『新しい世界の資源地図 』by ダニエル・ヤーギン (その2)

新しい世界の資源地図
エネルギー・気候変動・国家の衝突
ダニエル・ヤーギン 著
東洋経済新報社
2022年2月10日第1刷発行

 

目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図 

 

その2。

昨日のアメリカ、ロシアの続き。

 

第3部は、中国。

アメリカと中国の2国だけで、世界のGDPの40%、軍事費50%。いまや中国は巨大な新興国であるのは間違いない。世界の工場としてだけでなく、消費国としても巨大だ。
2000年の自動車の国内販売数は、中国が190万台、アメリカ1730万台だったのが、2019年には、中国が2500万台、アメリカが1700万台と逆転した。
中国の巨大市場ぶりは、言うまでもないだろう。日本だって、中国人の爆買いでずいぶん潤ったはずだ。コロナ前まで、、、、。

今、中国の課題といえば、「南シナ海」。中国は、勝手に自国で世界地図を描いて、自国の教育に使用する。最初にそんな地図を作ったのは、中国で最も多大な影響力を持ち、英雄であり、尊敬されていた地理学者、白眉初。今も当時の地図が引き合いに出される。そして、中国人は子供の時から南シナ海は中国の海、と教えられている。
おそるべし、刷り込み。

 

2010年7月、ASEAN第17回地域フォーラムで、東南アジア諸国は中国の南シナ海に対する態度に、警戒心を高めていた。当時のヒラリー・クリントン国務長官は、東南アジア諸国に望まれるまでもなく、中国に対して強い姿勢で望むつもりだった。
そして、南シナ海を「核心的利益」と呼ぶ中国に対して、クリントンは、「自由なアクセス」は保たれるべきであり、アメリカの「国益にかかわる、と表現した。
これに、中国の楊外相は怒りにふるえた。その時に言った言葉が、今でも報道で引用されることがある。
中国は大国で、他の国々は小国です。これは事実です
つまり、小さい国がつべこべいってんじゃねーよ!って感じ。

会場はしー---ん。。。

この発言をうけて、主催国ベトナムの外相は、「お昼になりました。ランチにしましょう。」とかわした。

しかし、その時からずー--と、南シナ海の衝突はつづいたまま、、、ということだ。

 

中国がここまで経済成長を成し遂げられたことの裏に、「コンテナ輸送」の開発があった、という話が出てきた。
これは、目からうろこだった。
「コンテナ」、あの、ただの箱でしかない、コンテナだ。それが海上輸送革命をもたらした。
「コンテナ」を開発したのは、マルコム・マクラーレンというトラック運送会社を立ち上げたアメリカ人だった。ある時、トラックの中で港湾労働者がトラックに荷物を積み替えるのを待っていた。箱をひとつづつ、人が船からトラックに積み替えていたのだ。待ちくたびれた。その時、ふと、なんでトラックの車体ごと船にのせないんだ?!と思いついた。
そして、車両から切り離された「コンテナ」ごと船で運ぶ、というアイディアになった。

今では、船にコンテナが積まれている図に何の疑問も抱かないけれど、世界各国共通のコンテナが使われるようになって、海上輸送は飛躍的に効率があがったのだ。中国はその恩恵を存分に受けている。世界10大コンテナ港のうち、7つが中国にあるそうだ、、、。
恐るべし、中国。


2020年、コロナで中国の流通が動かなくなると、世界のサプライチェーンが止まった。中国が世界貿易において現在の地位を築けたのは、コンテナ船のおかげ。

いやぁ、これは、気が付かなかった。。。
面白い。

 

中国に関しては、アメリカとの貿易戦争の話も。レーガン大統領からオバマ大統領までは、中国とは協力を深めていきましょう、だったのが、トランプ大統領になって反転。それまでに、中国の台頭がアメリカにとって脅威になるほどに育っていたからであり、時代背景もあるけれど、トランプ大統領でなければ、G5をめぐるファーウェイの追い出しまではいかなかったかもしれない。
2018年のマイク・ペンス副大統領の発言をみても、中国は「米国の技術をごっそり盗みとっている」としている。

 

