『インテリジェンス都市・江戸 江戸幕府の政治と情報システム』 by  藤田覚

インテリジェンス都市・江戸
江戸幕府の政治と情報システム
藤田覚
朝日新書
2022年5月30日 第1刷発行

 

図書館で「歴史」分類で検索して出てきて、比較的新しかったので、借りて読んでみた。
インテリジェンス都市、というタイトルが面白そうと思ったのだ。

前に、佐藤優さんと橋爪大三郎三の著書『世界史の分岐点』のなかで、皇居が東京にある以上、首都移転はないだろう、という話題が出てきて、やはり、江戸も首都だったのだし、、とおもいながら、読んでみた。

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著者の藤田さんは、1946年長野県生まれ。千葉大学文学部卒、東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専攻は日本近世史、近世政治史。東京大学史科編纂所教諭。
ま、要するに、江戸時代以降の歴史の専門家?みたい。

 

表紙の裏には、
”近世政治史の泰斗(たいと)が貴重な「隠密報告書」から幕府の情報戦略の実装を解き明かす!
江戸幕府は全国各地へ派遣した「密偵」を通じて
天皇・朝廷や大名家(藩)、旗本・御家人の情報、民意の動向を内密に収集した。
鎖国」と言いながら、挑戦・琉球との国交、中国・オランダとの貿易、蝦夷地での交易など内外の情報も独占的に入手した。
その収集、伝達、分析プロセスは?
謎とされてきた隠密行動の全体像がついに明らかになる!”
と。


感想。
こりゃ、読み物というか、論文の寄せ集めと言うか、、、、。まぁまぁ、面白い。
しかし、そんなに謎が明らかにされている感じがしない、、、、。

遠山の金さんとか、水戸黄門とか、、、、時代劇や時代小説で、なんとなく「隠密」がいたんだろうとか、場合によっては悪代官とか、、、なんとなく想像していたことを歴史資料で説明している、という感じだろうか。

ほんと、面白いと言えば面白いのだけど。。。。
表紙裏の説明が、わざとらしくて、、、これが無いほうがよかったのに、、、なんて思っちゃう。

 

目次
序章 幕藩体制の核心はインテリジェンスだった!
   情報と江戸時代の政治・交通
第一章 将軍直属の「スパイ」がいた!
   御庭番の情報収集と幕府政治
第二章 大名と幕臣を観察する将軍の「目」
    小人目付の情報収集と幕政
第三章 「探検家」の真の任務とは?
    勘定所普請役の情報収集
第四章 犯罪捜査と経済調査のエキスパート
    町奉行所隠密廻り同心の情報収集
第五章 異国船とアヘン戦争鎖国下の情報戦
    オランダ風説書と対外政策
第六章 敗戦という不都合な事実の拡散
    文化露寇事件の情報と政治
終章   インテリジェンスの大失策が幕府の命取りに
    天皇・朝廷情報の収集

 

江戸時代においても、全国の情報だけでなく海外の情報についても、政権を握る江戸幕府の所在地であった江戸が、情報の中心地だった。
よく考えれば、今のように電話やインターネットがない時代。実際に人が情報をもってやってくることでしか情報は集められなかったのだから、そりゃ、政権の中心に情報が集まるに決まっている。
どんな人が、どんなふうに、どんな情報をあつめていたのか、と言う資料を集めたのが本書。

 

地方の大名のゴシップみたいなものも、政治に利用されていた。あいつは、女にだらしがないから跡継ぎにはしないとか、領土を召し上げるとか、、、。なんか、政治の判断材料がゴシップか、、と思うと、今とあまり変わらない?!?!かもしれない。

 

江戸時代は、古代の律令制や近代の官僚制の政治体制とは異なり、各地の大名(藩)と江戸の徳川将軍(幕府)が主従関係を結んで、分権敵に全国を統治するしくみだった。幕藩体制、ってやつだ。ただ、将軍権力が強大で、江戸幕府は、全国に代官、奉行、城代などの出先機関をおいて要地をおさえていた。


