交雑する人類
古代DNAが解き明かす新サピエンス史
デイビッド・ライク
日向やよい 訳
WHO WE ARE AND HOW WE GOT HERE (2018)
NHK出版
2018 年7月25日 第一刷発行
どの本だったかわすれてしまったのだけれど、引用されていて面白そうだったので、図書館で借りてみた。借りてみたらあまりの分厚さに驚いて、、、積読になっていたのだけれど、そろりそろりと読んでみた。
結局、貸出を一度延長し、期限ぎりぎりで、飛ばし読み。
本書を図書館でかりた後、2022年のノーベル生理学・医学賞の受賞者に、スバンテ・ペーボ博士(ドイツ)が選ばれたニュースが流れた。絶滅した人類の遺伝情報を解析する技術を確立し、人類の進化に関する研究で大きな貢献をしたということ。
本書の中には、ペーボ博士とも協働した話も出てきた。遺伝子で人類の起源を明かすというのが、すごいことらしい、、、。
本書は、人類の歴史で起こった様々な交雑を、遺伝子学を用いて考察したもの。今のように遺伝子解析が迅速、かつ正確にできるようになったからこその研究だ。30年前は、1gene=1Enzymeといって、一つのタンパク質の遺伝子を解読しただけで論文になったのに、、技術発展とはすごいもんだ。私自身、四半世紀前、半年かけて大腸菌の一つの機能未知遺伝子を解析し、ホモロジー検索、酵素反応解析から機能同定をした論文を書いたことがある。いまじゃ、どのジャーナルも取り上げてはくれないだろう、、、。古典的学術論文、、、になってしまった。
遺伝子解析技術だけでなく、実は、その解読するための遺伝子を古代の骨から抽出するというのも技術の発展による。そして、この古代DNA解析によって従来の研究結果とは異なる人類の広がりが明らかになってきたのだ。また、DNAの解析を重ねる中で、多様性があることが知られている特定のDNA配列を比較することで、効率よく研究がすすめられることも分かった。
要するに、全部を調べなくても、特徴的配列だけを解析することで、より速く研究が進む、ということだ。
研究とは、ほんの小さな改善で、大きく前進することがある。まさに、古代DNA解析はその一つであり、革命なのだ。ミトコンドリアDNAという小さなDNAだけでなく、DNA全体の解析によって、おおきな発見が可能になった。
本書によれば、
・北ヨーロッパの集団が、5000年前以降に東ヨーロッパのステップからの大規模な移住集団にほとんどおきかわった。
・農業は中東の明確に区別できる複数の集団で1万年以上前に発達し、集団はその後あらゆる方向に拡散して農業を普及させつつ、互いにまじりあった。
などが、わかってきている。一方で、こうした新たな発見も、この分野のすごいスピードの発見で、どんどん書き換えられてしまうかもしれない、とも言っている。
とりあえず、これまでになかった発見をまとめた本、ということ。
本書で指摘しているのはまた、現在「人種」といわれているものは、過去からの様々な交雑であって、混合物なのだ、ということ。人々は、移住と民族の混じり合いで発展してきたのだ。PurePure純血なんて、思い込み。
膨大な内容なので、かなり、端折って飛ばし読み。
第一部 人類の遠い過去の歴史
第1章 ゲノムが明かす私たちの過去
第2章 ネアンデルタール人との遭遇
第3章 古代 DNA が水門を開く
第二部 祖先の辿った道
第4章 ゴースト集団
第5章 現代ヨーロッパの形成
第6章 インドをつくった衝突
第7章 アメリカ先住民の祖先を探して
第8章 ゲノムから見た東アジアの起源
第9章 アフリカを人類の歴史に復帰させる
第三部 破壊的なゲノム
第10章 ゲノムに現れた不平等
第11章 ゲノムと人種とアイデンティティ
第12章 古代 DNA の将来
最初に、現世人類の時代 が図解されている。
・700万から500万年前 チンパンジーとの共通祖先からの最終的な分岐
・約320万年前 「ルーシー」直立したアウストラロピテクス(アワッシュ渓谷・エチオピア)
