『認知バイアス  心に潜むふしぎな働き』 by  鈴木宏昭

認知バイアス
心に潜むふしぎな働き
鈴木宏
講談社 ブルーバックス
2020年10月20日 第一刷発行

 

とあるところで話題になったので、図書館で借りてみた。

 

感想。
まとめサイトみたいな本だな・・・。


面白いけど、私にとっては、そんなに新鮮ではない・・・。
ブルーバックス、久しぶりに読んだけど、まぁ、確かに、コンパクトに色々とまとめられている。文献もたくさん引用されている。だから、多くの人の様々な研究の要点がまとめられているような感じで、元の書籍を読んだことのある人には、ただの要約本ともいえる。

 

著者自身の経験にまつわる話が、すこしでてくるのだけれど、そこは、面白かった。
やっぱり、著者がどう考えているのか、その意見がかかれている本の方が、ただ、情報をまとめている本よりも面白い。読み物としては。

 

著者の鈴木さんは、1958年生まれ。青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。 認知科学が研究領域であり、特に思考学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会フェロー。人工知能学会、日本心理学会、会員。 

 

目次

第1章 注意と記憶のバイアス チェンジ・ブラインドネスと虚偽の記憶
第2章 リスク認知に潜むバイアス 利用可能性ヒューリスティック
第3章 概念に潜むバイアス 代表性ヒューリスティック
第4章 思考に潜むバイアス 確証バイアス
第5章 自己決定というバイアス
第6章 言語がもたらすバイアス
第7章 創造(についての)バイアス
第8章 共同に関わるバイアス
第9章 「 認知バイアス」というバイアス

 


第1章 注意と記憶のバイアスでは、チェンジ・ブラインドネスで有名なゴリラ実験動画が引用される。白シャツと黒シャツのメンバーが、同じ色のシャツの人同士でボールをパスしあっている動画で、白シャツチームが何回パスしたか、という課題をだされて動画を見る。興味がある方は、以下の動画のインストラクションに沿ってトライ。

youtu.be

 

動画を見た後、被験者は、パスの回数ではなく、「ゴリラはいましたか?」と聞かれるってやつだ。私も初めて見た時は、まったく気が付かず、2回目に見た時に、あ~~~~こんなに堂々とゴリラが、、、。ゴリラの着ぐるみを着た人が、のんびりと堂々と、パスをしているメンバーの後ろを通っていく。
人間の注意力は、限られている、という話。
事件の目撃者の証言も、意外と、あてにならない、ということ。


第2章 リスク認知に潜むバイアスでは、リハーサル効果が引用される。何かを頭に思い浮かべる時に、直前に目にしたもの、聞いたものに、意識が引っ張られるということ。思い出しやすさは、記憶への定着を意味する。繰り返し出会うもの、直前に出会うものは思い出しやすい。思い出しやすいものは、頻繁に起こることと錯覚する。
メディアが、ある種の事件ばかりを取り上げれば、人は、そういった事件が増えたのだと思う。実際には、発生頻度は変化していなくて、単にメディアが取り上げる回数が増えることによって、出会う回数が増えただけなのに。これは、事件になるとメディアが取り上げる、というメディアの特性の影響でもある。


飛行機が安全に着陸してもニュースにならないけれど、墜落すればニュースになる。
ロスリングの『ファクト・フルネス』も、人が過去の誤った認識のまま、ファクト、正しいことと記憶の書き換えができていないことを指摘している。
ニュースにならないことは、記憶にならない、、、ということだ。
ヒューリスティックも一つのキーワード。思い出しやすさ、発生頻度で判断する癖のことを「利用可能性ヒューリスティック」という。エイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』に詳しい。
『ファスト&スロー』は、翻訳本は上下二巻で、かなり読み応えがあるけれど、本当に面白い本。行動経済学に興味があるなら、読むべき一冊

 

第3章 概念に潜むバイアスでも、エイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンの実験で有名な「リンダ問題」が取り上げられる。

こういう問題だ。
「リンダは独身で31歳の率直で聡明な女性である。彼女は大学で哲学を専攻し社会正義の問題に関心を持っており、学生時代は反核デモにも参加したことがある。」

リンダが、
①銀行の窓口係である確率
フェミニストの銀行窓口係である確率
をそれぞれ別のグループで推定してもらう。
すると、②の方が①より確率が高くなるというのだ。

