『2020-2032 アメリカ大分断 危機の地政学』 by  ジョージ・フリードマン

2020-2032 アメリカ大分断 危機の地政学
ジョージ・フリードマン
早川書房
2020年10月10日
THE STORM BEFORE THE CALM (2020)

 

ジョージ・フリードマンの『新・100年予測 ヨーロッパ炎上』が面白かったので、図書館で「ジョージ・フリードマン」で検索して出てきた本。

megureca.hatenablog.com

2020年、比較的新しい。表紙カバーの裏には、
「ベストセラー『100年予測』著者最新作!80年周期の「制度的サイクル」と50年周期の「社会経済的サイクル」。米国の歴史を動かしてきた二つのサイクルが衝突する2020年代、未曾有の危機が大国を襲う。国際秩序の未来を分析するインテリジェンス企業『ジオポリティカル・フューチャーズ』の創設者が放つ新たなる予測。」

と。

 

目次

第1部 アメリカという発明
第1章 アメリカの体制と動き続ける国家
第2章 土地 アメリカと呼ばれる場所
第3章 アメリカ人

第2部 アメリカのサイクル
第4章 アメリカの変化
第5章 地政学が作る2020年代の姿
第6章 制度的サイクルと戦争
第7章 社会経済的サイクル

第3部 危機と静けさ
第8章 来る嵐の最初の震え
第9章 2020年代の危機サイクルの衝突
第10章 2020年代のテクノロジーと教育の危機
第11章 嵐の向こう側

アメリカ合衆国がどのように機能しているのかを説明している本。著者によればアメリカはあたかも機械のように段階を経たサイクル循環によって機能しているという。あるサイクルから次のサイクルへと移行する間には、社会や政治の情勢が度々不安定になるのはもちろん、時に大混乱に陥ることがある、と。

まさに、2025~2030年頃に、アメリカは、制度のサイクルと社会経済のサイクルと、両方が節目を迎えるというのだ。大混乱期はすでに始まっている??


今から50年前は、マイクロチップが開発されて、世の中はコンピューターが当たり前になった。マイクロチップが社会経済をかえた。
そして、その50年サイクルが終わり、これからのサイクルは「医学におけるイノベーション」が時代を作るのではないかという。


COVID-19は、そのサイクルを早めたかもしれない。mRNAによるワクチンは、コロナがなければ緊急使用許可、とはならず、もっと承認されるまでに時間がかかっただろう。コロナは、人々の健康意識を間違いなく変えた。

だいたい、景気が悪くなってくると、戦争が起こるといわれるが、ロシアのウクライナ侵攻は、世界大戦にはならないだろうと思う。。。。さすがに、二つの世界大戦で人は学んでいるはず、と思いたい。

 

本書は、アメリカを理解するのにとてもよい教科書になると思う。サイクルの話は、アメリカの歴史の理解になる。

80年周期の制度的サイクルで言えば、
1787 合衆国憲法制定
1865 南北戦争終結
1945 第二次世界大戦終結
そして、2025年から次の サイクルになるのではないかと。

50年周期の社会経済的サイクルで言えば、
1787 対イギリス独立戦争終結
1823 アンドリュー・ジャクソン大統領選出
1876 ラザフォード・ヘイズ大統領選出
  1929 世界大恐慌
1932 フランクリン・ルーズベルト大統領選出
1980 ロナルド・レーガン大統領選出
2030年は?? 

いまが、テクノクラートの時代(トランプはそのはざまの波)ならば、また違う社会階級の大統領になるはず、と。

著者は、”今必要とされているのは政策ではない世界的利益を管理するための新たな制度的構造だ”という。
たしかに、どんな政策をもってしても、長続きしないような気がする。いまも、アメリカは分断されたままだ。
専門家はたくさんいるけれど、それをどう活用するか、活用できる体制になっていなければいけないということ。

 

キツネの知恵」という言葉がイソップ童話の「キツネとハリネズミから引用されている。
「キツネとハリネズミ」って、知らなかった。

 

傷ついて横たわったキツネの体にダニが群がっている。通りかかったハリネズミがダニを取り除くことを提案する。キツネはこのダニを取り除いても、別のダニに襲われるだけだと言ってハリネズミの提案を断る。


