずつと暑い。……南の国の薔薇の光りの中で。……」
とつぶやく勲を、本多は介抱していた。

そして、釈放から数日の後、勲は蔵原のことを書き立てている新聞をみて、やはり殺害すべしと思い立つ。勲は、一人伊豆の蔵原別荘へ向かう。
伊勢神宮で犯した不敬の神罰を受けろ」といって、蔵原を殺害。
自らも、切腹自殺

正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った。」
The End

 

なんと、また、若者死んじゃったよ!!!
三島は、なぜ、そんなに死に急いだのだろう。
どうして、こうも、美しい青年を自滅へと追いやるのだろう。。。

でも、そういう話だった。

 

ちなみに、(一)ででてきた宿屋主人は、勲らの裁判の証言者の老人として登場する。暗殺計画を中止するように勲を説き伏せる中尉が、勲を呼びつけた店の主人として。そして、裁判で「勲を見たのか?」と聞かれた老人は、清顕に似ている気がすると口にする。裁判官や傍聴人は、老人がボケたことを言っているとやり過ごす一方、本多はますます勲に清顕を見出し、生まれ変わりを確信する。

よくもまぁ、こんな細かい細工、思いつくな、、、と思った。

 

奔馬という題は、勲の情熱的勢いで行動する様を表したタイトルと思われる。

春の雪は、清顕が聡子に会えずに行倒れる寺の景色。

さて、三巻は、暁の寺

どういう展開になるのか。

次も楽しみ。

読書は楽しい。

 

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豊饒の海(ニ) 奔馬』 三島由紀夫