驚異の量子コンピュータ 宇宙最強マシンへの挑戦
究極的な困難さへ挑み 宇宙をハックせよ
藤井啓祐
岩波書店
2019年11月19日第1刷発行
図書館で見つけた量子コンピュータに関する本。知らない著者だけど、岩波書店の本だから読んでみた。
裏表紙には、
「ひと昔前まで実現不可能とされてきた量子コンピュータを取り巻く環境は短期間のうちに激変した。従来の古典コンピュータを超越する不思議なからくりとは何か。いかなる歴史を経て現在に至り、どんな未来が待ち受けているのか。気鋭の研究者として体感している興奮をもって、明快かつ科学的な正確さを記して解説する。」
とある。
図も使いつつ、たしかに分かりやすく書かれた一冊。
でも、私には、まだまだ量子について理解できないことがいっぱいある。
目次
第Ⅰ部 物理学とコンピュータの歴史
1章 量子力学の誕生
2章 コンピュータと物理法則
3章 量子コンピュータの夜明け前
第Ⅱ部 量子コンピュータの仕組み
4章 量子情報と量子ビット
5章 量子コンピューターのからくり
6章 量子とノイズのせめぎ合い
7章 ブレークスルー
第Ⅲ部 量子コンピュータの挑戦
8章 量子超越を目指して
9章 量子コンピュータはスパコンに勝てるのか
10章 宇宙をハッキングする
そもそも、量子って?
量子=Quantum
量子という言葉が分かりにくいのは、まるで電子や中性子のように、特定のブツそのもののようだけれど、そもそも物やエネルギーの「単位」だってことだ。総称といったらいいのか、、、単位なのだ。
しかも、粒子なのか波なのかという大議論ののちに至った結論は、粒子と波の性質を併せ持つ単位、それが量子。
具体的には、原子そのもの、原子をつくっている電子や中性子や陽子。光を粒子としてとらえた時の光子、ニュートリノやクォーク。ちっちゃい、いろんなもの。普段目に見えていない色々なものの単位が量子。
なんで、量子っていう日本語にしたんだろう、、、と思う。〇子って、ちっちゃければなんでも〇子って、、、。
量子そのものは、単位でしかない。具体的には、量子力学という考え方を説明するための単位、と言ったらいいのかもしれない。
量子力学は、目に見えないちっちゃい世界の物理法則を数字にする学問といえばいいだろうか。で、その物理法則に基づいて、様々に応用したものが、例えば、コンピュータに使われる半導体、MRI(磁気共鳴画像法)、レーザーなどなど。
そして、量子の性質をもちいた量子情報科学がめざすのが、量子コンピュータ。
量子力学をつかって設計した量子ビットをもつコンピュータ。
量子ビットの形として、色々ある、ということ。だから、一口に量子コンピュータといっても、まだまだ色々なタイプのものが開発、発展途上、ということだそうだ。
本書で紹介されている量子ビットとしては、
・核スピン量子ビット
・超電導量子ビット
・イオントラップ
・半導体量子ビット
・光量子ビット
などなど。
図もはいっているので、ちょっと、イメージしやすい。
第Ⅰ部では、古典物理学と言われる、ガリレオ、ニュートン、マクスウェルの時代から、それでは説明がつかない様々な事象が「量子」で説明が付くようになるまでの歴史について。ハイゼンベルクもでてくる。
第Ⅱ部では、量子ビットをつかうと、なぜ従来コンピュータより優れているのか、ということ。従来の半導体では密度に物理的限界があることから、速く計算させるには大きくせざるを得ない。量子ビットなら、波と粒子の特徴を併せ持つという事を利用して、物理空間的制約が改善されるということ。
第Ⅲ部では、これからどう進化してくのか、という話。
素人の私が読んでも、それなりに、ふむふむ、、、と読める分かりやすさがあったと思う。
本書を手に取ったのは、『中国が宇宙を支配する日』にでてきた中国の量子科学衛星「墨子」についても、なにかわかるかな?とおもったからだったのだけれど、量子コンピュータの話と、量子暗号とは、また、別の世界なのか、一言も出てこなかった。
墨子打ち上げが2016年のことだから、何かの関係があるのなら本書にでてくるだろう、、とおもったのだけど。
ただ、量子の力学的特徴を、情報伝達に利用するという点では同じなのだと思う。
2019年に、グーグルが量子力学の原理で動くコンピュータで、ある種の計算をスーパーコンピュータより速く計算出来ることを発表した。まだまだ、実用化できるものではないらしいが、業界の大きなニュースであったことには違いない。
8章に「量子超越」という言葉が出てくる。量子超越とは、古典コンピュータより量子コンピュータが計算速度で上回るということ。グーグルの成果は、ある種の計算で、ということなので、応用可能なすべての計算において、量子コンピュータが従来より高速になる状態のことをめざしているのだと思う。速さだけでなく、当然正確性も。
本書の中でも、ハイゼンベルクとシュレーディンガーが、量子概念の生みの親としてでてくる。やっと、カルロ・ロヴェッリのはなし、ハイゼンベルクの話、量子の話が私の頭の中でおぼろげに繋がってきた。
最後に宇宙ハック、という言葉が出てくるが、それは、量子の理論が、ブラックホールなどの性質を読みとくことにも応用できる、ということだった。
量子衛星とは関係ない話。
やっぱり、サイエンスの本は面白い。
理解できないなりに、色々よんでいると、たまに点と点がつながる。
光の波動性をしめす、トマス・ヤングの二重スリット実験は、これまでにもなんども色々な本で目にしてきたけれど、少しずつ具体的なものの考え方として頭に入ってきた感じ。
観測者が観測するまではどうなっているかはわからない、神はサイコロをふる!という話、これまでにも何度も出てきた。
まだ、人にうまく説明できるほどまで理解できていない。わかっていないということだ。
それでも、点と点がつながっていく感じが楽しい。
最近、物理関係の本を読んでいてつくづく思うのは、人間は自分たちが思っているよりもずっと世界をしらない、、、ということだ。
自分が間違っているかもしれない、という前提にたって物事を考えるというのは、どんな場合にも大事なのだともう。
謙虚であれ。
素直であれ。
実は、実に奥が深い言葉なのである。
読書は楽しい。