『コトラーのマーケティング5.0』 by フィリップ・コトラー

コトラーマーケティング5.0
デジタル・テクノロジー時代の革新戦略
フィリップ・コトラー
ヘルマワン・カルタジャヤ
イワン・セティアワン
恩蔵直人 監修
藤井清美 訳
朝日新聞出版
2022年4月30日 第1刷発行

 

日経新聞朝刊(2022年7月23日)の書評に出ていたので、図書館で予約してみた。3か月くらいで順番が回ってきた。

 

表紙裏の本文抜粋には、
マーケティング5.0 人間のためのテクノロジー
 Z 世代とアルファ世代の登場により、マーケティングがもう一度進化する時が来た
 もっとも若いこれら2世代の最大の関心と懸念は、二つの方向に向かっている。
一つは、人類にプラスの変化をもたらし、人間の生活の質を向上させることだ。
もう一つは、人間の生活のあらゆる面で技術の進歩をさらに推し進めることだ。
 Z 世代とアルファ世代に対応するためには、マーケターは人間の生活を高めるためにネクスト・テクノロジーを導入し続ける必要がある。つまりマーケティング5.0はマーケティング3.0(人間中心)とマーケティング4.0(テクノロジーというイネーブラー)を統合したものになる。 ”
とある。

 

目次

第1部 序論
 第1章 マーケティング5.0へようこそ
  人間のためのテクノロジー

 

第2部 デジタル世界でマーケターが直面する課題
 第2章 世代間ギャップ
  ベビーブーム世代と X、Y、Z 及びアルファの各世代に対するマーケティング
 第3章 富の二極化
  社会のために包括性とサステナビリティを生み出す
 第4章 デジタル・ディバイド
  テクノロジーをパーソナルに、ソーシャルにそしてエクスペリエンシャルにする

 

第3部 テクノロジー支援マーケティングのための新戦略
 第5章 デジタル化への準備度が高い組織
  すべての組織に合う戦略はない
 第6章  ネクスト・テクノロジー
   人間のようなテクノロジーが離陸する時だ
 第7章 新しい顧客体験
  マシンはクールだが人間は温かい

 

第4部 マーケティング・テクノロジー活用の新戦術
 第8章 データドリブン・マーケティング
  よりよいターゲティングのためにデータエコシステムを構築する
 第9章 予測マーケティング
  先を見越した行動で市場需要を予測する
 第10章 コンテクスチュアル・マーケティング
  パーソナライズされた感覚体験をつくる
 第11章 拡張マーケティング
  テクノロジーを活用したヒューマン・インタラクションを提供する 
 第12章 アジャイルマーケティング
  迅速かつ大規模に業務を実行する

 

感想。
ふむ。
結構盛りだくさん。ハウツー本として、すぐに役に立つ人もいるのだと思う。
マーケターなら、読んでおくべき本、かな?あるいは、みんなそんなのわかってるよ、でもよくまとまっているね、っていう感じなのか。
今の私には、なるほど、そういう世界があるのか。そのマーケティング戦略・戦術には騙されないぞ、、、なんて、斜に構えてみたりして、、、。

 

コトラーの書籍は、マーケティングの教科書として有名だけれど、私自身がマーケターなわけではないので、どの話もよくできていると思うけれども、それが哲学的に正しいのかはちょっとよくわからない。というか、私自身が、マーケティングというものそのものの意義をちゃんと理解していないから、斜にかまえたくなっちゃうのかもしれない。

本書を、ざー-っと一通り読んでから、やはりなにか違和感があり、その根本原因は、私がマーケティングを理解していないからなのだ、、、と気が付いた。なので、ちょっと、基本にもどって、マーケティングとは何なのかを考えてみた。

 

本書に最初に、コトラーの言葉がある。

マーケティングの目的は一貫して人々の生活を向上させ共通善に貢献することだ。”

 

マーケティングとは、単に自社製品をたくさん売れるようにするためのものではなく、人々の生活をよりよくするためにあるのだ、と。ようするに、それは企業の存在価値そのものだろう。とすれば、やっぱり、究極は沢山売ることでしょ?!と思ってしまうのだ。企業は利益をあげなければ従業員に給料は払えないし、より良い製品・サービスに先行投資することができず、社会に貢献しつづけることができない。儲けることは、悪いことではない。

 

そして、私の中の疑問は、「顧客が求める」が先なのか、「自社の強みがある」が先なのか??ということ。マーケティングは、基本的には顧客の分析だろう。でも、自社の強みが生かせるということも重要だと思う。


R&Dにも長く携わってきたわたしとしては、「Needs」と「Seeds」とどちらかだけでもだめ、、、ということも経験的に知っているつもりだ。だから、「顧客が求める」の中に、「自社の強み」をみつける、あるいは「自社の強みをさらに強める」が大事なのではないかと思っている。

 

結局のところ、どれだけ「顧客の求める物」がわかったとしても、そこに応えられる自社の強みがなければ、自分たちがその市場にでても存在価値はそんなに向上しないだろう、、、と思うのだ。儲かる市場、ブルーオーシャンだったとしても、自分たちに他社とは違う強みが無ければ、しんどいことになるのではないだろうか、、、と思ってしまう。

本書の流れで言えば、今、デジタルネイティブ世代が市場の中心になっている。昭和世代には、デジタルネイティブ世代に対する強みが何なのか、、、、それをデジタル・テクノロジーで補ってマーケティングせよ、というのが5.0なのだろう。

 

もちろん、自分たちの弱みを把握して、それを強みに変える取り組みも必要だろう。時代の流れとともに、顧客の求めるものが変わっていけば、かつての自分たちの強みは、弱みに陥ることだってあり得る。営業は脚で稼ぐ、、なんて今の時代には弱みになることもあるかもしれない。