前にも引用したことがあるけれど、2021年のNational Security Commission on Artificial Intelligence(NSCAI)のfinal reportでは、はっきりとこのままでアメリカは中国に抜かれると言っている。

megureca.hatenablog.com


第4部は中東。これは、何度読んでも、何を読んでも、複雑すぎる、、、。石油、宗教、、、、。国だか宗教だか、宗派だか、、、この間まで敵国同士がいきなり手をくんだり、、、よくわからん・・・。そこに、ロシアもアメリカも、色々な形で介入するから、収拾がつかない、、、。加えて、石油価格の乱高下も各国に大きな影響を与えている。
そして、メインストーリーは、
ISISは、カリフ制をめざし、国民国家を認めない
サウジアラビアは、石油以外の収入源を模索し始め、宗教的規制を緩和し始めている。
ということか・・・・。
複雑すぎて、書ききれないので、以上。。。
あ、あとは、やっぱりイランの動き。

 

そして、第5部と第6部では、電気自動車と気候の話。
これまでの国を中心とした話からはちょっと毛色が違う。
でも、やはり、中心はエネルギー

 

電気自動車といえば、いまはイーロン・マスクのテスラ抜きには語れない。歴史を振り返ると、実は1900年代、ニューヨークではガソリン車よりはるかに多くの電気自動車が走っていた。トーマス・エジソンが、電気自動車の開発と普及に夢中だったのだ。でも、2つの事が電気自動車の普及を阻んだ。
一つは、フォード社の大量生産によるT型車の普及。もう一つはガソリン自動車に必要だったスターターの自動化。ガソリン車は、スターターが開発されるまでは、自分で車の前に立ってクランク棒を回してエンジンをかけていたので事故も多かった。それが不要になったので安全になった、ということ。
そして、すっかり忘れ去られた電気自動車が再び日の目を見るようになったのは、カリフォルニアから始まった排気ガスによるスモッグ問題排ガス規制が始まり、各社が排ガスの出ない車(少ない車)の開発をめざすようになる。
そして、テスラの時代へ。


電気自動車の最初の壁は、バッテリー。それは、リチウム電池の開発がすすんで、今では一回の充電で走行できる距離は200マイル、約320Kmまでに及んでいる。ただし、そのようなバッテリーの値段はまだまだ高価。2030年頃にはお手ごろ価格になるのではないか、というのがマサチューセッツ工科大学のみたてだそうだ。
そして、気候変動に対する懸念の高まりから環境負荷低減への意識が高まり、電気自動車に対する需要に追い風に。それが、現在の状況だ。
ついでに、一時盛り上がった、排ガスが管理された燃費のいいディーゼル車も、フォルクスワーゲンの「排ガス数値不正事件」で、下火になっている。

 

現在、世界で一番電気自動車やハイブリッドが普及しているのはノルウェー
ノルウェーは、石油や天然ガスの生産による収入が大きいが、自国の電力は、ほぼ安価な水力発電でまかなわれている。電気代が安くなるということだ。

中国は電気自動車の開発では出遅れているものの、リチウム電池の生産量はすでに世界の3/4になっている。
ここでも、中国なしには世界のバッテリーがまかなえない、、、という勢力図が出来ている。

電気自動車の次は、自動運転だ。一応、あらゆる企業が競い合うなか、自動運転の定義についてはコンセンサスがある。

レベル0から5までに6段階。

「自動運転化ナシ」がレベル0。

速度を一定に保つクルーズコントロール機能を持ち、ドライバーの監視下で自動でアクセルを制御するまでがレベル3。
レベル4は、「高度自動運転」で、ドライバーの監視なしに走行したり周囲の環境認識したりできる。ただし、走行できる場所は仮想の境界線のエリア内(空港内のみとか、大学構内のみとか)に限られる。
レベル5は、「完全自動運転」でありあらゆる条件下で全ての運転タスクを実行できる。

これらが満足できる技術の開発が必要なのは言うまでもないが、保険についても様々な課題がありそうだ。

車の使われ方も時代とともに変わってきた。所有より、シェアの時代だろう。あるいは、ウーバーのように自家用+業務。

 

私の希望を言えば、早く完全自動運転になってほしい。そうなったころには、「昔は人が運転していたんだよ」ってなって、「え~~~こわー-い!」ってなるだろう。
運転免許証なんて、過去の遺物だ。。。
いまでも、首都圏ではペーパードライバーだけど身分証明のために持っている、っていう人多いのではないんだろうか。
私がそうだ。昔は、運転が大好きで、マニュアル車にものっていたくらいだけど、いまじゃ、欲しいとも、運転したいとも思わなくなった。まずもって、運転するなら飲めないし。。。
MaaSで、快適な移動手段が提供される日を心待ちにしている。

