『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』by ダニエル・ヤーギン (その1)

新しい世界の資源地図
エネルギー・気候変動・国家の衝突
ダニエル・ヤーギン 著
東洋経済新報社
2022年2月10日第1刷発行

 

今、話題の図書。新聞広告にもよく出ている。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ベストセラー。
定価3200円、税抜。
これは図書館を待ってられないと思って、買って読んでみた。
すごい内容量。

 

これが3200円は安いと思う。最後には索引もついている。参考文献を除いても、536ページ。4 cm ぐらいの分厚さ。私は、普段出かける時、単行本でもあまり気にせず持ち歩くのだが、さすがにこれは重いので全部家で読んだ。トータル10時間ぐらいかかったかもしれない。とても速読できるような内容ではなく、かなりじっくりゆっくり。読書メモにしているマインドマップも、いつもなら1ページなのが、4ページに及んだ。とにかくすごいボリュームの本。 100枚入りの付箋も半分以上つかったかも?!

 

帯には、
エネルギーをめぐる凄まじい戦いの全貌
原油価格はなぜ激しく変動するのか?
米中関係はどうなるのか?
地政学リスクから第一任者が読み解く渾身の書
最新情報が満載!
日本人が知らない資源戦争の裏側
米国 VS ロシア・中国の冷戦時代、
エネルギー転換の未来を描く」

と、モリモリ。


しかも、赤い装丁。おまけに「新しい世界の資源地図」の文字は赤のラメラメ、キラキラ。なので、本屋さんでもかなり目立つ。

表紙の裏には、
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか
エネルギー問題の世界的権威でピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー改革と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書 」

 

感想。
とにかく、、、、すごいボリューム感。
すごい情報量。
読んでよかったけど、わかったのは、やっぱり
「エネルギーを制する者が世界を制する」ってことか?!

理解できたのは30%くらいかもしれない。


ちょっと、一言では言い切れないけれど、蒸気の時代の石炭から石油の発見、天然ガスの発見。再生可能エネルギーへの移行。それに伴う建設材料への需要高まり、、、。
経済はすべてが繋がっている、、、、。
その根幹は、原料でありエネルギー
それを持っているか持っていないか、それによって国のありようが変わっていく。そういうこと。
日本がエネルギーや原料の表舞台に立つことは極めて困難だろう。。。
できるとすれば、活用するテクノロジーしかない。

頭脳なら、天然資源が無くても生み出せるはずだ!!

なんて思ってしまう。
テクノロジーは貧困を救わないけれど、テクノロジーがないと世界で生きていけない。
それが一番感じたことかもしれない。

 

目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図 

 

米国、ロシア、中国、中東は、それぞれの天然資源の強みの話を軸に、国の立場の変遷が説明されている。自動車と気候、というのは、それぞれエネルギー消費に関わってくるから。
自動車は言わずと知れた、脱ガソリンの電気自動車への動き。気候は、地球温暖化の問題から化石燃料からのシフトが必須となっているはなし。カーボンニュートラル(CN)、ネットゼロに向けた動き。

いずれも、1900年代(世界大戦争時代)から現在の流れの説明がメインだけれど、この100年のあいだにも、どれだけ国同士の関係が変化してきたか、という話。


国家間の色々。
経済力、軍事力、地理的条件。
野心、疑心、怖れ、、、。


そんなものが入り混じる国と国との関係が、これでもかというくらい詳しく、深く説明されている。
いやぁ、、、すごい人だ。

 

著者のダニエル・ヤーギンは、ニューヨークタイムズ紙によれば「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」、フォーチューン紙では「エネルギーとその影響に関する研究の第一任者」と評されている。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著者に『石油の世紀 支配者たちの興亡』、『探求 エネルギーの世紀』、『砕かれた平和 冷戦の起源』などがある。


たぶん、私はどれも読んだことがない。でも、本書は、とても興味をひかれた。地政学というものに興味を持つようになったからかもしれない。
まさに、地政学の本だった。
教科書みたい。
読み終わったら、付箋だらけだった。

 

覚書にさらっと残せる量ではないのだけれど、私なりの覚書。
まずは、アメリカから順におって、残しておく。

長くなりすぎるので、本書は2回にわけて覚書。

 

