『父から子に伝えたい 戦争の歴史』 by  半藤一利

父から子に伝えたい 戦争の歴史 
半藤一利
SB新書
2022年6月15日

 

新聞の広告か、何かの書評か、忘れてしまったのだが、半藤さんの言葉を集めた様な本で、面白そうだったので、図書館で予約して借りてみた。

 

裏表紙の説明には、
”明治に幕を開けた「日本の近代化」の歴史は、そのまま「あの戦争」へ向かう歴史でもあった。終戦から77年。二度と過ちを繰り返さないために、私たちは歴史から何を学ぶべきか。。  作家・半藤一利の著作には、令和の日本人が心に刻みたい珠玉のメッセージが星の数ほど書き記されている。その180冊以上の著作のエッセンスを凝縮した決定版”

 

半藤さんは、1930年東京生まれ。2021年1月12日に亡くなられている。

はじめに、の言葉を借りれば、 
「歴史探求」を自称し、幕末・明治期の「近代日本史」や、半藤さんが共に生きた「昭和史」と向き合い続けてこられました。歴史の生き証人たちへの徹底した取材と、細部にわたる資料の検証に基づいて紡がれた著作は180冊以上。首尾一貫して、「昭和」とは何だったのか「あの戦争」とは何だったのか、という本質的な通りに取り組み続けた一生でした。
その膨大な著者の著作のエッセンスを抜き出し、再編集させて頂いたのが本書です。”

ということで、180冊を読まずとも、半藤さんの言葉に触れることができる一冊。
これで、半藤さんの想いが理解できるとは思わないけれども、心に響く言葉が詰まった一冊。

 

目次
第一章 日本人は、歴史から何を学ぶべきか
第二章 幕末・明治日本と戦争への道程
第三章 「あの戦争」とは何だったのか
第四章 私は歴史とともにいかに生きたか
第五章 過ちを二度と繰り返さないために、知ってほしいこと

 

感想。


うん、エッセンスだ。前後の文脈もあってほんとの意味が通じることもあるから、抜き出されたエッセンスだけでは伝わってこないこともあるけれど、膨大な文章の中から、しぼって、しぼって、しぼった、、、のだろう。
ふと忘れてしまいがちな、私たち、日本人の犯した過ちを、思い出させてくれる。

戦争を知らない私たちは、こうした言葉たちを時々文字として読み返すことで、歴史に学ぶことを、自分たちにリマインドしないといけないような気がする。
だって、やっぱり、平和ボケしている。。。 それはそれで、幸せなことではあるのだけれど、、、。

読み終わったときには、付箋だらけになっていたけれど、中でも、心に響いたものを覚え書き。

 

・”アジアを忘れたとき、悲劇が起こる” (『今戦争と平和を語る』)

 日露戦争が終わった明治40年ころから、日本人はアジア人たちを日本から追い出しにかかった。そして、アジアというものを軽蔑し、欧米諸国を相手にしようとしはじめる。つまり、日本の近代史は、アジアとの関係をどんどん失っていくものだったのだ、、と。
なるほど、、、。日露戦争に負けていたら、、、、、、と思わずにはいられない。
歴史に、たら、れば、はないけれど、、、。

 

・”川崎展宏さんの句に「戦艦大和 (忌日・4月7日)一句」と前書きのある誰もがあげる代表作がある。
 「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク”  (『歴史のくずかご』)

ヨモツとは、黄泉の国、あの世。ヒラサカとは平坂とかいてあの世とこの世の境にある坂
戦艦大和が撃沈される前に、ひっそりとその命が消えていくのを感じ取っていたのではないかと。。。
そうか、ヒラサカって、坂、って、そういう言葉だったのだ。
先日、白洲正子さんの『鶴川日記』を読んだ時には、気が付かなかった。「サカ」と言うものには、あの世とこの世の境、、っていう意味が、元々あったんだ、、。

megureca.hatenablog.com

 

”12月8日は何の比か、と問うて正しく即答できる若者が近頃は少なくなった。”(『歴史のくずかご』)

愚かな開戦であった、真珠湾攻撃の日だ。
 日野原重明さんの『95歳・私の証 あるがまま行く』 の中でも、12月8日が言及されていて、わたしは、半藤さんのいう若者(ではないけれど)の一人だった。真珠湾攻撃の日なんて、記憶にとどめていなかった。。。

megureca.hatenablog.com


こうして短期間の間に、2回も出会った「真珠湾攻撃の日、12月8日」。多分、今年は思い出すと思う。。

 

・”当時ウィルソンが言ったという言葉が、妙によみがえってきます。20世紀の名言の中に入るのではないでしょうか。
勝者なき平和でなければならない。勝者も敗者もない平和だけが長続きするのだ」”
(『世界史の中の昭和史』)

最近、ウクライナのゼレンスキーさんがスピーチのなかで、「これまでは、この戦いの目的は平和だ、といっていたけれど、今は「Victory」と言おう!」と言っているのを聞いて、、、ズキンと胸が痛んだ。。。当事者になっていれば、難しいけれど、、、勝者がいるというのは敗者がいるということなのだ。。。痛いなぁ。。。

 

・”映画「独裁者」のなかのチャップリンの名セリフがわたくしの胸に再び突き刺さった。それは「一人殺せば殺人者となり、百万人殺せば英雄になる」というものだった。”(『昭和と日本人 失敗の本質』)

悲しいかな、、、今も、、、そう信じている人がいるかもしれない、、、。

 

・「戦後」の六段階
拙著『昭和史 戦後編』のまとめで、「戦後」を大きく6つに区分しました。
第1期 昭和20年から26年 占領の時代
第2期 昭和27年から35年 政治闘争の時代 独立回復から60年安保まで
第3期 昭和36年から40年 経済高度成長前期 東京オリンピックまで
第4期 昭和41年から47年 経済高度成長後期 沖縄返還まで
第5期 昭和48年から57年 価値観見直しの時代
第6期 昭和58年から現在 国際化の時代

ここに、平成と令和を足すと、、、どうなるのかな、、、と思った。
国際化は、グローバリゼーションとなり、失われた○○年となり、、、後に、コロナ前、コロナ後、、となっていくのか。


そして、改めて自分が生まれた時代は高度成長期だったのだなぁ、、、と思う。そして、時代としては恵まれた世代だったと思う。バブル期が学生だったおかげで、人生間違えるほどの道の踏み外しはなく、、、それでいて、就職には困らず、、、。私たちが年金をもらう頃には国の年金制度は破綻しているかもしれないけれど、それに備えるまでの時間が一応ある、、、ともいえる。

 

「あの戦争」を振り返るのは、決して心地よいものではない。ズキン、ズキンと、、、痛むものがある。だから、毎日の様には振り返れないけれど、時々は、思い出そう。

 

半藤さんの文章を読んでいると、司馬遼太郎よりは、吉本隆明さんを思い出す。歴史を美化することなく、自虐的になりすぎることもなく、、、淡々と向き合っているからかなぁ。

 

こういう、編集本は、手に取りやすいし、読みやすい。

一冊ずつ読む時間はないけれど、半藤さんの言葉に触れたいひとに、お薦め。

 

亡くなった後も、こうして言葉にふれることができる本と言うのは、ホントにすごいなぁ、、、。

読書は、こんな風に時間を巻き戻してくれる。

 

やっぱり、読書は楽しい。