『翔ぶ少女』 by  原田マハ

翔ぶ少女
原田マハ
株式会社ポプラ社
2014年1月17日第1刷発行

 

図書館でTeens向けの特設コーナーに置いてあった本。時々入れ替わる、特設コーナーで、児童文学なわけではなく、普通に大人向けの本も置いてあるので、気になる本を借りることがある。

 

内容も分からないけれど、原田マハさんの本なので借りてみた。
内容も知らずに読み始めた。
5ページ 目まで読んで、息をのんだ・・・。

いったん、パタンと本を閉じてしまった。

 

”その瞬間、丹華(ニケ)の小さな体が宙を舞った。
ドドドドドッ、轟音が響き渡る。ガガガガガッダダダダダッ、ものすごい地響きと共に周辺にあるものが全部、丹華に向かって流れ落ちてきた。”

1995年1月17日(火曜日)
午前5時46分52秒
兵庫県南部地震 発生
震源地 淡路島北部
北緯 34度36分 東経 135度02分
最大震度 7
マグニチュード 7.3
震源の深さ 16Km 

 

阪神淡路大震災の被災者のお話だった。

 

Amazonの本の紹介を引用すると、

”「とんでもない子やな、君は。
ほんまもんの『ニケ』みたいや」
勝利の女神”と同じ名を持つ少女が起こした、
あまりにもやさしい奇跡――

1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸騎(イッキ)、妹の燦空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是朗に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だった――。『楽園のカンヴァス』の著者が、絶望の先にある希望を温かく謳いあげる感動作。”

 

感想。
原田マハさん、やっぱり、すごい。

号泣。
ティッシュの箱、半分は使ったんじゃないかと思うくらい。。。
号泣した。
悲しみを乗り越えようとする幼い三兄妹。助け合う人々。。。。

温かいお話。
希望のあるお話。

外で読もうかと思ったけれど、読み始めたら、これは外では読めない。。。。
涙と鼻水が止まらない・・・。
出かける前に、一気読み。

 

初出は、「asta*」2012年7月号~2014年1月号、ということなので、2011年の東日本大震災の後に書かれたおはなしということだ。

私は、1995年の震災でも、2011年の震災でも、知り合いを亡くしてはいない。でも、せつなくてせつなくて、、、、泣けてくる。

鼻水をかみながら、気が付いたらこぶしを握り締めて、がんばれ~~、死ぬな~~、と思いながら読んでいた。

 

以下ネタばれあり。

 

物語は、震災の起こる前の夜、ニケの夢物語から始まる。気持ちよく寝ていたニケは、地震で夢の世界から一気に現実の世界へ戻される。二階で寝ていた3人の兄妹の家はぺしゃんこにつぶれ、目を覚ましたときには天井も壁もなかった。1階で寝ていたはずの両親は姿が見えない。やっと見つけたお母ちゃんは、がれきの下で動けない。火の手が襲ってくる。

逃げて、はよ、逃げてぇ!
ここにおったら、あかん。
すぐ逃げな、あかんで!
逃げて、はよ逃げて!

お母ちゃんをおいて、逃げることなんてできない。立ちすくむ3人の子供達。
小学三年生の逸騎(イッキ)、小学一年生の丹華(ニケ)、三才の燦空(サンク)。

イッキは必死に、母ちゃんの身体を埋めつくすがれきをどかそうとするけれど、びくともしない。ニケとサンクは、驚きと恐怖で動くこともできない。


火の手は迫る。

「イッキ、もうええから、、、もう、ええから、、、」母ちゃんがか細い声で言う。。。

どこからか、知らないおっちゃんが瓦礫の中に飛び込んで、母ちゃんの上に覆いかぶさったコンクリートの柱に力をこめるが、びくともしない・・・・。

母の血だらけの手が、おっちゃんのくるぶしをつかんだのをニケはみた。

「どなた様か、存じませんが、、、、この子たちを、、、うちの子たちを、、、どうか、どうか、、、、よろしゅう頼んます・・・・」

いつも笑っている母ちゃんが、泣いとぉ。

「いやや、いやや。母ちゃん死んだらいやや。死んだらいやや」
イッキが母ちゃんのそばから離れようとしない。

「ええか、イッキ。あんたはこれから、二人の妹を守って生きていくねんよ。お父ちゃんもおらんでも、お母ちゃんがおらんでも、絶対に、弱音をはいたらあかんよ。三人で、しっかり生きていいくねんよ。約束やからな。わかった?」

「・・・・」

「返事は?!」

「・・・はいっ!」

イッキは涙だらけの顔で、大きい声をあげた。

 

火の手は、すぐそこに迫っていた。黒煙が上がる。視界がかすむ・・・。

おっちゃんが、突風のようにイッキの身体を抱き上げた。

お母ちゃんは、自宅は、燃え上がる炎の中。。。

 

未明の空に、白い満月が、しいんと黙って浮かんでいた。決して届くことのない、別世界への出口のように。

 

イッキ、ニケ、サンクの3兄妹は、おっちゃんに助けられて、避難所での生活を始める。。。

おっちゃんは、心の病気の先生で、避難所でも仮設住宅でも、被災者の家々をまわって、訪問診療をしていた。ゼロ先生と呼ばれていた。本当は、おっちゃんも、奥さんを火の海から助け出すことができず、亡くしていた。息子は、そんな父親を一生許さないといって、断絶になってしまう。

