『通訳者の仕事』by  近藤正臣

通訳者の仕事
近藤正臣
岩波ジュニア新書

図書館のジュニアコーナーで「将来の仕事を考えよう」というテーマの棚で見つけた本。面白そうなので、借りてみた。

 

裏の説明文には、
”通訳者の仕事
記者会見や会議などの通訳者は、どんな仕事をしているのだろう?
通訳している時頭の中はどうなっている?
アメリ国務省通訳者養成コースをスタートに、会議通訳者として第一線で活躍し、世界に通用する通訳者の指導にあたってきた著者が、英語の勉強法と、通訳の仕組み、現場での面白いエピソードを語ります。”
とある。

 

私自身、通訳者として勉強中の身だが、もともと、通訳者になろうと思っていたわけではないので、この著者のことも知らなければ、有名な通訳養成学校もしらない。。。初心に戻るつもりで読んでみた。

 

感想。
あら、意外と面白い。
果たして、これでジュニアが通訳に興味を持つかは疑問だけれど、社会人になってから通訳をめざそうと思った人にとって、結構面白いかも。
実際の国際会議にでた経験があると、あるある!って感じで面白い。通訳としてではなくても、単純に学会などの参加者として国際会議に出たことがあれば、著者の語る経験の場がイメージできて面白いと思う。
あるいは、最近ならYouTubeで、国連の会議のLIVEなどもやっているので、そこで英語の同時通訳が流れているのを聞くと、国際会議の同時通訳の雰囲気を体験する事ができる。


留学の話は、今の学生にも面白いかも。ただし、著者がアメリカに留学したのは、1960年のこと。アメリカも日本も、今とは大違い、、、の時代のことだけど。


著者の近藤正臣さんは、1942年愛知県生まれ。大東文化大学経済学部教授、日本通訳翻訳学会顧問。国際基督教大学教養学部社会科学科卒、同行政大学院修士課程修了。アメリ国務省随行通訳者として勤務した後、中央公論社、サイマルインターナショナル、日本コンベンションサービス勤務を経て1976年から現職(2009年現在)。2001年に日本通訳学会を創設、初代会長を務める。
とのこと。

 

目次
第1章 異文化コミュニケーションの現場から
第2章 通訳者への遠い第一歩
第3章 大学と初めての仕事
第4章 大学教員・通訳者・翻訳者
第5章 通訳を研究する
第6章 通訳者になるには

 

ところどころ、具体的な通訳の事例がでてくるので、参考になる。

会議で司会をしているとき、「次、佐藤さんどうぞ」などと演者を誘導するとき、
”Next, Mr. Sato, please” とやってしまいがちだが、ヨーロッパの英語通訳者は使わない表現だという。
そもそも、Please!だけでは、なにを?どうするの?という表現なわけだ。
日本人同士だと、どうぞ、と言われたら、あ、演台に立っていいのね、とその言葉の真の意味を読むわけだけど、 ローコンテクストの世界ではそうはいかない。

 

彼らは、
I now give the floor to Mr. Sato.
Mr. Sato now has a floor.”
などというのだ。
Floor とは、「会議場」と言う意味。

質疑応答などでは、「会議場から質問ありませんか?」という問いかけを、
” Any question from the floor?”
といったりする。そのFloor.

 

著者が言いたいのは、日本語と違って、英語は主語と述語をはっきりさせる、ということ。

レストランの注文の「私はコーヒー」を直訳してしまうと、
”I am coffee.”になってしまう、、、。

お前はいつからコーヒーになったんじゃい!ってやつだ。

 

つまり、通訳と言うのは、単語を別の言語に変換すればいいのではく、発話者の意図をくみ取って、その場に適した言葉に変換しなくてはいけない、ということ。

そのためには、やはり、語彙力、文法といった言語の基礎がしっかりできていないといけない。加えて、翻訳と違って通訳はその場でやらなくてはいけないので、スピードも求められる。

英語が話せる人が通訳をできるかというと、そういうことでもないのだ。
もしそうなら、バイリンガルは誰でも通訳になれることになるけれど、実際のプロの世界はそんな甘くない、、ということ。

一緒に勉強している仲間には、英語ペラペラバイリンガルもいるけれど、通訳としての勉強を継続している。通訳とはやはりテクニックなのだ。

 

著者は、高校生の時にアメリカに留学し、そこであっという間に英語を身につけられている。その後も、職業として通訳をされているので、さびることなく、現場で求められる通訳をされていたのだろう。

 

第6章では、通訳のメモの取り方についても語られている。実際には、同時通訳の時にはメモを取っている時間はほとんどない。ただ、固有名詞と数字はメモにするのが確実だ。
自分なりの記号を作っておくと良いという。それは、私の先生もよくおっしゃる。

”物価が上がっている。” という文なら、右斜め上向き矢印(↗)を書いておく、など。
他にも、私は、図解するようにしている。文字は時間がかかるのと、後で見返して何かいたかわからない、、、、ということがあるので、〇、×、→、△、などなど。。過去の話なら、左向き矢印を書いておくとか。。。

一番いいのは、やはり記憶力を鍛えることなのだけど。。。

 

通訳は、元の発話者の意味を伝えるのが役割。単純に単語を置き換えるのではない。


米原万里さんも、よくおっしゃっていた。だからこそ、『不実な美女か、貞淑な醜女か』なのだ。不実な美女とは、発話者の意図を正しく相手に伝えるために通訳者自身が多少手を加えて分かりやすくした通訳。貞淑な醜女とは、発話者の言葉通りだけれど想いの伝わりにくい通訳。。。米原さんは、時と場合で使い分けていた、という。米原さんの場合はロシア語だけど。

言葉って面白い。

megureca.hatenablog.com

 

通訳って、やっぱり奥が深い。
そして、質を極めようと思ったら、きりがない。
だから、いくつになっても磨き続けることができるし、逆に、磨かなければスキルは落ちていく。そういうものなのだ。

聞いて、記憶して、理解して、整理して発話する。

結構、すごい頭の体操をしているのだ。

だから、私の先生は、一流になりたいのなら、オリンピック選手になるつもりくらいのトレーニングが必要だ、とおっしゃる。はい、トレーニング、、します!

Voclizationは、ボケ防止にもいいらしいし。

 

余談だが、通訳者は一般的な履歴書は顧客に開示しない。登録エージェントには履歴書は提出するかもしれないけれど、顧客には年齢は言わない。だから、スキルさえ落とさなければ、70代でも80代でも就労可能なのだそうだ。って、ま、年齢を言ったっていいんだけどね。そして、実は、ある程度年を取っている方が、顧客としては経験がありそうと思って安心するのだそうだ。

若さを武器にする必要のない世界、、、50過ぎの私にもピッタリ、、、なんてね。

 

継続は力なり。
ということで、再び、英語の勉強、通訳の勉強を頑張ろう、と思えた一冊だった。
私にとっては、なかなか有益な一冊だった。

ジュニア向けの本。読みやすくて、好きだ。 

 


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