中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史
青木節子
新潮社
2021年3月20日
橋爪大三郎さんと佐藤大さんの『世界史の分岐点』で科学技術に関する話の中で出てきた、日本で唯一の宇宙法専門家、青木節子さんの本。
図書館で借りてみた。2021年3月と言うから比較的新しい 。
感想、面白かった。
へぇ、、、宇宙開発って、そんなに中国がすごいことになっているんだ!って。こう言ってはなんだが、あんまり知りたくなかった事実を知ってしまった、、っていう感じ。
著者の青木節子さんは、1959年生まれ。慶應義塾大学大学院法務研究科教授。法学博士。専門は国際法、宇宙法。83年慶応義塾大学卒。防衛大学校などを経て2016年より現職。12年より内閣府宇宙政策委員会委員。
と、もともとは法律の専門家の方で、宇宙法に詳しい、ということ。
『世界史の分岐点』のなかでは、青木さんは慶応卒業後、宇宙法に強いカナダに留学し、自分の力で切り開いてきたすごい人、という風に表現されている。政府は宇宙法に関しては青木さん一人にすべてを頼っている、という状況だそうだ。
目次
第一部 宇宙大国中国の実力
第1章 21世紀のスプートニク・ショック
第2章 ロシアを抜き去り米国に迫る道のり
第3章 米中の蜜月と破綻の歴史
第4章 「南南協力」で進む途上国支配
第5章 ヨーロッパでも進む宇宙版「一帯一路」
第2部 「超大国」の主戦場としての宇宙
第1章 宇宙開発聡明期: IGY を舞台にした米ソ対決
第2章 米ソの作り上げた宇宙秩序
第3章 アメリカの宇宙政策
第3部 日本の宇宙政策
第1章 アメリカの長い影
第2章 テポドンミサイルの衝撃
第3章 第4次宇宙基本計画を読み解く
第4章 宇宙作戦隊とは何か
第5章 民間ビジネスの可能性
だいたい、宇宙法というものがあるということをよくわかっていなかった。
世界大百科事典によれば、
うちゅうほう【宇宙法 the law of outer space】
宇宙空間と天体は、地上の国家の領域的管轄権をこえた空間であり、国際法によって規律される。宇宙空間と天体ではいずれの国の領域権の設定と行使も禁止され、その利用のみが国際法の規律の下に認められる。この比較的新しい国際法の分野、すなわち、宇宙空間と天体の利用秩序と、そこでの人間の開発活動(宇宙開発)に関する主要原則を定めた法規範を宇宙法という。そのおもな内容は、宇宙空間と天体の法的地位、宇宙空間の法的境界、人工衛星などの宇宙物体に対する法的規制、宇宙開発に従事する国家の行為規範などである。
1967年の宇宙条約が、宇宙法の基本になっているということ。
つまり、第二次世界大戦後、宇宙に関する様々なルールが決められてきた。
1957年に、ソ連がアメリカより先に人工衛星「スプートニク号」を打ち上げた事実は、アメリカに「スプートニク・ショック」をもたらした。まさかまさかの敗北、ってやつだ。科学者だけでなく、一般の人々にも大きなショックを与えた。
しかし、1991年に冷戦が終結する頃には、アメリカは1969年の月面着陸成功など、ロシアを上回る宇宙開発技術を発展させた。ソ連の財政状況悪化で、宇宙開発にお金をかけられない時代があったからだろう。
そして、21世紀のスプートニクショックと言われる、中国による世界初の量子科学衛星「墨子」の成功が2016年。
宇宙開発は、いまではアメリカと中国の牙城、、、となってきている、という話。
いや、実は、「墨子」を成功させていることに加え、「北斗シリーズ」という中国版GPS衛星の数は、アメリカのGPS衛星31個を上回る35個で運用されているという事実からすると、既に中国はアメリカを上回った宇宙開発能力を持っているのかもしれない・・・・。
子供のころに思い描いていた宇宙開発といえば、なんとなく明るい未来へつながる皆で仲良く宇宙旅行!みたいなものだったけれど、現在においては宇宙開発=軍事開発にほかならない、、、ということがよくわかった。
あらゆるインフラがデジタル情報、インターネトでつながっている現在、情報ネットワークが破壊されてしまえば、生活そのものの破壊。国家の破壊につながりかねない。そして、その情報網に欠かせないのが衛星。宇宙開発、ということだ。
もちろん、平和目的に開発をするという建前になっているけれど、ロケット開発は、ミサイル開発とほぼ同じ技術開発だし、宇宙の衛星を破壊するということは、サイバー空間を破壊されるということであり、宇宙を支配することがあらゆる地上生活の支配につながりえる、ということなのだ。
そして、その技術を中国が先端を走りつつあるということに、ちょっと怖い感じがする。
