『歩きながら考える』by ヤマザキマリ 

歩きながら考える
ヤマザキマリ 
中公新書ラクレ
2022年9月10日発行

 

本屋さんで目に入った。このタイトルは、どう考えても、『たちどまって考える』の続編だろう。税抜き900円、本が買って買って、、、と手招きしている。買った。

megureca.hatenablog.com

 

帯には、
パンデミックに奪われたこれまでの自由・・・・
でも立ち止まったままでは、いられない
先行き不透明な世界で、私達はどう生きていけば良いのか?
話題作『たちどまって考える』から2年。
「旅する漫画家」が出会い・経験し・考えたこと
*イタリア人の達観、日本人の変容
*死を想い、歴史を学び、古典を読む
*失敗を恐れるより、レジリエンス
*正しさへの疑念、情報を見極める力
*「令和のルネサンス」という未来”

 

カバーにかかれた内容紹介には、
パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由が奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちはこの先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアが詰まった一冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう !”

 

感想

やっぱり、面白い!
281ページの新書だけれど、あっという間に読めてしまった。だって、面白いのだもの。
やっぱり、ヤマザキマリさんの感覚は、私にとっては元気のもとになる。だよねだよね!と言いたくなることが沢山。ま、、私は彼女ほど虫に熱中することはないけれど、、、。

ヤマザキさんの虫好きは結構有名。本書の中ではカブトムシの大量繁殖に成功したはなしがでてくる。そして養老孟司さんを通じた虫仲間の輪。ちょっと、羨ましい。
っと、そんな虫の話もありつつ、この時代の生き方について語る、ちょっと真面目で、ちょっと笑っちゃう、いい本だった。


目次

第1章 歩き始めて見えたこと
第2章 コロナ禍の移動、コロナ禍の家族
第3章 歩きながら人間社会を考える
第4章 知性と笑いのインナートリップ
第5章 心を強くするために

もうどれもこれも覚書にしたくなっちゃうくらい盛りだくさんなのだが、、、中でもこころに響いたものを覚書。

 

日本にはびこる「世間の皆さんがそうなら」という同調圧力というのか、対立を避けて周囲との調和を優先する価値観は、日本の風土や歴史の中で育ったのだと思うが、それでも疑問をもって意見を表明する人もふえてきたのではないか、という話。

たしかに、感染拡大の中で開催された「東京オリンピック2020」や、記憶に新しい安倍総理国葬反対デモ。政府の言うことを必ずしも鵜呑みにしてYESというばかりではないという風潮は、確かにあるかも。

そして、
疑念の感性は、危険にあって、鍛え磨かれます。不確かな時代においては特に、その力は生きる上での強力なスキルにもなりえるのです”と。

TVで報道されていることだって、ただ鵜呑みにするのではなく、自分の頭でその報道の意味を考えたほうがいい。TVというのは、スポンサーに不利な発言はしないものだから、、、。

今回、ヤマザキさんが特に多く述べているのが、今までになく日本に長く滞在することになって、日本の文化について多く考えたということ。
上記のような、周囲と調和する価値観もそうだけれど、「一生懸命やれば結果を出せなかったとしても、尽くしてやったという価値が残ることに意義がある」というのも、日本の美徳なのではないか、と。
ヤマザキさんは、「それは他の文化圏ではおよそ通じないだろう」といっている。確かに、海外で仕事をするとよくわかる。
「善処します」なんて言葉は、海外のビジネスの現場では何の意味もない・・・。
でも、日本人ならそれでしゃんしゃん、、、って。。。

 

「孤独」に関しては、ココ・シャネル開高健の言葉が引用されている。
「人が好きじゃないのに、人がいないといきていけない。」
別に、人間嫌いというわけではないけれど、群れることは好まない、、、そういう感覚、ちょっとわかる。ヤマザキさん自身も、自分の中の群生性を自覚するけれど、その群れと相いれないと感じた時は、自然と距離を置く反射性が身についている、と。そうすることで、自己防衛しているのだと。そして、「理想的家族」というフォーマットに収まる必要なんてないのではないか、と。
ヤマザキさんにとっては、今の14歳ずつ離れた夫、息子、との家族が心地よく、かつずっと一緒に住んでいるわけでないという環境も、心地よい家族フォーマットなのだろう。

ほんと、人によって心地よいと感じる環境は様々。夫婦なら一緒に住んだ方がいいという人もいれば、別居していても快適と思う人もいるだろうし。こうであらねば、とおもうと窮屈になっちゃうから、人生においては「あるべき」はあんまり考えない方が幸せな気がする。

