『お天気ハンター、異常気象を追う』 by  森さやか

お天気ハンター、異常気象を追う
森さやか
文春新書
2022年8月20日 第一刷発行

 

日経新聞(2022年10月22日)の書評にでていて、面白そうだったので、買ってみた。
記事では、
”線状降水帯による大雨や強力な台風の襲来、猛暑など、異常気象が相次ぐのは日本だけではない。世界各地で激しい現象が起き、生態系にも影響を与えている。国際放送の気象キャスターを務める著者が、普段目にすることの少ない海外のエピソードを、温暖化問題と関連づけながら、時にユーモアも交えて解説する。気象の豆知識やうんちくもちりばめられ、読み終えれば相当のお天気通になれる。”と。

 

森さやかさんといえば、NHK WORLD JAPANのお天気予報のお姉さん。日本人だけど、綺麗な英語で話されるし、可愛いし、NHK   WORLD JAPANの気象予報士の中でも、好きな人。ニュースでは、”Meteorologist SAYAKA MORI”と聞こえてくるので、「森さやか」と記事を読んだ時には結びつかなかったのだけれど、本の表紙をみたら、あ、さやかちゃんだ!ってすぐにわかった。

 

帯には、
”さやかちゃん、切れ味鋭い! これを読めば、誰もがお天気コメンテーターになれる  石原良純氏”と、石原さんの写真付き。

 

裏には、本文からの抜粋が。
”「高温』
もし温暖化がこのまま進めば、8月には札幌を含めた全国の観測地点の約2割で最高気温が40℃を超える「激暑」となり、ある日の東京では42.8℃、熊谷では国内最高の44.9℃となる”

「線状降水帯」
その正体は雲の一族(略)アメリカには定義こそないが、線のような降水帯は「トレーニング(training)」と呼ばれている。と言っても筋トレのことではなく、雲が列車(train)の車両のように次々と連なって列をなしているイメージから派生している”

 

本の紹介には、
”お天気ハンター 異常気象を追う
「観測史上初」の激烈な猛暑、「数十年に一度レベル」の豪雨や台風・・・・。異常気象は、なぜこれほどまでに増えたのか。一方、世界ではビル・ゲイツが気象ビジネスに特化したファンドを作るなど、商機として気象変動が注目される。アルゼンチンに生まれ、英語で世界の天気を報じる実力派気象予報士が綴る、新たな教養としての異常気象入門。”

 

感想。
面白かった。たしかに、気象の入門書みたいな感じ。台風、豪雨、豪雪、、、私たちの生活に欠かせない天気予報。そして、毎年のように気象災害が起きている。災害を起こすような気象が、どうしておきているのかが解説されている。専門書ではないのでとっつきやすい。わかりやすく解説してくれているし、統計としての数字、さやかちゃんの知識と経験が交じっていて、読み物として面白い。お天気は身近なものでありながら、自分ではどうにもできないこともあって、その仕組みまで深く理解しようとは思う人は、そう多くはないのだろう。でも、本書のように要点をわかりやすくまとめてもらえると、なんというか、ちょっと、お天気に詳しくなった気になれる。

 

「はじめに」で、さやかちゃんがなぜ、気象予報士になったのかという説明がある。地球の環境が色々とめぐって今の状態になっているののと同じように、さやかちゃんの人生も、色々めぐって、気象予報士になったのだそうだ。
アルゼンチン生まれのさやかちゃんは、大学時代に免疫疾患の膠原病を患い、長く入院生活を強いられることになった。入院生活はつらかったけれど、自分の将来をじっくり考える機会になったのだと。そして、じっくり考えた末、大好きな外国語を生かして外交官をめざすことにした。一生懸命勉強し、筆記試験に合格した。が、その後、出生地がアルゼンチンであることから、二重国籍のために合格が取り消されてしまったのだそうだ。そう、外交官は日本国籍でなければいけない。アルゼンチン国籍は離脱しようとしても憲法上不可能とのこと。
で、気分転換にいったアメリカで、生まれて初めて外国の天気予報を見て、派手な衣装の女性予報士が画面を自由に動きまわって竜巻なる恐ろしい狂風の説明をしていた。ふと、中学時代に予報士試験に挑戦しようとして諦めたことを思い出し、ここで勉強しないと後悔する!と思って、気象予報士を志すことにしたのだそうだ。