・約180万年前 アフリカ外の人属(ホモ属)の化石(ドマニシ・ジョージア)
・77万から55万年前 遺伝的に遺伝学的に推定されたネアンデルタール人と現世人類の分岐
・33万から30万年前 現世人類の解剖学的特徴を持つ最古の化石(ジェベル・イルード、モロッコ)
・約32万年前 1~22番染色体(常染色体、即ち性染色体以外の染色体)のすべての部位を現代人と共有する最新の共通祖先のいた年代
・30から25万年前 中期石器時代または中期旧石器時代への移行期
・16万年前 「ミトコンドリア・イヴ」母系のみに着目した場合の現代人の最新の共通祖先がいた年代
・7万から5万年前 後期石器時代または後期旧石器時代への移行期
そしてサン族、西アフリカ人、東アフリカ人、西ユーラシア人、東アジア人、アメリカ先住民と分岐していく 。
はぁ、、、、あまりにも古代過ぎて、はぁ、そうですか、、、としか言いようがない。
これらの系統を、遺伝子を通じて明らかにしていったのが、著者の研究。ペーポとの共同研究の様子も語られている。
日本人に関する記述は、全461ページのうち、2ページくらい。。。
第8章 ゲノムからみた東アジア人の起源、で語られている。といっても、日本については、日本の遺伝学者・斎藤成也さんの検討と合わせて、著者らの遺伝的解析から結論を導いている。
要約すると、
日本列島では、何万年にもわたって狩猟採集民が優勢だった。斎藤のモデルでは、現代日本人は、古代に分岐した完全に東アジア人起源の2つの集団の混じりあいとしている。一つは、現代朝鮮人と関係のある集団、もう一つはアイヌと関連のある集団。アイヌのDNAは農耕以前の狩猟採集民のDNAと類似している。現代日本人のDNAの約80%が農耕民族由来で、20%が狩猟採集民由来であると推定されている。そして、DNAの解析から、その混じりあいは、1600年前くらいだというのである。それは、農耕民が日本列島にやってきたのよりはだいぶ後であるので、最初は、狩猟採集民と農耕民との交流は何百年もなかったのだろう、と。1600前というと、ちょうど、古墳時代で、日本列島の大部分が初めて単一の規範で統一された時代である。著者は、このころにおきたことが、こんにちの日本の大きな特徴である同質性の始まりを画する出来事だったのだろう、、、と。
と、他の地域についても、DNAの解析から様々な推定がなされていて、文字を残さなかった古代人とDNAで対話しつつ、人類の起源を紐解こうとする著者らの研究に、驚くというのか、あきれるというのか、、、ほんとに、気が遠くなりそうな話だけれど、やり始めたらとまらない、、、という感じなのだろう。
この先も、新しい化石からのDNA解析で、今の仮説を覆すことがでてくるかもしれない。
それをロマンといえばロマンなんだろう。
日本人と一言にいっても、多様性に富んでいるとおもうのだが、横軸に世界を広げ、縦軸に時間を広げて考えれば、同質性、、、なんだろうな、、、と思った。
ヨーロッパだってしかりだ。歴史的にみれば同じ民族だった人たちが、21世紀の今では戦争をしている。。。はぁ、、、なんたることか。
大陸のような陸続きの国に住んでいると、本書の中でも興味深いパートはたくさんあるのだろう。個人的には、研究の結果わかってきた人類の起源ということよりは、DNA解析技術の進展の方に興味が偏っているので、飛ばし読みしてしまった。
でも、実験結果に基づいての仮説なので、なかなか面白い。
そして、私たち人類が、同じ起源をもっていると思えば思うほど、戦争があほらしくなる。
こうして明らかになっていく歴史から、何を学び、これからにどう生かしていくのか。それが大事なのだろうと思う。
歴史に学ぶ。
古代人に学ぶ。
温故知新だなぁ、、、。
だいぶ古代に飛んだけど、やはり、歴史があきらかになるというのは、それはそれで興味深い。
いつか、本書を熟読するかもしれない。
いや、そのころには、また新しい事実が明らかになっているかも。
それはそれ。
やっぱり、読書は楽しい。