『ギフト』 by  原田マハ

ギフト
原田マハ
ポプラ文庫
2021年1月5日 第一刷発行
(本書は、2009年7月にイースト・プレスより刊行された『ギフト』を加筆・修正のうえ、「ながれぼし」を加えて文庫化したものです。)

 

図書館の文庫本の棚にあった、原田マハさんの一冊。簡単に読めそうなので、借りてみた。
ショートストーリー集。短いものは、4ページくらい。「ながれぼし」は、比較的しっかり短編物語。

裏表紙の説明には、
”もやもやとした気持ちを抱いて私は旅に出る(「この風がやんだら」)。大学時代の親友の結婚式へ向かう特別な近道(「コスモス畑を横切って」)。海外留学の前や桜並木の下を父親と歩く(「そのひとひらを」)。エニシダの枝に飾られた彼からのメッセージ(「花、ひとつぶ」)。稀代のストーリーテラーが、慌ただしい日常の中に潜む小さな幸せを描き出す心温まる20の物語(ギフト)。母と娘の切ない絆を描いた短編「ながれぼし」を併録。”

と。

 

恋人に素直になれない女性。友人と同じ人を好きになってしまった心のモヤモヤ。父と娘のことばにできない感謝の気持ち。などなど。短編20作品 +「ながれぼし」。
描かれる場面は、だれにでもありそうな日々の生活の一幕。
そんな、日常を切り取って、こうしてみると、美しい風景になる、そんな感じ。

ほんとに、さらー--っと読める。
甘い恋愛ストーリーは、読んでいて熱くなるというより、ぽわ~~んと、あったかい感じ。あるいは、ムズムズするくらい、甘ったるかったり。結婚を控えた女性の親への感謝の気持ちやら、彼への気持ち、あるいは、古い友人への想い。
こんなに優しい気持ちの人ばかりなら、世の中、暮らしやすいだろうな、、なんて思うような、甘い感じ。
でも、ちょっと意地悪だったり、へそ曲がりの人も、みんな優しい気持ちももっているんだよね、って思える一冊。

お昼休みの間に、さらっと読めちゃいそうな軽さ。

 

ちょっとだけ、ネタバレ。

 

最後におさめられた短編「ながれぼし」は、7年という期間、結婚をするでもなく一緒に過ごしてきた若い二人が主人公。でも、恋愛の物語というより、母娘の物語。

彼女は、子供の時に両親が離婚して、母親とは長年連絡もなく、一緒に暮らしていた父親は数年前に亡くなり、天涯孤独の身。
 ある日、二人で鬼怒川へ温泉旅行に出かけているとき、彼女は彼に「赤ちゃんが出来た」と打ち明ける。素直に喜ぶ彼。彼の実家は資産家で、天涯孤独の私との結婚は家族が歓迎していないのだろうと思っていたが、素直に喜んでくれる彼に、幸せな気持ちになる。そして、温泉旅館へ。「本日お部屋を担当します」といってあいさつに来たのは、どこかで見たことのある顔。まさかの、彼女のお母さんだった。12年ぶりの母親。彼女が高校生の時、「お父さんと、お母さんとどっちと暮らしたい?」と聞かれて、いじわるな気持ちになって「お父さん」と答えて以来、姿を消してしまった母だった。彼は、彼女が驚いていることにまったく気が付かない。彼女も口にしない。
 彼は赤ちゃんができたことがうれしくて、旅館の仲居さんに、「僕たち、結婚してお父さんとお母さんになるんです」と口走る。「それは、おめでとうございます」といって、笑顔の仲居さん。気が付いているはず。でも、お互い口にしない母娘。
 翌日、旅館をでてから、彼の携帯電話がなる。「忘れ物した?旅館の仲居さんからだけど?」と彼女に電話を渡す。彼には、仲居さんが実は母親だったとは言わなかった。
 東京に戻ってからしばらくして、彼女は上京するというお母さんと会う。二人は、浅草で舟に乗る。「家族で乗ったことがあるの、覚えている?」と母親。かすかに残っている幸せだったころの家族の記憶。母親は、彼女を残して家を出ていったことに言い訳をするのでもなく、ただ、昔を懐かしみ、娘に会えたことを喜んでいた。彼女は、喜んでいいのか、怒ればいいのか、複雑な気持ちのまま、母親と分かれる。それでも、「会いたかったんだ」という母の気持ちは、素直にうれしかった。
そして、あれよあれよと結婚の話がすすみ、彼に、実はあの仲居さんは母だった、と告げる。彼は、お母さんも結婚式に呼んだらいい、といってくれたのだが、母親はそれは遠慮する、といって参加しなかった。
そして、次に鬼怒川の旅館から連絡がきたのは、「亡くなりました」ということだった。連絡先に、あなたの名前があったので、と。癌だった。一緒に舟に乗ったときには、母親は自分の寿命を知っていた。

物語は、母親の遺骨と遺品を受け取りに、鬼怒川へ向かう電車に乗る臨月の彼女の姿で終わる。

何年離ればなれていても、やはり、母娘だった。

 

そんなお話。

 

ほんわり、ちょっと甘い話が続いた後に、母娘のお話。ちょっと寂しいけれど、きっと二人とも分かり合えた、そんな安心感があるようなお話。

家族っていいよね、って。
全体にそんな思いがあふれている。
家族への感謝、それが、ギフトなのかな。

 

家族への感謝がテーマの一冊かもしれない。

やさしい、一冊。

電車の中で読んでいたのだが、ちょっぴり涙がこぼれた。悲しいというのではなく、なんだかセツイナイなぁ、、、って感じ。

どんなに明るくて、元気な人でも、みんなそれぞれ、心の中にセツナサを抱えているんだよね。なんて思った。

ちょっと、一休み、の一冊。
ふぅ。。。

深呼吸をしたら、また、一歩歩き出そう。
そんな気持ち。 

 

静かに背中を押してもらえる。

わたしも、もうちょっと頑張ろう、と思う。

 

『ギフト』