 

と、考えてみると、マーケティングとは、市場の需要変化をリアルタイムに把握するとともに未来を出来るだけ高い精度で予測するための活動、、、ということだろうか。

そう考えると、コトラーが、マーケティング1.0から5.0までを綴っている意味がわかるような気がしてきた。
そして、「第4部 マーケティング・テクノロジー活用の新戦術」になってくると、マーケティングの方法論だけでなく、社内での連携の重要性も言葉として多く出てくる。アジャイルマーケティングは、社内の話だ

 

そうなのだ。結局のところ、どれだけ顧客のニーズを正確に把握、予測できたとしてもそれにこたえる社内体制がないと組織として機能しないのだ。大きな組織になるほど、役割の分業が進んでいる。そうすると、ある部署にとっては素晴らしい戦略・戦術、とおもえるものが、他の部署にとっては意味がなく見えてしまうことがある。自分たちの活躍の場が無いと感じると、おそらく魅力的な戦術には思えないのだ。

だからこそ、結局のところ、マーケティングをすることの最初の目的は、社内で共通の「戦略・戦術」を共感し合えるくらいの信頼性の高いデータを得るということなのではないか、という気がしてきた。

 

マーケティングというと、とかく顧客に視点がおかれるけれど、実はそのマーケティングで得られたデータを社内でどのように説明するか、それも大事。それは、「政治的に動く」ということも含まれるかもしれない。。。

マーケティングは、企業にとってとても大事だけれど、結局それを生かすも殺すも、社内連携による。つまり、経営の一部でしかないんだな。。。マーケティングが全て!ということではなく、経営の一部である、ということを心して読むと、納得がいく。うん。そうだ。マーケティングの神様は、別に、経営の神様じゃない・・・・。

 

よくできた訳文なので、読みやすいのだけれど、第1部~第4部のタイトルは、英語のほうがしっくりくる気がする。

第1部: Introduction 
第2部: Challenges marketers face in a dagital world
第3部:    New strategies tech-empowered martketing
第4部: New tactics leveraging marketing tech


 第1部では、マーケティング5.0とは何なのかの説明。その5つの構成要素は、2つの規律と、3つのアプリケーションからなる。

 

規律1:データドリブン・マーケティング
 文字通り、データに基づくマーケティングビッグデータを入手できることができるようになった今、データに基づいて感あげる。FACTによってたつ。

規律2:アジャイルマーケティング
 アジャイルとは、直訳すれば、迅速。ここでは、社内組織の俊敏性が求められることを言っている。まさに、最後の第12章につながる。私が、結局は、社内の問題だ、と最後に思ったくだりだ。

アプリケーション1:予測マーケティング
 機械学習機能をもって、予測分析ツールをつくってマーケティングすること。開始前に予測する。先手を打って市場に働きかける。第9章で詳細が語られる。

アプリケーション2: コンテクスチュアル・マーケティング
 コンテクスチュアルは、直訳すれば、「文の前後の関係上の」、「文脈上の」といった意味だ。顧客の属性に沿ったマーケティングということ。これは、わかる気はするけれど、ラベリングされている感じがして、顧客の視点からするとありがたいような、ありがたくないような、、、、。

アプリケーション3:拡張マーケティング
 ここでは、チャットボットとかバーチャル店員とか、人間を模倣した技術の利用のことを言っている。人間よりも24時間働ける機械を利用したマーケティングによって、生産性を向上させること。

 

第2部以降は、それぞれを詳細に説明している。

各章の最後に、「考えるべき問い」があって、自己診断できるようになっている。

「第5章 デジタル化への準備度が高い組織」では、デジタル化への準備度評価、というチェックシートもついている。

 

はたして、どのくらい実用性があるのか私にはわからないけれど、マーケターなら、参考にしたくなるかもしれない。

 

マーケティング1.0 :製品中心

マーケティング2.0 :顧客中心

マーケティング3.0 :人間中心

マーケティング4.0 :従来型からデジタルへの転換

 

そして、マーケティング5.0は、人とテクノロジーの融合、といった感じだろうか。

 

Z世代が登場して久しいが、次はとうとうアルファ世代だそうだ。言葉の使われ方は国によってちょっとずつ違うこともあるが、本書の中では、

ベビーブーム世代: 1946~1964年生まれ:大きな経済力を持つ高齢化しつつある世代

X世代:1965~1980年生まれ:リーダー的地位を占めている世代

Y世代:1981~1996年生まれ:従来の規範に疑問をもつミレニアル世代

Z世代:1997~2009年生まれ:史上初のデジタル・ネイティブ世代

アルファ世代:2010年以降生まれ:ミレニアル世代の子供たち。

 

わたしは、かろうじて?!X世代。会社のなかではY世代にポジションを譲っていく世代だ。だからこそ、脱サラしたんだけど、ね。

あ、ちなみに、平均年齢58歳のアメリカ下院議会で、この中間選挙で25歳の民主党議員が初当選。初のZ世代議員!時代は、前へ、、。

 

 

コロナによる経済低迷なんのその。やはり、市場は再び活性化し始めている。

本書の原書「Marketing5.0: Technology for Humanity」は、2021年の本。

これからは、人とデジタルの融合。

 

とくに斬新さは感じない。まぁ、2021年の本だし。だけど、方法論をまとめてくれているので、参考にはなる。

 

マーケティングが全てではない、という最後の12章を読んでから読むと、もっとさらっと読めるような気がする。

 

うん、ま、勉強になった一冊だった。

やっぱり、コトラーは、教科書か・・・・。