”完全読解 司馬遼太郎『坂の上の雲』” by  佐藤優 片山杜秀

完全読解 司馬遼太郎坂の上の雲
佐藤優
片山杜秀
文藝春秋
2022年3月25日第1刷発行

 

図書館で、「歴史」の新着図書を検索していて、見つけた本。借りてみた。

 

坂の上の雲』。TVドラマにもなっているし、お話は知っている人が多いだろう。私は社会人になりたての頃に読んだ記憶がある。明治維新、近代国家として成長しつつある日本で活躍し成長していく若者、松山出身の秋山好古秋山真之兄弟、そして、友人だった正岡子規の物語。

 

表紙の裏には、
”明治日本はいかにして国家存亡の危機を克服したのか。
「国民文学」と呼ばれた司馬遼太郎坂の上の雲』には、このままではアジアの中堅国になりかねない日本の停滞を打ち破るヒントが隠されている。現代最強の読書人が読み解く近代日本の活力の源泉。”
と。

 

本書は、佐藤さんと片山さんの対談のような感じがメインだけれど、後半には、主人公たちの主な出来事、戦争と世界の動き、物語を楽しむための知識、と3つの軸で年表ががついている。そして、主要登場人物辞典がどっさり。

 

まぁ、明治時代の歴史の一幕の参考書に、二人の語りが付いている、、という感じだろうか。膨大な情報量。全部しっかり読み込んだから、相当時間がかかりそう、、、。なので、さらっと、読んでみた。

 

著者の一人、片山さんは、1963年、宮城県生まれ、思想史研究家。

 

目次
序章 今なぜ『坂の上の雲』を読み直すのか
 「エリート」と「大衆」が分断された今こそ世代を超えて読み継ぐべき国民文学の意義
第1章 乃木希典東郷平八郎
 「乃木将軍」は”愚将”だったのか
 「海軍=合理的」「陸軍=非合理的」説は本当か?
第2章 夏目漱石正岡子規
 漱石と子規は秋山真之と共に”近代日本語の創設者”だった
第3章 明石元二郎広瀬武夫
 日露戦争の”情報戦”で活躍した二人から見える日本のインテリジェンス
第4章 日清日露戦争朝鮮半島
 あえて”翻訳しない”が日韓関係を解きほぐす鍵になる

坂の上の雲』年表
第1巻 松山から東京へ
第2巻 日清戦争と三国干渉
第3巻 日露開戦へ
第4巻 旅順をめぐる攻防
第5巻 旅順要塞の陥落
第6巻 奉天への進撃
第7巻 奉天会戦の勝利
第8巻 バルチック艦隊を撃破 

 

読んでいるうちに、『坂の上の雲』そのものも、ちゃんと覚えていないなぁ、、と言う気がしてきた。TVでみた断片的な記憶がちょっと残っているくらいかもしれない。
ま、かっこいい秋山兄弟、っていう印象。

 

あとがきで、片山さんが、”司馬遼太郎を読むと元気になります”と書いている。


司馬遼太郎の歴史書は、たしかに史実にもとづいているのだが、あくまでも小説で、美化されているところもある。だから、本当の歴史と言うわけではない、、、ところもあるのだけれど、やはり、その時代の空気を感じられる、教養本だ。小脇に抱えた文庫本が司馬遼太郎だと、お、この人は勉強家だな、、、と感じるだろう。

 

片山さんの指摘では、『坂の上の雲』には、秋山兄弟の”明るい前半生”だけが描かれているという。たしかに、若い二人が活躍し、出世していく、成功物語として描かれている。でも、実は、後年、真之は、当時の新興宗教である「大本」へ入信している。戦後、真之の悩みや虚無感は、天皇神話では吸収しきれず、新興宗教へはしったのだろう、と。物語は、二人が立派に活躍する姿を描いていて、人生の頂点、その後は書かれていない。戦後の虚無感、、、そういう、明治後半の日本の虚無感は、司馬遼太郎の物語には出てこない。司馬遼太郎の描く明治時代は、つねにまえむきに成長していく、明るい明治なのだ。
だから、司馬遼太郎を読んだだけでは歴史を分かったことにはならない。でも、明るい時代を感じることができる。日本人に勇気をくれる感じは、わかる気がする。

 

二人の対話は、『坂の上の雲』の内容について、というより、その時代をどう読むか、という内容。

話しは、様々方面に飛ぶ。「学ぶことの楽しさ」を取り戻そう!と言う話や、こういった歴史小説は、海外の人へ「日本人観」を植え付けることになる、とか。日本人が、ドフトエフスキーを読んで、ロシア人観を形成することがあるように、ロシア人にとって『坂の上の雲』は、日本人研究の一つの材料になることもあるのだ、と。

 

なかなか、面白い二人の組み合わせ。

もう一度、ゆっくりと『坂の上の雲』を読みたいような気もしてくる。

そして、夏目漱石正岡子規森鴎外、、、当時の文学を、また読み直してみたいような気もしてくる。

 

最後に出ている年表をじっくり見ると、ほんとに、情報がいっぱい詰まっている。本書を熟読してから、『坂の上の雲』を読み直すと、もっと楽しめるかもしれない。

たしかに、”完全読解”のテキストみたいだ。

 

これで、1600円の本。

結構、良本だと思う。

でも、時間があるときにじっくり読むのがお薦めかも。