人はどこまで合理的か(上)
スティーブン・ピンカー
橘明美 訳
草思社
2002年7月15日 第1刷発行
スティーブン・ピンカーはハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサセッチュー工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者、そして視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一任者。米国科学アカデミー会員。
日経新聞の書評に出ていたので、図書館で予約してみた。私自身、行動経済学の分野が好きなので、ピンカー氏の講演は、YouTubeで英語の勉強のために聞くことがよくある。もともと、彼のことを知ったのは、YouTubeが勝手に私に勧めてきた動画があったからだ。翻訳されている著書もいくつかあるようだけれど、本は読んだことがない。
そして、今回、初めて読んでみた。
表紙裏にある本の紹介には、
”21世紀に入り、人類はこれまでにない知的な高みへと到達した。
わずか1年足らずで新型コロナウイルスのワクチンを開発できたことも、その成果のひとつだ。
その一方で、フェイクニュースや陰謀論の蔓延、党派的な議論の横行を多くの人が嘆くようになっている。
人間はこんなに賢いのにもかかわらず、なぜこんなに愚かなのか?
じつは、人の非合理性には、ある種の理由やパターンがある。
フェイクニュースや陰謀論、党派的な議論、将来への蓄えをしないこと、
国同士が凄惨な消耗戦に陥ることには、理由がある。
損を取り返そうと無茶な賭けをしたり、わずかな損のリスクを過大評価して
有利な取引を辞退したりするのには、パターンがある。
これらの非合理には、対策や介入が必要なはずだ。
理性の力で間違いを減らし、人生と世界を豊かにするには、どうすればよいか?
ハーバード大学の人気講義が教える、理性の働かせ方!”
と。
感想。
まだ、(上)しか読んでいないので、まだまだ、、、物足りない。けど、意外に読みやすかった。というか、過去の様々な人の研究をまとめてある感じなので、この分野の話に馴染みがあると読みやすい。(下)になると、もっと彼自身の思考がでてくるのだろうか?
また、本文途中にでてくるアメリカのTV番組での事例のようなアメリカ特有の文化、常識とされている背景などは、文中に訳者注記があり、本文注釈がないものも、日本人に読みやすい工夫がされている。286ページという単行本のわりに、わりとさくっと読めたのは、訳のおかげだと思う。わりと、淡々と訳されているので、複雑な話もわかりやすい。
目次
序文
1 人間という動物はどれくらい合理的か
2 合理性と非合理性の意外な関係
3 論理の強さと限界はどこにあるか
4 ランダム性と確率にまつわる間違い
5 信念と証拠に基づく判断=ベイズ理論
そもそも、ここ数十年の行動経済学等の分野で言われていることは、「人間の理性は欠陥だらけ」であり、「人間は非合理的」ということだ。
だからこそ、理性で判断したつもりでも間違いを犯し、戦争が始まる。。。。。
本書のテーマは、人間の非合理性を受け入れたうえで、どうすれば理性の力でその間違いを減らし、人類、Humanとして豊かになれるのか?ということ。
合理的で理性的といえば、先進国のエリートを思い浮かべそうなものだけれど、本書で最初に言及される賢い人は、アフリカ南部のカラハリ砂漠にすむ、世界最古の狩猟採集民、サン族のこと。彼等は、狩りをするのに合理的だし、理性的である。だから、必要に応じて狩りをし、必要以上に自然から搾取したりしない。どの動物が、どういう行動をとったとき、どうすれば狩りの確立が上がるのかを、合理的に理性で判断して行動している。だからこそ、民族として続いているのである。
なるほど。確かにそうだ。
先進国でかつてエクセレントカンパニーとよばれた会社だって、100年もてばいい、、、。
持続性がないのは、合理性にかけているのだろう。。。
では、合理性とは何か?
英語で言えば、rationalで、rationalとは、having reason、理由がある、ということ。
合理性とは、
・認知ツール
・目的に対して、どのように推論すべきか
・正しい解決法への最前線
ということ。
人間の合理性を或る基準をもって評価すると、思っているより低くなる。つまり、人は間違える。では、どうすればその間違いを減らすことができるのか。そこに応用できるツールの説明が、テーマごとにあるのが本書。(上)は、その途中まで、(下)に続く。
私たちが、どれほど間違いを犯しやすいかということを読者が自ら納得できるように、複数の研究者たちの過去の実験、理論などが紹介されている。
「プロスペクト理論」、「モンティ・ホール問題」、「リンダ問題」、「マシュマロテスト」、「ウェイソン選択課題」、「ナッジ」、「わら人形論法」。どれも、この分野では有名な話で、(上)の最後は、「ベイズ理論」。
(上)では、どれも過去の研究の焼き直しで、総復習できる、といった感じだ。
いくつか、リマインドとして覚書。
・「リンダ問題」から派生して
「人間は、自論を護ろうというときほど非合理になる」
・「モンティ・ホール問題」から、
「人間は、傾向と確率を混同しやすい」
・情念と理性のせめぎ合いをどう成立させるかを考える時に、ヒントになること。
① 一人の人間の複数の目的の中には、互いに両立しないものがある
② ある時点の目的は、他の時点での目的と矛盾することがある
③ 誰かの目的は、別の誰かの目的と相いれないことがある。
①と②を解稀するのに必要なのは「分別」で、③を解決するのは「道徳」。
・知らない方が合理的なことがある。
映画や小説のネタバレを好まない。生まれてくる子どもの性別を聞かない。あるいは、タブーとされていること(性別や人種による能力差など)をあえて調べない。
・理性とは、そもそも、疑うことから始まる。
・論理は万能ではなない。なぜなら、論より証拠で、現場確認をした方がいいことがある。あるいは、論理を組み立てる前に予備知識が不足していたり、無視したりするケース。しかも、前提をすべて挙げるのは不可能。
まだまだ、(下)に続く、、、、という感じ。。
「プロスペクト理論」、「モンティ・ホール問題」、「リンダ問題」、「マシュマロテスト」、「ウェイソン選択課題」、「ナッジ」、「わら人形論法」など、言葉の説明を覚書すると、長くなっちゃうので、続きは別途。。。