『AI監獄ウイグル』 by  ジェフリー ・ケイン

AI監獄ウイグル
ジェフリー ・ケイン
濱野大道 訳
株式会社新潮社
2022年1月15日発行

 

2022年4月2日、日経新聞の書評欄にでていて興味を持った。ウイグルに関するノンフィクション。図書館で予約していたのが回ってきたので読んでみた。

 

感想。
ウソでしょ、、、、。まさに、ジョージ・オーウェルの『1984の世界そのまま。。。
これ、ほんとに、ノンフィクションなの???
と思いたくなる。
読んでいると、しまいには具合が悪くなる。
あまりの不条理に、、、。

 

人権無視の横行に、ありえないでしょ、、、、と思う。作り話だといってくれ、、、と言いたくなる。

 

 今年5月にバチェレ国連人権高等弁務官ウイグルを訪問しているが、結局、中国に利用されただけだと非難囂々だった。人権問題はない、ということにされている。でも、それも仕方のないことではなかったのか、と言う気がしてくる。


時事通信の記事によれば、
”バチェレ国連人権高等弁務官による中国・新疆ウイグル自治区の視察に対して、国際社会から批判が噴出している。米欧は少数民族ウイグル族に対する人権侵害を問題視するが、習近平国家主席はバチェレ氏との会談で「人権を口実に内政干渉するな」と言明。バチェレ氏は、人権侵害を否定する中国の宣伝工作に利用された格好となった。”
とある。

 

でも、この本を読んでみると、国連からの要人だろうと、容赦ない監視の中だったのだろう、と言う気がしてくる。外部の人間が一人で乗り込んで、どうにかなる次元の世界ではなく、彼女がなにか発言したり行動したりしたら、おそらく、彼女のこの先の未来はなくなっていたのだろう、、、と言う気がする。2日間だったはずだけれど、それだけでも頭がおかしくなりそうな世界だと思われる。

 

著者のジェフリー・ケインアメリカ人の調査報道ジャーナリスト/テックライター。アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の新聞・雑誌に寄稿。現在は、トルコ・イスタンブールに在住。

 

本書の中では、複数のウイグル人からのヒアリングに基づいて、彼等の経験、著者自身が現地で経験したことが書かれている。
読んでいるうちに、SF小説でも読んでいるかのような気がしてくる。
とにかく、信じがたい、監視社会。AIによるパノプティコン

 

小集団のなかでは、相互に監視させあうことで、あらゆる人が密告者になる。「私は警察に頼まれているだけですから」、といいきる近所のおばさん。「昨日、いつもの時間に出かけなかったのはなぜですか?」と聞いてくるご近所。。。

いつもの買物より、多くの買物をしただけで、テロのために備蓄を増やしていると近所に密告される世界、、、。
自宅に容赦なく取り付けられる監視カメラ。


ウイグル人漢人の下位民族とし、その中での信用度ランキング。
近所の店で食料品を買うのにも、車にガソリンを入れるにも、IDカードで信頼度が測られる。
中国共産党の教えが足りないと思われるウイグル人は、学習のために強制的に隔離される。強制収容所、といわれているところだ。

 

本書の中では、一人のウイグル女性が、北京で勉強しトルコに留学したことがきっかけで、強制収容所送りにさせられた経験が語られる。携帯電話は、その内容も交信履歴もすべてが監視されている。海外の友人に危害が及ぶことを考えると、連絡することもできない。
詳細には述べられていないが(身の危険があるので詳細には述べられないのだと思われる)、彼女は強制収容所からの脱出に成功し、出国してトルコに戻ることが出来たのだが、その後、母国の家族との連絡が途絶えてしまう。家族が強制収容所に連行されたことは想像に難くない。

と、いま、ここにこうして書くことですら、監視されているような気がしてくるから怖い。

あまり、詳細を書いておこうという気がしない。
もしかすると、この本を買った人、読んだ人、すべてが中国から危険人物としてリスト化されているかもしれない、、そんな気さえしてくる。

 

う~~~ん。
ジャーナリズム、人権問題に興味があって、こういうことが実際に起こっているのだ、ということを知りたい人にはお薦め。

ディストピアに近づきたくない人には薦めない。

私も、最後は飛ばし読みしてしまった。
あまりのことに、じっくり読む気がしなくなってしまった。

 

フィクションと言われたら、ドキドキしながら面白く読めるかも。
これが、ノンフィクションだといわれると、中国の不条理に無力感を感じずにはいられない。
ウイグルの強制労働が一時問題になったが、まさに、ほんとにそういうことが起きていたのだ。貧困からおきた強制労働ではなく、ウイグル人だからという理由で勝手に連行されて、労働させられていたのだ。


いやぁ、、、なんとも言えない本だった。
いやぁ、ほんとかなぁ?と思わず疑いたくなるくらい、酷い。

 

本体価格2200円。

現実のディストピアを垣間見たい人にお薦め。

アフガニスタン女性差別の比ではない。。。。

 

いやぁ、、、ちょっと、しんどい一冊だった。

でも、それなりに影響力のある本だと思ったので、こうして覚書。。。

 

なぜ、こんなに読んでいてしんどいのかといえば、やはり、中国の昨今の動きは日本にとっても他人ごとではないからだろう。そして、今の国連にしても、アメリカにしても、その動きを封じ込めるパワーもない。すでに、宇宙開発は中国のもの。海への進出も活発。カンボジアの要の港は、中国のお金で中国のために作られた軍港になりつつある。

 

安全保障について、日本も真剣に議論すべきときが確実に近づいていて、そのタイムリミットは着実に短くなっている。それが今の現実だ。でも、普段生活していておおきな脅威を感じるわけではないし、私たち個人が何かできるわけではない。。。でも、政治家に任せておけばいいでしょ、って、、言ってられない。任せる政治家をきちんと自分たちの手で選ばねばならないのだ。それが、議会制民主主義。

じゃぁ、日本も軍隊を持つのか、ってそんな単純なことでもない。

先日、とある勉強会で国家の安全保障についての話に及んだのだが、従来は、アメリカの国家安全保障の重要なテーマとして、DIME(Diplomacy外交、Intelligence情報、
Military軍、Economy経済)を軸に語られてきたが、今はそこにファイナンシャル的な要素など、ソフト面も加わっているそうだ。

ロシアへの経済制裁がなかなかウクライナへの侵攻停止につながらないということを考えても、様々なテーマでの検討が必要だということなのだろう。

 

たまたま、国家安全保障の問題を話した時期と、本書を読んだ時期が重なったので、なかなか、重いなぁ、、、と思ってしまった。

 

今朝のニュースでは、中国は、内陸部に日本の自衛隊基地を模した攻撃訓練場の建設を着々と進めているという話が。。。。

 

足元のことだけでなく、将来のことも同時に考えないといけないな、と思わされる。

一人一人に何ができるのか。

自分に何ができるのかは、だれも、教えてくれない。

自分で考える頭を作るのが大事なんだろうと思う。

 

よく考えよう。

 

AI監獄ウイグル