①は、②より広い概念であるにも関わらず。
これを、代表性ヒューリスティックと呼ぶ。

すごく綺麗でかわいい、スタイルの良い若い女性を見て、大学生、とおもうより、モデルをしている大学生、と思うことの方が多い、、、というのと同じ罠。


第4章 思考に潜むバイアスでは、これまた有名なトランプの実験が引用されている。
4枚のカードがある。これらのカードは、アルファベットと数字が裏表に書かれている。そして、「表が母音ならば裏は偶数」というルールがある。で、この規則が守られているかをたしかめるために、
「8」
「3」
「C」
「A」
と書かれたカードのうち、どれを裏返してみる必要があるか、という問題。
正解は、「3」と「A]。
しかし、人は、「8」と「A」を選ぶ傾向にある、という話。
この話も、しばしば引用されている。
「表が母音ならば」ということで、母音であるという集合の中に、「偶数」がある。「8」の表が母音である必要はない。ということだ。だから、「8」の裏を確かめたところでルールに従っているかどうかは判断できない。
でも、「3」の表が母数だったら、ルールに反することになる。
でも、「母音」「偶数」という条件をだされると、人は、その対象を確認したくなる、というのが、思考のバイアス。

 

第5章 自己決定というバイアスでは、自分では自分で決めたつもりでいても、外部環境に左右されているのが人間、という話。囚人のジレンマが、その一例。

ここでは、引用だけでなく、著者らの実験が引用されていた。
二つのグループに分け、「ある女子大生がインドを一か月旅行しました。ある街のはずれに日本料理店をみつけた」、という文章で、最後に
①「彼女は、刺身定食を注文しましたが、考え直して焼き魚定食にしました」
②「彼女は焼き魚定食を注文しましたが、考え直して刺身定食にしました」
という文章をそれぞれのグループに読んでもらい、理由を考えてもらう。
終了後に、クッキーと消毒液を置いたトレーをおいておき、実験のお礼ですのでご自由にどうぞ、と告げる。

さて、何が起きたか。
①の理由をかんがえたグループは、質問の答えとして、「彼女は衛生問題を考えて焼き魚定食に変えた」と考えた。すると、消毒液の使用量が、②の刺身定食にした理由を考えたグループより多かった、というのだ。

事前に考えたこと、目にしたことによって、自分の判断、行動は左右される、ということ。
無意識とおもっていても、脳に刷り込まれたものがあるということ。


第6章 言語がもたらすバイアスでは、言語をつかって何かを表現したり考えたりすると、直感で考えるよりも誤る可能性が増える、という話。
また、有名な睡蓮の話が引用されている。

「ある池に睡蓮がひとつだけ咲いています。この睡蓮は毎日2倍ずつ増えていき、60日目には池のすべてを覆いつくしました。さて、睡蓮がこの池のちょうど半分を覆ったのは何日目でしょうか」

答えは、もちろん、59日目。

だけど、2倍と、60日という言葉に引きずられて30日、と答える人も少なくない、という話。
画像をイメージすれば、当たり前に59日なのだけれど、文字、数字、言葉にこだわると、誤る、ということ。


第7章 創造(についての)バイアスでは、ゲシュタルト心理学ろうそく問題が引用される。
マッチ箱とロウソクをつかって、ある高さに火をともせ、という話。これも、有名な話。
マッチ箱を台にするのが正解なのだが、ロウソクが何本か用意されているので、ロウソクを重ねようとしてしまう。マッチ箱を台にするという想像力が働かせられるかどうか、という話。
もう一つ、T字パズル。これ、温泉宿とかにたまにおいてあるシルエットパズル。

「THE T」という木のおもちゃ。4つに分かれた別々の形のピースを組み合わせて、Tの字にする、というやつ。Tには、90度の交わりしかないのだから、冷静に考えれば簡単なのだけど、結構難しい。
実は、私はとある温泉で解けなくて、気になって購入した。家でやってみたら、なんてことない、簡単にできた。
同じピースで47種類の形をつくる問題集もついてくるので、図形の頭の体操が好きな人にお薦め。「NOB」「THE T」で検索すると出てくると思う。

 

第8章 共同に関わるバイアスでは、集団の中でだれかが黒というと、なんとなく黒の気がする、ってやつ。サクラにひっぱられやすいってことだ。
Amazonの口コミだって、信じないとおもっても、頭のどこかで気になる。食べログの評価もそうかもしれない。実際には、たいしてあてにならないって知っているんだけど。

 

ま、どの章も要するに人間は色々なバイアスがかかって物をみているし、決めているということ。
なぜ、そういう事が起こるのか、という解説がないわけではないけれど、そうだからそう、、、という、事例を集めた一冊、という感じがしなくもない。

けっして、ウソじゃないし、よくまとまっていると思う。そして、各章にもととなる文献が紹介されている。

興味があれば、もとの文献を読んでね、ということなのだろう。
そういう意味では、読むべき本の紹介本ともいえる。 

 

人は、なぜそのような行動をとるのか、人の行動、認知行動科学に興味があるなら、

エイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』

ダン アリエリーの『予想通りに不合理』

が、お薦め。

 

認知について語っているという点では、森田真生さんの『僕たちはどう生きるか』にも結構取り上げられているのだが、同じテーマを扱っても、こうも表現がかわるのか、という点も面白い。

megureca.hatenablog.com

 

認知の世界は面白い。

 

 

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認知バイアス  心に潜むふしぎな働き』