参勤交代や「武家諸法度」で、大名たちは経済的にも政策的にもしばられていたのだ。

江戸は、幕府の中心地であることから人、物が集まり、独特の社会「世間」をつくっていた。江戸っ子気質は、このときから始まったのだろう。


物を売りに江戸にやってくる人からも、地方の情報は得られる。江戸の藩邸には、物売りだけでなく、旗本、俳人、芸人、、、あらゆる人々が集まってくる。そこでの話題は、要するに地元でのゴシップ。。。。雑多な話だ。でも、そこに、地方の様子を知る手がかりが満載だったのだ。

いくつか、実際に報告として残っている文献が紹介されている。
誰それが米を不当に独占するとか、女癖がわるい家臣がいるだとか、だれかれは仕事もろくにしないで文句ばかりだ、、、とか。

要するに、噂話で留守中の地元の情報を得ていたのだ。
そういう、情報を運ぶものには、僧侶や町医者もいたという。

幕府にとっては、雑多な情報のなかから、それらしい、重要な情報を拾いだすのが大事なことだったのだろう。

 

情報がやってくるのが人の動きで、その人の移動のために、江戸につながる交通網も発達した。幹線道路としては、東海道中山道甲州道中、日光道中奥州道中五街道。これらは日本橋が起点であり、終点だった。そこから分岐する道もすべてが江戸に繋がっていたのだ。

江戸幕府情報収集概略図、というものが掲載されているのだが、これはなかなか面白い。時代劇で聞いていた言葉が、組織図になっている。


特徴的なことの一つは、将軍から直属の御庭番、若年寄・目付などの役人がいたことだ。他は、将軍から直接ではなく、老中を経由して町奉行勘定奉行などがあった。老中を介せずとも、将軍は情報を得る道があった。特設秘書、って感じだろうか。

老中を経由するのは、各地の奉行や司代など。
松前藩は、アイヌ・ロシア情報の収集にあたった。
長崎奉行は、オランダ通史を通じて、世界情報をあつめた。
薩摩藩中国情報対馬藩朝鮮情報
京都所司代は、天皇・朝廷情報

まぁ、それなりにシステマティックに情報を収集していた。

幕末、イギリスやアメリカの船が日本にやってきたのだって、ある日突然ではなく、幕府なりにこころの準備?があった。水戸藩にイギリス捕鯨船が来たこともあったし、浦賀にもやってきていた。地方にやってくる捕鯨船の情報を踏まえて、幕府なりに異国船対策を考えたのだ。

異国船についての報告文書なども、資料として掲載されている。

 

一つ、そうだったのか!と分かったのは、普請役勘定所のなかで隠密な情報収集にあたった役人が普請役だったのだそうだ。
普請とは、本来、建築・土木工事のことで、江戸時代においては洪水による氾濫などに対処するため、大河川の治水工事、街道と橋の工事の施工や監督をするのが職務だった。その普請役は、あちこちの工事を担当したので、小人目付を活用しながら隠密行動をした。

蝦夷地の調査にあたった間宮林蔵、荒廃した農村の再興に尽力した二宮尊徳らも、普請役だったのだ。

へぇ。。。そうだったんだ。

さら~~~っと読みで充分、という感じの本だったけど、それなりに、面白かった。 

 

情報システムと言うほどのものではないけれど、幕府の体制図って感じかな。これらの役割の名前と関係を頭にいれて時代劇をみると、もっと楽しめるのかも?!

 

情報が大事なのは、今も昔もかわらない。

そして、偽情報に振り回されるのも、今も昔もかわらない。。。

なんてね。

 

ちなみに、説明に出てきた「泰斗(たいと)」と言う言葉の意味が分からなかったので、調べてみた。

広辞苑によれば、

たいと(泰斗):その道で世人から最も仰ぎ尊ばれている権威者

 

だそうだ。

ひとつ、お勉強になった。

 

だから、読書は楽しい。

 

『インテリジェンス都市・江戸 江戸幕府の政治と情報システム』