第1部 米国の新しい地図
アメリカが第二次世界大戦後に覇権国になったのは間違いないが、その後のもっと大きい変化は、シェールガスの発見だったということ。シェール革命で米国の貿易状況は一変した。シェールは欧州のエネルギーよりも安く生産することができたから。 アメリカの企業だけでなく欧州や中国の企業までもが、アメリカに投資するようになった。中国で作るよりもアメリカの方が安いものすらできたのだ。 これは驚き。


アメリカはシェールのおかげで2018年、世界ナンバーワン産油国になった。 そして輸入国から輸出国へ。
またトランプ大統領の出現は、世界にいくらか混乱を招くものとなった。 なぜならばトランプ大統領自身がアメリカからの LNG の輸出について各国に物言いをするようになったから。それまで、ロシアや中国に向かって「エネルギー貿易に政治を介入させるな」と言ってきた西側諸国だったのに、トランプがいきなり介入した
パリ協定からの離脱もそうだけれど、やっぱり、トランプ大統領は世界をかき混ぜて混乱させまくったように思う。
アメリカに住んでいるひとが、「悪夢の時代」と言っていたのがちょっとわかる気がする。

 

日本も、アメリカの石油・天然ガスの輸入に積極的。日本はそれらの供給を対米貿易黒字を減らす上で重要なものとして、また世界のエネルギー安全保障に役立つものとして捉えている。
ちなみに、日本は、石油は99%、天然ガスは98%輸入している。


2011年の福島第一原発の事故以来、原子力発電由来の電力が足りなくなった分は、 LNG が発電燃料としてその大半を埋めている。あとは、石炭も増えた。日本のCNへの道はほんとにまだまだ厳しい。

 

現在のウクライナ侵攻を理由としたロシアのエネルギー輸入禁止措置も、アメリカには痛くも痒くもない、、、というところだろう。
シェールの掘削技術ができていなかったら、今回の事情も異なっていたかもしれない。。

シェールが世界のエネルギー均衡を変えた。
それが、アメリカの経済力を変えた。

シェールを掘削できるようにした技術力はすごいと思うけど、やっぱり、その土地にシェールがあるという事実が強い。どこの土地なのか、地政学が大事になるわけだ。

 

正直、この第一部だけでも、この一冊を買った甲斐があるという感じ。でも、まだまだ序盤。。。

 

第2部は、ロシア。まさに、火中のロシア。ロシアの石油産業の歴史は19世紀に始まる。 しかし1905年の革命(ボルシェヴィキ)後、石油産業は停滞する。レーニンは燃料危機を解決するための策として石油産業を国有化した。 停滞の続いたロシアの石油産業が、グローバル市場に輸出国として復活したのは、第二次世界対戦後終結からしばらく経った1950年代末だった。

しかしその時にはグローバル市場は、すでに中東の石油で飽和状態になっていた。 
そこにソ連の石油が増えたため、石油の価格は下がった。そのせいで収入が減った石油輸出国は激怒してサウジアラビアベネズエラの主導のもと新しい組織を結成した。それが石油輸出国機構通称 OPEC
OPEC結成の歴史。1960年のことだ。

そして、その後、1970年代の石油危機。
ソ連は、石油価格の高騰で、経済をかろうじて持ち直す。

石油危機では、日本でも大騒ぎになった。トイレットペーパーがなくなるとかいって、主婦はトイレットペーパーのためにスーパーに行列した。

私も、なんとなく記憶にある。子供でも一人2個の購入量制限にはカウントされたので、母と一緒にスーパーに並んだ記憶がある。幼稚園くらいだったろうか。。。

日本人は、トイレットペーパーに並ぶの好きね、、、、なんて。

 

そして、ゴルバチョフの時代、エリツィンの時代。。。

プーチンの登場は、2000年。エリツィンから大統領の後継に指名される。

そして、めざしたのは、
社会秩序を再建すること。経済を安定させること。国家の権威を強化すること。ロシアを大国として復活させること」だった。

まさに、2022年の今も、その続きをウクライナでやっている、、、、ということだ。

 

ウクライナ」という名前は、「縁」または、「辺境の地」という意味。その話は、ジョージ・フリードマンの『新・100年予測』にも出てきた。

megureca.hatenablog.com

 

見渡す限り平原が広がり、自然の境界はほとんどない。そんなところが何故そんなに重要なのか、どういう歴史なのか?