という話らしい。

 

ハリネズミは、重要な一つの事実を知っている。ダニはとりのぞかなきゃいけない。
キツネは、多くのことをしっているが、 知っているだけでは解決できない。ハリネズミの意見だけでは、同じことの繰り返しになることを知っている。生き延びるために必要な様々な知識を学ぼうとする。

知識と知恵は異なる、という教訓でもあるという。

 

そして、今の連邦政府にかけているのは「キツネの知恵」。専門家集団がいるだけでは組織として機能しない
賢い人を活用できるようにならねばならない、という。

賢い人といっている階級の一つが、テクノクラートと呼ばれる人たち。ヒラリー・クリントンが代表例。高学歴、MBAなど資格保持者。トランプ支持者は、テクノクラートが嫌い。
テクノクラートは、素晴らしい学歴をもち、素晴らしい専門性をもっている。だが、政治的イデオロギーを持たない集団、という特徴もあるという。自分の専門性を活かせる場所で活躍する。家柄や政治手腕に頼らず、自らの力で出世する。

 

最高裁にしても、いまは、法律専門家だけで構成されている。でも、法律の専門知識だけではだめで、常識と政治のスキルがなければいけない、という。一人の例がでてくる。アイゼンハワー大統領によって連邦最高裁判所長官に指名されたアール・ウォーレンは、法律の専門家ではなかった。でも、第一次世界大戦に従軍、地方検事、カリフォルニア州知事、大統領選出馬、、と、途方もない常識人だったそうだ。法律の問題と政治の問題との違いを、きちんと理解していた。だから、「ブラウン対教育委員会裁判」(黒人生徒の父親が、白人校への転入を拒否されて起こした裁判)など人種差別に関することも、法律ではなく、政治の問題だとして、ただしく解決への俎上にのせた。

政治と法律は違う。そんなあたりまえのことが、専門家の視線だけだと忘れられがち。

法律の専門家として、法律だけに依っていれば、政治的に動くことの必要性を理解し行動することは難しいかもしれない。

 

ちょうど、アメリカではバイデン米大統領が連邦最高裁判事にケタンジ・ブラウン・ジャクソン女史(51)を指名した。公聴会が上院司法委員会で始まっている。民主党内の支持が固まれば、共和党の協力がなくても承認される見通しだそうだが、きまれば、史上初の黒人女性最高裁判事だ。

公聴会をPBSnewsで聞いていると、なかなか激しい質問が投げられている。へぇ、、、こうやって、公聴会最高裁判事は思想をさらけだすことになるんだ、と、ちょっと新鮮。英語なのですべてを聴き取れているわけではないけれど、かなり厳しい質問も投げられている。でも、彼女は彼女の信念で、きっぱりと答えている。彼女は、この国を愛しているという。私は、アメリカ社会のことはよくわかっていないけれど、応援したくなる感じ。

彼女は、新しい風を吹き込んでくれるのだろうか。そうなることを期待したいと思う。

 

知識を持つテクノクラートが、自分の専門を社会の構造そのものへ役立ててくれる世界。そうなれば、人間らしさ、のようなものがもう少し大切にされるのではないだろうか。彼女なら、そんな人間臭さを出してくれそうな気がする。

 

理性だけでは世界は完璧なものにはならない。人は、やっぱり人なのだ。

 

地政学の視点で、歴史を見直すことができる一冊。また、サイクルで考えるというのもわかりやすい。私にはアメリカ大統領の名前を言われても、とっさに何をした人なのかが出てこないけれど、アメリカ人が読んで面白い本なのだろうと思う。

 

2026年は、アメリカ独立宣言から250年。アメリカに来た入植者たちが新たな国民であることを宣言してから、250年の節目ってこと。1776年7月4日に始まったアメリカの歴史は、これからどうなるのか。。。


これから、アメリカで学んだり仕事をする人、あるいはアメリカと仕事をする人にお薦め。歴史も、見方をかえると、こうなるか、、、と、ストーリーが見えてくる。

全体を俯瞰しているジョージ・フリードマンならではの一冊。

面白かった。 

 

読書は楽しい。

 

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『2020-2032 アメリカ大分断 危機の地政学