衛星は、地上と通信してこその衛星であり、地上にどれだけたくさんの地上局を設置できるかというのが、宇宙を充分に活用するための一つのキーになっている。地上局の重要性は、通信、リモートセンシング(地球観測)、測位航法など、全ての種類の衛星に言えることであり、精度の高い衛星データの取得を目指すのであれば、世界中の様々な場所で地上局を設置する必要があるという。衛星を打ち上げておしまい、ではないということ。言われてみれば、そりゃそうだ。
中国は、様々な国に対して、衛星打ち上げを肩代わりしてあげるかわりに、そこに地上局を作らせて!という作戦で、地球上のあちこちに中国の地上局をつくることに成功しているという。場所によっては、その地上局は完全な治外法権のような区域となっていて、中国の離れ領土のような感じだと。
植民地ではない、外国領土の奪取、とも見える。
衛星をのっければロケットだけれど、弾頭をのせればミサイル。ロケットもミサイルも、おんなじ技術。それはそうだ。
衛星をたくさん打ち上げる財力、技術があるというのは、まさに軍事力そのものということ。
北朝鮮が、度々ミサイルを発射させるのも、自分たちの技術力を世界に見せつけたいから。
宇宙くらい、平和に皆で利用しようよ、、、と思うけれど、インターネットのない世界では暮らせない現在、暮らしを破壊するなら宇宙の衛星を破壊すればいい、、、という世の中になってしまっている。
だから、狙った衛星を破壊する技術というのが確率できれば、宇宙の覇者になれる可能性がある。しかし、対衛星攻撃(ASAT:Anti-Satelite)によって衛星を破壊すれば、宇宙ゴミ、スペースデブリが発生する。スペースデブリの危険性を認識したアメリカとロシアは、それぞれ1986年、1982年の実験を最後に実験停止が暗黙の合意になっている。
ところが!2007年中国がASAT実験を実施したのだ。世界的非難となり、その後は実施していない。やっぱり、中国は国際的紳士協定を無視する国と思うから、中国が宇宙の覇者になるのは不気味だし、個人的には嫌な感じがする。
中国の人が皆いけないわけではない。今のロシアのウクライナ侵攻だって、ロシア人がいけないわけではない・・・。でも、蛮行を働く国の国民であるって、、、心痛めている人もたくさんいるんだろう、、、と思う。。。と、ウクライナ人もロシア人も、国家の犠牲者なのだと思う。。。
本の話にもどそう。
アメリカの宇宙政策は、時の大統領によっていろいろと変遷してきたという話。
日本の宇宙開発は、「平和目的」にとらわれることで自分で自分に足かせしてきてしまったという歴史の話。それでも、ロケット成功率は世界一の日本は、すごいのだ、ということ。
日本は、2020年5月18日、宇宙領域専門部隊として、航空自衛隊に宇宙作戦隊が新たに編成されたそうだ。知らなかった。23年度に本格運用をめざすということ。
宇宙作戦隊は、日本の衛星、特に防衛目的で運用される衛星システムの周辺に不審な衛星が接近してこないか、また、スペースデブリと衝突しそうになっていないかなど、検知するための宇宙状況監視をおこなうということ。実際に、攻撃をうけたら、破壊されたときにどう対処すべきかは、これから検討する課題だそうだ。これはなかなか、見たくない現実だ。リスクが実際に起きた時にどうするべきかは決まっていないけれど、モニタリングする能力を先に備えておくということ。現実には、そういう状況になることはたくさんある。
富士山噴火だって、地殻モニタリングはできても、噴火を防ぐことは難しい・・・。
宇宙も、いってみれば、普通に暮らしている人々には「見えない世界」。その見えない世界で事が起これば、日常は簡単に破壊されてしまう可能性があるということ。
むやみに恐れても仕方がないことであるけれど、そうか、宇宙は、そんなことになっているのか。。。と。
みんなで仲良く宇宙を活用しようよ、、と思う。
なかなか、面白い本だった。
科学的な難しい話は出てこないので、読み物としてサーっと読める。
とても重要なことが書いてあるのだけれど、さーーっと読んでしまうのは、当事者意識がないからかな、と思う。
宇宙でのトラブルを守るために、自分ができることがあまりにもなさすぎる、、、。
衛星に頼らない生活なんて、もうできなさそうだし。
天にあらせられるのは、神ではなく衛星になった、、、。
ガガーリンは、「神はいなかった」といったけれど、そのころはスペースデブリもなかったのかもしれない、、、。
宇宙は果てしなく広い。
宇宙規模からすれば、今私たちが宇宙空間といっているのだって、地球の周りのほんの少しに過ぎないのかもしれない。
宇宙も、地球も、汚しちゃいけない。
サイエンスは平和目的でなくてはいけない。
つくづくそう思った一冊だった。
読書は楽しい。