そもそも、完全自動運転になったら、今の車の形である必要もないのだろう。
空気抵抗は低いほうがいいから、ある程度流線形になるのには違いないだろうけど。

デザインも色々出来そうで、楽しみ。

 

本書の中では、それでも電気自動車が市場シェアでガソリン車に追いつくにはかなりの時間がかかるだろう、と言われている。さて、どうなるかな。


第6部は、気候。しめくくり。パリ協定がいかに画期的な出来事だったかということ。そして、せっかくオバマさんが道を開いたのに、直後にトランプ大統領が破棄してしまったこと。でもって、バイデンさんは即日、パリ協定に復帰したこと。。。

2050年までに、カーボンニュートラルをめざす。昨年のCOP26でも、多くの国がそれぞれの誓いをたてた。
再生可能エネルギーを増やす。炭素回収をすすめる。この二本立て。
森林破壊を食い止めるというのも、炭素回収に貢献できること。にもかかわらず、昨年も山火事で多くの森が燃えつくしてしまった。。。なんてこった。

 

再生可能エネルギーで、古くからつかわれているのは太陽光発電風力発電。現在、太陽光発電が主流の電力に組み込まれたのは、ドイツの環境政策と中国の生産能力とが合わさったことによると言う。
ドイツはヨーロッパの中でも再生可能エネルギーの普及を早くから始めた。パネルの生産も技術大国としてすすんでいたのだが、今ではほぼ中国メーカー産になっているそうだ。

2010年から2018年の間で中国の太陽電池の生産能力は5倍に伸びた。それによって世界の需要を上回り、中国国内で太陽光パネルが余ることになった。そこで中国政府は太陽光パネルの国内市場の創出にも動いた
2013年中国はドイツを抜いて世界最大の太陽光パネルの市場になり2017年には世界史上の半分を占めるまでに成長した。

ここでも、中国なのだ。。。
中国は今世界の太陽光パネルのおよそ70%を生産している。 
そして、実は、風力発電も、世界の40%がアジアに設置されていて、その3/4が中国。。。

太陽や風力による発電の一番の課題は、発電が断続的であること。電気は一定の出力で送電しないと、停電の恐れがある。発電量の増減にあわせて、過不足を補完して全体の送電量を一定にするための管理可能な発電との組み合わせが必要である。故に、送電網も複雑になる。
電気は、発電だけでなく、送電網の管理が一層重要になる。

スタンドアローンでまかなうなら問題はないけれど、やっぱり相互に補完し合える送電網につながってこその再生エネルギーなのだ。

他にも、水素発電、二酸化炭素吸収量が多い「スーパー植物」、さまざまな開発が進んでいる。

個人的には、やっぱり、日本は、核融合発電、頑張ってもらいたい気がする。

2022年4月29日の日経新聞に、世界で核融合発電への投資が高まりつつある、という記事が出ていた。2050年の実用化といわれていたものから、2030年代の実用化に向けて弾みがついているという。日本もがんばれ~~~!

 

地球温暖化の抑止として化石燃料がやり玉にあげられているが、化石燃料は燃やされているだけではない。プラスチックをはじめ、有機溶剤など、多くの産業で原料としても使われている。
風力や太陽光、電気自動車の普及で、鉄、コンクリート、プラスチックの需要は増え続ける。それらの原料を作るためにも、やはりエネルギーが必要なのだ。

日本は、石油の消費量は減っているらしい。頑張ったからではない、、、単に、高齢化による人口減少の影響のようだ。 

 

と、まだまだ、覚書たりないところもあるのだけど、長くなってしまったのでこのあたりで。。。。

 

本書は、今後も予期せぬ展開は色々あるだろうとしつつ、

「気候変動が新しい地図の決定的な特徴になったことにより、エネルギーと国家の関係に新しい時代が開かれようとしている」

と、結んでいる。

 

エネルギー問題。古くて新しい。

人間が生きていく限り、ずっと続く問題だろう。

 

読み応えのある、一冊だった。

ちなみに、ダニエル・ヤーギンさんは、どんな人なのだろう?と思って、YouTubeで講演をみてみたら、結構なおじいちゃんだった。

そりゃ、知識の宝庫のような方なんだろう。

動画もいいけど、やっぱり活字の本もいい。