ウクライナは、 ロシアもウクライナも自国の起源とみなす「キエフ大公国」があった。ロシアは、ウクライナとロシアは同じアイデンティティを持つと主張し、ウクライナは別々のアイデンティティを持つと主張してきた。今もそれが火種になっているわけだ。
1991年、ソ連の崩壊でウクライナは初めて主権国家になった。その時、実は「生まれながらにして核保有国」だった。1900個の核弾頭をロシアから受け継いでいたから。だが、1994年のブダペスト覚書でそれらはロシアに譲渡されている。かわりに、ロシア、イギリス、アメリカから、「ウクライナの既存の国境」を尊重するという約束を取り付けた。

プーチンはそれを無視している。
やっぱり、今、プーチンがやっていることは、侵略だ。

 

その後、2004年、ウクライナは、西側寄りのユシチェンコが大統領となり、ロシアを愕然とさせる。ウクライナは、ロシアの欧州への天然ガスパイプライン設置場所として重要だった。ウクライナにとっても、欧州への天然ガスに関税をかけられるメリットがあった。
そのウクライナが、パイプラインを管理しており、ロシア寄りでない政権になると、ロシアの思惑通りに欧州にガスを供給できなくなる怖れがある。ロシアにとって、ウクライナが自分たちの言うとおりに動かないというリスクを抱えた状態といえた。

そして、いまだにプーチンは、
ウクライナは国ですらない。ウクライナとは何か。領土の一部は、東欧にかかっているが大部分は我々からの贈り物だ。。。大ロシアと小ロシア、つまりウクライナがある。我々の関係については、誰でも口出しさせない。これはどこまでもロシア自身の問題だ。」と語っている、、、、。 


2014年クリミアの併合も含め、ウクライナも西側諸国もまったく納得していない。
そんな状況のまま、今のウクライナ侵攻、、、。

 

ウクライナというのはロシアのエネルギー政策にとって、ロシアを大国にするために需要な土地。なぜなら、ロシアからのエネルギーの主たる輸出先が欧州だから。

 

欧州のエネルギー政策は変化しながらも二本の柱があった。一つは、欧州全体で天然ガスの単一市場を形成すること。二つ目は気候変動対策として脱炭素と高効率化、再生可能エネルギーへの速やかな移行を目指すこと。 
現在、欧州内の各地はパイプラインでつながっている。
天然ガスはロシアからのものだけでなく、オランダのフローニンゲンガス田、英国の北海のガス田、ノルウェー北アフリカアルジェリアからも来ている。 

ウクライナ問題で話題になっていたノルド・ストリーム2だが、1本目のパイプライン、ノルド・ストリームは2011年に完成している。
2は、現在、中断されたままだ。 

欧州がロシアへの制裁のために遮断しているのは古いノルド・ストリームということだと思う。

そして、欧州との関係がぎくしゃくするなか、いま、ロシアは東方シフトをしている。石油の輸出先を欧州から中国にシフトしているということだ。しかし、同時に中国人がロシア側に大量流入してくるというリスクも抱えている。それでも、エネルギーのつながりは大きい。

 

ロシアの影響力は、いまなお、中央アジアにもおよぶ。
中央アジアカザフスタンキルギスタジキスタントルクメニスタンウズベキスタンアゼルバイジャンを含む範囲)はユーラシア大陸のちょうど真ん中に位置する。ハルフォード・マッキンダーが1904年「世界の地政学的な中軸地帯」すなわち「ハートランド」と指摘した地域。
これらの地域も、今では産油国となっている。21世紀になってから、パイプラインも出来ている。
今後、この地域が、ロシアにつくのか、中国につくのか、、、それが今後の注目ポイント。

 

ロシアの未来は、どうなるのか。本来なら、2024年でプーチン大統領の任期はきれるはずだった。それが、2020年、プーチンは新たな憲法改正2036年まで大統領の任期を延長することが可能になった。中国の習と同じことをしている。。。
これらは、ロシアは中国との関係を強化するということに他ならないという。エネルギーにおける戦略的パートナーシップ。加えて、対アメリカという反発も共通。
アメリカとの関係も、エネルギー問題。

やはり、エネルギーが今後を左右する。

 

ここまででもだいぶ長くなってしまったので、今日はここまで。。

続きは(その2)で。

 

『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』