『キネマの神様 ディレクターズ・カット』 by 原田マハ

キネマの神様 ディレクターズ・カット

原田マハ
文藝春秋
2021年3月25日 第一刷発行

 

まさかまさかの、小説から映画、映画からノベライズ、、、という、聞いたことのない繋がりの本。
文庫で『キネマの神様』を読んだ後に、図書館で原田マハさんの単行本の棚をのぞいていたら見つけたこの一冊。

megureca.hatenablog.com


あら、ディレクターズ・カットって、どういうこと??
とおもったら、小説〈キネマの神様〉を原作とした映画〈キネマの神様〉を原作とした小説〈キネマの神様〉を書いたということ。

 

本書のまえがきに「歓び」というタイトルで原田マハさんのコメントがある。
もともと『キネマの神様』は、原田さんのお父さんをモデルにしたお話だったという。ギャンブル依存症で、映画好き、という丸山郷直・まるやまさとなお「ゴウ」のモデルは、原田さんのお父様だったのだと!こりゃびっくり。
で、そのお父さんをモデルにした、壊れかけた家族を映画が救う奇跡の物語が、『キネマの神様』小説編。
そのお父さんは、『キネマの神様』の出版後、これは俺のことなんだと、友人に吹聴して、自慢して回ったらしい。そして、91歳で亡くなったとき、原田さんが棺の中にこの一冊の文庫本をしのばせたほど、お父さんの本だった。


そして、お父さんが亡くなったその翌年、原田さんは、原田さんにとってまさにキネマの神様である山田洋次監督との出会いに恵まれる。そして、「僕だったらこういうエンディングの映画にしたい、、、」と監督は語り始め、一年以上かけて脚本ができあがる。山田監督は、脚本は原作からあまりに大きく変更しているので、原田さんがこの脚本での映画化を認めてくれるのか心配だったという。でも、原田さんは読んですぐに気が付く。たしかに、大幅に変わっている。でも、原田さんが描いた、二つのエッセンス、映画愛と家族愛が抽出されて深められている。
原田さんは、もちろん、映画化を快諾。そして、2020年パンデミックの中、、、主役だったゴウを演じていた志村けんさんが撮影半ばでコロナに倒れてしまう、、、、。
と、そんな障壁を乗り越え、志村さんの盟友、沢田研二さんがゴウを演じたのが、映画、キネマの神様。
それのノベライズが、本書、『キネマの神様 ディレクターズ・カット』。

 

いやぁ、その、いきさつがすごい。面白い。楽しい。


映画はみていないけれど、原作からこれだけ大幅に変更してしまえば、まったく違う話の様でいて、、、でも、やっぱり、映画の神様、キネマの神様の物語だった。

にしても、こんなに違っていても、映画のロールには、「原作 原田マハ」ってなるんだ、って感心。。。

 

感想。
面白い。

原作をそのまま映画にするのは難しいかもしれない。が、これはいかにも映画向きだ。というか、映画からのノベライズなんだから、そりゃそうだ。

原田さんの原作を、こういう映画にしたてる山田監督もやっぱりすごい。

 

原作は、主人公は歩(一家の一人娘)で、家族の中では独身の元大手企業管理職娘からの視線の話。
ディレクターズ・カット版では、主役が歩の父ギャンブル依存症のゴウになる。79歳の男の視線。でもって、歩は一人息子を抱えて実家に出戻った娘。母親の描かれ方も、ゴウとの出会いのなれそめが詳しく、夫婦愛の色が濃い。

 

原作では、ゴウの映画ブログを、「映友」社長の引きこもり一人息子が世の中におくりだすことが軸に話が展開されていくが、ディレクターズ・カット版では、歩の息子が引きこもりの設定で、おじいちゃん・ゴウが昔手掛けた脚本を脚本コンテストに応募して映画化をめざす、というお話。ゴウは、昔映画監督をめざしていた、という想定だ。

歩とゴウ、そして、名画座テアトル銀幕が舞台になる設定はかわらない。

ブログバトルの話が、映画脚本バトルになっている。

 

いやはや、ほんとに、原作から、これをつくった山田監督もすごい。
そして、監督の脚本を、こうして一冊の小説にしてしまうのもすごい。

うん、面白かった。

 

やっぱり、読むなら、『キネマの神様』を先に読んで、それから、『キネマの神様 ディレクターズ・カット」の順番だろう。私は、その順番でこれらの本に出会えてよかった。

原作では、「ニュー・シネマ・パラダイス」がとっておき映画として取り上げられているが、山田洋二監督は、小津安二郎監督の「東京物語」がひとつのキー映画に。さすが、邦画の神様?!?!「東京の物語」というタイトルで小田監督の、、とフィクションになっているけれど。

 

歩の孫が、名画座の主、テラシンからもらった、ゴウが50年も前に書いた脚本を、「現代風にアレンジしよう」というあたりは今っぽくもあり、時代を感じる。

 

わたしは、別に山田監督のファンでもなかったのだけれど、あらためて、寅さんシリーズでも見てみたくなった。

 

原田さんのお父さんの言葉が、そのままゴウの言葉になっている。

人生でわからないことがあったら、映画を観ろ。答えはぜんぶ、映画の中にある。

映画愛にあふれまくっている。 

ほんと、そうかもね。

 

そして、やっぱり、映画をつくるひとって、最高のエンディングを考えて、それからお話をつくっていくのかな、なんて思った。

 

映画、キネマの神様も、いつか観てみようかな。

コロナですっかり映画館から足が遠のいてしまったけれど、やっぱり、映画も好きだ。

最後に映画館で見たのは、「ドライブ・マイ・カー」かもしれない。

あの最後のシーンだって、人によって様々に解釈されている。

そして、その感想を語り合うのも映画のたのしみ。

小説もそう。

結局、いいじゃない、好きに解釈すれば、って思う。

 

色々あって、それでいい。

映画も、本も、人生も。

 

『キネマの神様 ディレクターズ・カット』