家族のありようの話の中で、ヤマザキさん自身の宗教の話が出てくる。ヤマザキさんは、カトリックの幼児洗礼をうけたクリスチャンなのだそうだ。それは、知らなかった。初めて聴いた気がする。それは、息子のデルス君が生まれた時に、その父親である詩人と別れる決心をしたのは、カトリックではない人よりずっと大変な決断だったのだろう。まったく働かない彼の面倒を見ながら子育てをするのは無理、だから息子を選んだ、と。
そして、シングルマザーとなって息子にたいして願うようになったのは、
「人間よりも、地球から愛される人になってほしい」
ということだった、と。
「あなたは生まれてよかったんだよ」という地球からのメッセージを感じられる人でいてほしかった、と。

あぁ、なんか、素敵だ。
人よりも、地球に愛される人。
きっと、地球に愛される人は、人にも愛される。


第3章の人間社会の話の中で、エリアス・カネッティノーベル賞作家、思想家)の『群衆と権力』が引用されている。奥の深い思索集だそうだ。今、読み返してみると、人間を理解するのに非常に役立つ、と言っている。ちょっと、興味深々。
カネッティは、群れることを批判しているわけではなく、フラットな立場で群衆の行動を俯瞰しているのだと。人間は群れる習性を持っている、群種があつまれば権力が発生する、群衆になることで人々は精神的な安寧を得られる、などなど。。、

 

第4章では、エンタメが取り上げられているのだが、ドリフターズの笑いこそ「クールジャパン」だと。笑っちゃうけど、わかる。しかも、あれって、会場から生放送でやっていたのだと思うと、すごいことだ。大道具さんがCMの間に舞台転換させたり、水もよく使っていた気がする。松田聖子とかすごいアイドルもコントで大立ち回りしてみたり、由紀さおりも存在感あったなぁ、、、懐かしい。カトちゃんの「ちょっとだけよぉぉ」とか、、、今はないよなぁ、、って。昭和の笑いは、ちょっとエロチックでも、意外と健全だったと思う。
私は、「8時だよ!全員集合!」世代だ。「おれたちひょうきん族」は、ちっとも面白くなかった。。。。

 

そして、落語。やっぱり、落語だよねぇ!!と共感。私は落語に詳しいわけではないけれど、やっぱり落語はすごい。古典落語なんて、おちはわかっているのに噺家さんの腕次第でホントに面白い。本書の中では、いくつかの落語が紹介されている。文七元結』、『三枚起請どっちもしらない。こんどYouTubeで見ておこう。ふふふ。楽しみが増えた。

 

落語から古典の話になり、いかに古典の言葉は今に通じるか、、という話に。

ヤマザキさんが手元に控えているアリストテレスの言葉が紹介されている。
どれも、その言葉の重みを感じた経験と共に。

「自己とは自分にとって最良の友人である」

「板垣は相手が作っているのではなく、自分が作っている」

「大事を成しうるものは、小事も成し得る」

「若者は簡単に騙される。なぜならすぐに信じるからだ」

「世間が必要としているものと、あなたの才能が交わっているところに天職がある」

「自然には何の無駄もない」

う~~ん、いいねぇ。
どの言葉も、いい。
いただき、メモ、メモ。

 

私は、ヤマザキさんの本を読むと、なんか勇気がもらえるのだ。そうだよね、そうだよね、ということが多い。

 

第5章で、「常識」ではなく「良識」で生きる、ということが語られている。わかりやすい例で、ヤマザキさんは絵描きを目指したいと言ったときにお母さんにみせられた「フランダースの犬」を見ても、ちっとも泣けなかったのだ、と。「かわいそうなネル」と涙するのが常識かもしれない。でも、ちがった。ネルがもっと外にも目をむければ逃げ道がたくさんあったはずだ、と「ネロは勇気がなかったから、こんな目にあったんだ」とおもったそうだ。
あ、、、これも、ちょっとわかる。
私は、フランダースの犬は、「カルピス劇場」で見た気もするけれど、可愛そうで、見ていられなかった。だから、あんまり感想がない。。。でも、似たような感覚を「キャンディー・キャンディー」に思ったのだ。いじわるなイライザにイジメられていじけて、王子様に助けてもらうことを待っているキャンディーが、みていて我慢ならなかった・・・。やられたらやり返せ!、、とは言わないまでも、なんで王子様が救ってくれるのをまっているのか理解できなかった。とっとと、そんな嫌な環境はにげだせばいい、と思っていた・・・。キャンディーキャンディーを知らない世代にはわからないか、、、。TVの挿入歌だって、なにが「笑ってキャンディー♪」だ、、、と思っていた。笑って自分の不幸をごまかすな!って突っ込みたくなる・・・。

 

悲劇のヒロインに共感するより、もっと戦え!とけしかけたくなるのが、ヤマザキさんや私の思考なのかもしれない・・・。 

 

また、元気になれる一冊だった。

よし、歩きながら考えよう。