『倫敦塔・幻影の盾』 by  夏目漱石

倫敦塔・幻影の盾
夏目漱石
新潮文庫
昭和27年7月10日 発行
平成20年10月25日 77刷改版
平成28年11月10日 83刷


図書館で文庫本を見つけたので借りてみた。

裏の説明文には、
”もう二度と倫敦塔には行かないだろう。

多様な文体で卓絶した資質を示す漱石最初期の短編集

留学中に倫敦塔に見せられた漱石が幻想的にイギリスの歴史を紡ぐ「倫敦塔」、男女の神秘的な恋愛を描いた「幻影の盾」、戦争で逝った友人を偲ぶ「趣味の遺伝」など、小説と随筆の雰囲気を併せ持つ不思議な魅力の全7編”

とある。

 

目次
倫敦塔
カーライル博物館
幻影の盾
琴のそら音
一夜
薤露行(かいろこう)
趣味の遺伝

 

感想。
なんだか、不思議な短編集。
『坊ちゃん』の力強さもなければ、『こころ』の陰鬱さもない。夏目漱石を読んでいるという気がしない。
短編によって、古い言葉の言い回しだったり、横文字の名前、つまり外国人が主人公だったり、場面も日本でなかったり、、、。小説なのか、随筆なのか、ただの記録なのか、、なんだか、画家のスケッチブックを見ているような感じ。
色々、試行錯誤しているころの作品なのかな、という感じがする。


そして、全体に、なんというか、、、乙女チックな感じ・・・・。
やはり、漱石ってちょっと変わった性質のひとだったのかもしれない、、、と納得してしまう。
結構、さらっと読み。

 

短編は、それぞれ、なんてことない。。。
最後の解説を読むと、漱石のことが少しわかる気がして、この本を手にして良かった、と思う。こういう文章もかいていたのかぁ、という感じ。

 

そして、日本を舞台にした若い男性の話、『琴のそら音』の中で、「家を持つ」ということが一つのテーマになっている。下宿から「家持」になるということが、漱石の時代においては、一つの大人へのシンボルのようなものだったのかな、と思う。坊ちゃんも、最後は清と暮らせる家を持つ。本短編の主人公は、既に家をもっていて新妻がやってくるのを待っている。
そして、妻を迎え入れることに、大騒ぎはしないものの、心待ちにしているようすがじわっと伝わってくる感じ。ちょっと、乙女チック。

 

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本短編は、『吾輩は猫である』と同じころに書かれた作品。漱石39歳のころ。
解説(伊藤整)によれば、本短編修の中には、漱石の作品を貫くモチーフが入っているという。それは、男女間における神秘的な恋愛の直感、と。「ロマンチシズム」と言える思想傾向があるのだと。

漱石は、実生活では妻との気質の不和に悩んでいた。まぁ、要するに、夫婦仲はたいしてよくなかった、ということのようだ。おまけに、大学の講義は重い負担であって、精神衰弱に陥っていた。そんな状態で小説家になったのが夏目漱石

そう考えると、自分自身に不安を抱えた中での作家活動だった、ということだ。

やっぱり、ちょっと、変わった人だ、、、、。


解説の中では、『明暗』には社会的階級的正義感が描かれ、『草枕』ではロマンチシズム的なものは弱体化している、と説明されている。

この、本書に含まれている解説は昭和27年のものなので、新しい解説をつければ、また、違った解釈になるのかもしれない。

 

ま、いずれにしても、今なお読まれる夏目漱石
漱石の作品を読みつつ、夏目漱石をたどる旅、っていうのも面白いかもなあ、なんて思う。 

 

読書は楽しい。

 

倫敦塔・幻影の盾