3人を避難所から児童施設へおくってはどうかと言われたおっちゃんは、3人を養子にすることを決心し、家族となる。3人は、おっちゃんが奥さんを亡くしたことは聞かされていたが、息子のことは知らされていなかった。

 

ニケは、震災の時に脚に大きなけがを負って、うまく歩けない。学校では、親を亡くして身体に障害まで負った可愛そうな子、、、として扱われるのがしんどかった。そして、おっちゃんや、おっちゃんの弟子のゆい姉と一緒に回診にまわって、お年寄りにあうことで元気をもらうようになっていく。

そして、すくすくと育っていく3人。おっちゃんは、診療でいそがしいから、ご飯作りも、掃除も洗濯も、みんなで協力してやっている。イッキは、すっかり料理上手な高校生になり、ニケもサンクも恋する女の子になっていく。


ニケは、初恋をする。好きな人のことを思うと、ドキドキして、背中に羽が生える。大人になるって、こういう身体の変化があるのかな、とおもいつつ、羽は、じきにきえてしまう。

 

おっちゃんの診療所も再建し、日常を取り戻しつつあった。そんなある日、おっちゃんが、倒れる。持病の心臓の発作だった。
生死をさまようおっちゃん。
父ちゃんと母ちゃんを亡くした日のことが走馬灯のように3人の頭を駆け巡る。
父ちゃんも、母ちゃんも、いなくなっちゃったけど、おっちゃんがずっと一緒にいてくれた。
おっちゃんまでいなくなっちゃったら、、、。

おっちゃんは、救急搬送された病院で、一命はとりとめた。でも、早く手術しないと、いつ、また何があってもおかしくない状態なのだと。。。

おっちゃんは、先天性の心臓の疾患があって、それを治せるのは、、、、絶縁した息子、祐也先生しかいないだろう、とゆい姉が教えてくれた。

祐也先生は、実は、震災の時に大けがをしたニケの脚の手術をしてくれた先生でもあった。

すべてを聞いたイッキとニケは、おっちゃんの手術をしてください、とお願いするために、ゆい姉にお願いして東京の祐也先生に会いに行く。
祐也先生は、事情をきいても、断る、としか言ってくれない。

その晩、東京のホテルで寝ていたニケは、また、自分に羽が生えてきたことに気が付く。
この羽で、祐也先生に会いに行こう。
ニケは、夜明け前のホテルから祐也先生の病院まで、一生懸命飛んでいく。

当直で病院にいた祐也先生は、パジャマ姿に裸足のニケを見て驚く。
「おっちゃんを助けたいから、お父ちゃんを助けたいから、、」飛んできたというニケ。
ニケは、ギリシャ神話の勝利の女神、ニケだった。

「祐也先生、ゼロ先生の手術をお願いします。あたし、いますぐにでも、祐也先生を連れて、神戸まで飛んでいきます。
どんなに遠くても、祐也先生がゼロ先生に会ってくれはるなら」
ぐらりと体が揺れて、ニケはその場に崩れ落ちた。

 

夜が明けて、ニケが居なくなっていることに気が付いたイッキとゆい姉が、祐也先生を訪ねてくる。案の定、ニケは、祐也先生のところにいた。

 

「なあ、イッキ君。君は誰かを助けたくて、すぐにでもなんとかしたくて、いっそ空を飛んでいけたら、と思ったこと、あるか?」
唐突に、祐也先生が訊いた。

 

「あります。
大震災の時、目の前で、お母ちゃんが死んでいくんを、こどものおればどうすることもでけへんかった。テレビの特撮のヒーローみたいに、お母ちゃんをがれきの中からだきあげて、飛んでいけたら、、、思いました。でも、、、
おれらを抱き上げて、空高く飛んでくれた人がいました。。。。ゼロ先生です」

祐也先生が、温かな声で言う。
「僕も、今日、初めて思えたよ。。。飛んでいこうと」


おっちゃんこと、ゼロ先生は、息子である祐也先生の手術で、無事に元気を取り戻す。

 

物語は、震災から10年。ニケが天国のお父ちゃんとお母ちゃんに宛てた手紙で結ばれる。

”あたしは、これからもずっと、あたしの家族と、友達と、大好きな人たちと、この土地で、地に足着けて、いきてゆきます。
前を向いて、歩いていきます。
だけど、もしもくじけそうになったら、その時は、思い出すことにします。
大丈夫、翔べるって。
こうしてな、こうして、、、、ほうら。

翔ぶねん。”

 

THE END


大丈夫、大丈夫。

涙でいっぱいになりながらも、がんばれ~!と応援したくなる物語。
大切な人を守りたいという気持ちが、羽を生やすことも、あるかもしれない。
大切な人を守れなかった無念さは、きっと、きっと、、、、人を強くしてくれる。

悲しくて、悲しくて、寂しくて、寂しくて、、、
どうしようもない、、、悲しい事が起きたけれど、
それでも、、、、色々な人に助けられて、生きていく。生きていける。
そんなことを、思う。

 

と、こうして書きながら、また、涙と鼻水が止まらなくなった。。。。

 

優しい気持ちになれる一冊。

飛んでいきたい場所があるって、幸せなことだ。

大事にしよう。

 

『翔ぶ少女』 原田マハ