人生、紆余曲折。いろいろ巡って、今がある。”と。

そうか、そうだったのか。なんだか、さやかちゃんが、身近に感じられるエピソード。そして、
”今の地球の現状をしり、これまでとは違う角度から地球の危機を見直すきっかけにしてもらえればありがたい”と。

 

目次
第一章 日本の異常気象
 線状降水帯
 ゲリラ豪雨
 梅雨
 アジアと台風
 豪雪
 高温
 桜

第二章 世界の異常気象
 熱波
 干ばつ
 山火事
 北極・南極
 大雨
 ハリケーン
 海洋
 温暖化からはじまるストーリー

第三章 地球の未来予想図
 勃興する気象ビジネス
 グリーンナッジ

 

どれも、身近といえば身近だし、ふむふむ、なるほど、っていう話。時々、気象庁の裏話みたいなものもあって、さらに身近に感じちゃう。

 

「線状降水帯」という言葉を聞くようになったのは、いったい、いつからだろうか。。。少なくとも、私が子どものころにはなかった気がする。
線状降水帯がもたらした災害は、2020年、熊本県球磨川の氾濫、2014年には広島市で山崩れなど。実は、昔からその恐ろしさはしられていたのだけれど、2014年の災害からその認知度が高まったのだそうだ。
そして、その正体は、雲の一族。サイズが長さ50~300キロ、幅20~50キロというのが提議。それは、梅雨前線と比べるとだいぶ小さく、隣り合った町でもまったく異なる天気となる。
本書の中では、その細い雲がどうやって出来ていくのかが説明されている。水蒸気が雲を作り雨を降らせるわけだが、強風で流されながら雲が発生し続けると、一方向に雲がどんどん伸びていく。親、子、孫、と次から次へと生まれた雲が一連のつながった雲になる。怖いのは、次々生まれる雲が、次々と雨を降らせていくということ、だから、個々の積乱雲の寿命は短くても、次世代の雲がどんどんやってきて、すごい雨が数時間も続いてしまうのだという。

2022年から、気象庁は線状降水帯の発生が半日前から予報されるようになった。「コーヒー予算」(国民一人当たり、年間500円)という弱小予算だった気象庁の予算が、ちょっとだけあがったらしい。

 

そういえば、数年前に気象庁にお邪魔したことがあるのだけれど、ボロボロの建物だったなぁ、、、、なんて思いだした。地震や火山のモニタリングを24時間やっている部屋は、昭和のまま、、って感じだった。コンピューターはすごいんだけど。そうか、予算がなかったのか、、、、。

梅雨の話では、雨の降り方は東日本と西日本では異なるというはなし。西日本の方が梅雨のあめは多い。梅雨の期間の降水量は、九州では500ミリで関東では300ミリだそうだ。なので、西の人は梅雨といえばゴーゴーと滝のように降る雨を想像し、東京のひとはシトシト雨をイメージするのだそうだ。しらなかった。私は梅雨といえばシトシト雨だと思っていた。


梅雨の話の冒頭では、『梅雨将軍信長』という新田次郎さんの本が紹介されていた。藤原正彦さんのお父さんの新田次郎さん。桶狭間の戦いで、平手左京亮(ひらてさきょうのすけ)という信長のお抱え予報士が、小鼓の音色で大気の変化を感じとって豪雨を予報した、っていう話らしい。そうだ、新田次郎さんも気象庁お勤めだったのだ。ちょっと、読んでみたくなった。

 

ゲリラ豪雨は、正式には「局地的大雨」といって、「急に強く降り、数十分の短時間に狭い範囲に数十ミリ程度の雨量をもたらす雨」という定義ということ。ゲリラとは、戦争を早期させる言葉なので、気象庁、NHKはかたくなにその表現を避けているそうだ。気が付かなかった。

 

