『愛のぬけがら 』 by エドヴァルド・ムンク  原田マハ 翻訳

愛のぬけがら
エドヴァルド・ムンク 著
ムンク美術館 原案・テキスト
原田マハ 翻訳
幻冬舎
2022年2月25日 第1刷発行

 

原田マハで図書館で検索して出てきたので予約していた本。内容を知らないで予約していたのだが、受け取ってみると、表紙はムンクの「マドンナ」。あ、また、ムンクを主題にした史実をもとにしたフィクションかな、と思ったら、ちがった!!

本書は、ムンク美術館がつくった、ムンクの言葉と作品集。それを、原田さんが翻訳したものだった。

期せずして、翻訳の勉強にもなった。

ムンクは、『叫び』があまりにも有名だけれど、色の綺麗な明るい絵だって、ないわけではない。1863年ノルウェー生まれのムンクは、20代の時にパリに行く機会を得て、当時のパリの印象派たちとも時代を一緒にすごいしている。本書の中に、ゴッホに関するムンクのメモもでてくるのだけれど、原田さん曰く、ゴッホと直接会うことは無かったかもしれないけれど、弟のテオ・ファン・ゴッホを通じて、ゴッホの作品はみていたかもしれない、と。ゴッホの『タンギー爺さん』に似たような絵もでてきた。

ムンクは、タブロー、絵画だけでなく、生涯にわたって文章を書き続けた。本書は、そのメモ書きや、手紙などから印象深い短いメモを集めたもの。まるで詩集のようである。そこに、時々ムンクの絵がはいっていて、詩集でもあり画集でもある。
まさか、こういうものだと思わなかったので、なかなか新鮮な気持ちで眺めた。

 

印象に残ったメモを覚書。

「It is better to paint a good incomplete picture than a poor completed one.
完成されたヘタな絵一枚より、未完成ないい絵を一枚書いた方がいい。」

なんか、似たような言葉を最近きいたぞ?
と思ったら、今道さんの『知の光を求めて』だ。
小さな完成より、大きな未完成を

megureca.hatenablog.com

 

そうだ、時代を越えて、世界を越えての不変なんだ、と思ってうれしくなった。

そして、まだ続きがあって、
「世間では、出来る限りの細部を書き込めば、絵は完成するのだと信じられている。
たとえ1本の線であっても、完成されたアートワークと呼ぶことができるのに。
描かれた作品には、意味と感情が込められていなければならない。
こころのないもの、どうでもよいものをいくら書き加えても、意味がないのだ。」
(スケッチブック 1927-34)
と。


A good picture never disappears.
 A brilliant thought does not die.

 いい絵は、絶対に滅びない。
 聡明な思想も滅びない。


Art comes from one human being's compulsion to communicate to anoter.
 All means are equally appropriate.

 アートは人が誰かに何かを伝えたいと思う衝動から生まれる。
 その方法はどんなものであってもいい。

 

To explain a picture is impossible.
  It is precisely because one cannot explain it in anu other way than it has been painted.

 絵の解説なんて出来ない。
 他に解説する方法がなくて描いているんだから。


Thought kills emotion and increases sensibility.

 Wine kills sensibility and increases emotion.

 思考は感情を殺すが、感受性を高める。
 ワインは感受性を殺すが、感情を高ぶらせる。


〈叫び〉を書いたときメモと思われるもの。
「夕暮れ、道を歩いていた。
一方には町が見渡せ、眼下にフィヨルドが横たわっている。
私は疲れて、ぐったりしていた。
立ち止まってフィヨルドの眺めていると、
沈みゆく太陽、雲が赤く変わっていった。
まるで血のように。
どこからか聞こえる叫び声が、
私の耳を貫いたように感じた。
確かに叫びを聞いた気がした。
私はこれを絵に描いた。
雲を本当の血のように描き、色彩が叫んでいた。
この絵が「生命のフリーズ」の〈叫び〉となった。」

 

叫んでいるのは、ムンク自身ではなかったんだ。

 

ムンクの作品は、そんなに多くを観たことがないのだけれど、本書の中にたくさんの作品も出てくる。

挿絵付きの詩集のようだ。

 

ムンクに興味が無くても、開いてみると、ムンクの新しい世界が広がる。

さすが、ムンク美術館の本。

 

ムンク美術館は、ノルウェー最大の都市・オスロにあって、ひとりのアーティストに捧げられた美術館としては世界最大級だそうだ。

2019年にファサードが完成していたけれど、コロナなどの影響で、2021年10月に開館したとこのこと。新しい美術館。

 

 

『愛のぬけがら 』

いつか行くことはあるだろうか、、、。

行かない気がするけど、気になるなぁ。。、