『アダム・スミス共感の経済学』 by  ジェシー・ノーマン (その2)

アダム・スミス共感の経済学
ジェシー・ノーマン
村井章子訳
早川書房
2022年2月20日 初版印刷
原書:What he thought, and why it matters(2018)

 

先日の続きの覚書

 

megureca.hatenablog.com

 

順不同だけど、気になったことを覚書。

 

・スミスがその思想に影響を受けた人。
フランシス・ハチスン北アイルランド生まれ。道徳哲学教授で、スミスは二年生の時に講義を受けている。
デービッド・ヒューム:『人間本性論』、哲学者。

 

17世紀の哲学
人間の本性に関する暗く希望のない見方
トマス・ホップス:人間の自然な状態は恒久的な「万人の万人に対する闘争状態」になると述べ、この状態では人間の生活は「孤独で貧しく、惨めで残酷で短い」と言った。闘争状態なので、社会契約が統治の基礎として必要となると考えた。

 

スミスの興味の対象
修辞学、道徳、哲学、法学、政治経済学
1750年代(20代後半~30代)極めて知的生産性の高い時期。

 

・スミスの著書『道徳感情』について
スミスは道徳感情はそもそもどのように湧いてくるのかという心理学的な問題にまず取り組んだ。人間はいかにして人間になるのかを解き明かす著作。
ルソーの『人間不平等起源論』に言及。ルソーは文明そのものを厳しく批判し人間は文明の利益とされるものの幻影に幻惑され堕落したのだと主張する。 司法は、強者が弱者を虐げる手段となった。スミスも同様に、文明は幸福の源泉とみなされるどころか、おぞましい策略とした。
スミスは、道徳的な価値観と規範は神の啓示により授かるものでもなければ、「内なる感覚」から生まれるものでもなく、人間同士のやり取りの中から形成される、と論じた。
スミスは、最後の改訂版で、「幸福とは、心の平穏と楽しみの中にある。心がおだやかでなければ何事も楽しめない。逆に心が波風一つなくおだやかであれば、たいていのことは楽しめる」と書いている。

 

・スミスは奴隷制などある種の制度は、道徳的に許しがたいときっぱりと断じた。

 

・スミスの思想は、重農主義(当時のフランス)から派生した訳ではない。また、重商主義を支持したわけでもない。スミスは、重商主義は金銭欲に取りつかれた考え方、とした。重農主義重商主義を否定したからと言って、スミスは、変わる理論は示していない。スミスの中で「自由の体系」が完成していなかった事も一つの要因と思われる。人間活動における4つの事由とは、「職業の自由」「土地所有の自由」「国内取引の自由」「外国貿易の自由」

 

・『国富論』(1776年ロンドンにて発行)の正式なタイトルは、『国の豊かさの本質と原因についての研究』。『国富論』は、当時のアメリカ独立戦争の分析も含まれ、分析と情報と教訓が詰まった著作であって、経済学の教科書ではない。最後には国家財政を取り上げている。
国家の三つの義務は、「国防」「司法の運用」「公共機関の維持とそれに伴うコストの資金手当て」

 

・『国富論』は、市場取引や「よりよい生活」を目指す人々の望みが引き起こす影響を徹底的に分析し、政府と社会についての人々の理解を変えようとした書物。

 

・『国富論』は、初版から30年の間に理論自体の手直しが必要になり、1789年、最後の改訂版が出版。

 

・スミスの思想
労働が価値を生むとすれば、分業はそれを大幅に加速する。分業は、人間の「ものを交換し合う」という性質があったからこそ、生活を豊かにするのに取引とともに成立した。スミスは、「二匹の犬がじっくりと考えて骨を公平に交換し合うのはみたことがない」と言っている。「ものを交換する」というのは、人間が持つ特性なのだ。

 

・スミスが考える銀行の役割
お金イコール資本ではない。銀行が果たすべきなのは資本を生産的な利用に供する役割であって、資本それ自体をふやす役割はない

 

・スミスは、国家への愛と人類への愛を区別した。
「各人の注意の大半は、大きな社会のうち各人の能力と理解の範囲にまずまず収まる一部にだけ向けさせておく方が、社会全体の利益はもっとも大きくなる」と考えた。

 

・スミスは、「政治にかかわるすべての人間の中で最も危険なのは、君主」と考えた。政治指導者が「主義の信奉者」となると、絶対主義に陥り、自分は非常に賢いと思いあがり勝ちだから。自らが練り上げた理想的な統治計画の想像上のすばらしさに夢中になるあまり、些細な逸脱にも我慢できなくなる。

 

・スミスの見えざる手
著作には、3回しか「見えざる手」は言及されていないし、これと言った定義や理論は見受けられない。

 

・スミスの人間の利己心、利他心への考え。(道徳感情論から)
人間と言うものをどれほど利己的とみなすとしても、なおその生まれ持った性質の中には、他の人のことを心に懸けずにはいられない何らかの働きがあり、他人の幸福を目にする快さ以外に何も得るものがなくとも、その人たちの幸福を自分にとってなくてはならないと感じさせる


・経済学の教科書『一般均衡分析』(1971):ケネス・アローフランク・ハーン
スミスのことを賛辞している。

 

・スミスのジェンダー問題観
「法律を作ったのが男だから、女性に不利な法律ができる。男はできるだけ女を抑圧し、自分たちは好き放題をしようとする」

 

・スミスは人間の強欲を強く非難した。

 

・スミスは、市場が動かすのは人間の計算だけでなく、感情であることも示した。(『道徳感情論』)。

 

・『国富論』の冒頭のフレーズ。「国民の最下層まで豊かさがいきわたる」。「豊かさ」よりも「いきわたる」が大事。

 

・スミスは、縁故資本主義のリスクを示していた。縁故資本主義は、レント・シーキング、力と情報の非対称性、エージェンシー・コストというリスクをはらむ。

 

・スミスは、「人間は生まれながらにして、愛されたいと願うだけでなく、愛すべき人になりたいと欲する。すなわち、愛されることが自然で適切であるような存在になりたいと願う」ものと言っている。(『道徳感情論』)

 

ナッシュ均衡:すべてのゲームの参加者が、一定のルールのもと、自らの利得が最大となる最適な戦略を選択し合っている状態のこと。すなわち、すべてのプレーヤーが同じ戦略で、自分だけが戦略を変えても利益が増えない状態。

 

ゲーム理論:社会や自然界における複数主体が関わる意思決定の問題や行動の相互依存的状況を数学的なモデルを用いて研究する学問。ヒュームやスミスのアイディアを発展させたものともいえる。

 

認知的不協和:個人のもつある認知と他の認知との間に、不一致または不調和が生じること。 その結果、不調和を解消あるいは低減しようとして行動や態度に変化を起こす。人は、無意識に不快さを低減しようとする。

 

・日本・イギリス・カナダは、腐敗指数(政治に汚職が蔓延している状態)や罰金不払い率が最も低いグループに属する。 

 

と、ひたすら列挙してしまったが、スミスが哲学者だったのだ、ということが伝わっただろうか。

 

最後の経済用語は、第三部からの抜粋。経済学の復習にもなった。

思いのほか、面白かった。

やっぱり、新聞の書評はそれなりに選択された本の紹介なんだな、なんて思う。

読むべき本を選ぶのって、重要だ。