ほかにも、色々説明すればきりがないのだけれど、どれもわかりやすいので、お天気に興味があったらお薦め。

 

北極と南極では、英語の名前の由来まででてくる。北極は、英語でArcticというのだが、語源はギリシャ語のArktosでクマという意味だったそうだ。ホッキョクグマをそのまま北極の単語にしたのだ。天の北極に見えるおおぐま座こぐま座が由来、ということらしい。そのクマたちが、氷の融解で、大変な危機にあるのだと、、、。

 

第二章の最後、温暖化によるストーリーでは、興味深い話が紹介されている。
温暖化によって影響をうけるのは、万物の霊長である人間も同じ。「風が吹けば、桶屋が儲かる」も、笑っていられない。
1978年アメリカでは「大雪積もれば、助産師が秋の休暇を申し出る」という言葉が生まれたそうだ。2月に、空前絶後の暴風雪があった。死者100人、けが人4500人。この時、大規模な停電が発生し、人々は寒さに震え、暖房も明かりもない不自由な生活を強いられた。そして、、、1年もたたないうちに産科は大わらわとなった。。。突如、ベビーブームがやってきた。停電でステイホームの中、男女がみな同じ方法で暖を取っていたということ、、、と。この時生まれた子どもたちは、「ブリザード・ベイビー」というあだ名がついたらしい。微笑ましいというのか、、、笑える。
で、分娩のピークは11月で過ぎたけれど、同じことが起きればまた秋は忙しくなる。そこで、「大雪積もれば、助産師が秋の休暇を申し出る」と。

と、このような微笑ましいことならばいいのだが、思わぬ話に発展することがある、と。


1.怠け者が増える
 アメリプリンストン大学の研究では、天気がいいと雨の日より労働時間が短くなることを発見した。ヘルシンキ工科大学では、22℃を越えると作業効率が落ちることを、エール大学では、数学や英語の知力スコアは、室温が5℃の時が最高で、21℃ではどんなに頑張っても頭に入らなくなる、、と。
温かすぎる部屋だと、頭がまわらなくなる、、、って、ちょっと体感済みな気がする。
受験生よ、部屋を暖めすぎるな!

 

2.怒りっぽくなる
これは、メジャーリーグでデッドボールから次のデッドボールが起こる率を分析して明らかになったこと。気温が10℃前半より35℃の時の方が、デッドボールが多くなるというのだ。
そもそも、人は暑いとキレやすくなることは照明されているそうだ。

 

3.悪夢にうなされる
夜間の気温とアメリカ疾病予防センターが集めた10年にわたる77万人の睡眠データを照らし合わせ分析すると、夜の気温が1℃上がると、睡眠不足の日が増加する。そして、悪夢にうなされる、、と。
睡眠不足は、身体によくないし、実際、不機嫌になりやすい。眠るときの温度に気を付けよう。

 

4.花粉症が辛くなる
これは、、、花粉症の人には、切実な問題だ。。。日本人は、42.5%が花粉症だというデータがあるそうだ。地域や温度によって花粉の種類はかわるけれど、温度が上がることで、全体に花粉が増える、、、温かくなることで、花粉シーズンは早く始まり、長く続くのだそうだ。由々しき事態だ、、、。
なんせ、鼻水では生産性が落ちるし、薬をのめば頭の回転は鈍る、、、。
でも、さやかちゃん曰く、朗報がある、と。
花粉症患者は、がんによる死亡率が半減する、という報告もあるらしい。。。

 

5.春うまれが減る
原因は、夏の天候変化で高温になると、精子卵子の質、男女双方のホルモン量に悪影響を与えるのだそうだ。さらに、農作物が不作になって、食料価格が高騰し、家計が苦しくなって母親が栄養不足になると、ますます、子どもはできにくくなる、、、と。

 

まぁ、こんな感じで、きちんとしたサイエンスのデータから、実際に起きている現象とがわかりやすく語られている。

 

なかなか楽しい一冊だった。

そして、気候変動を少しでも穏やかにするためにも、やっぱり環境配慮は大切だよね、と思った。

正しいエコ生活とはなにか、実はそれも奥が深い。。。