『第四間氷期』 by  安部公房

安部公房全作品4『第四間氷期
安部公房

新潮社

昭和48年1月15日印刷
昭和48年1月20日発行
『第四間氷期
*発表誌「世界」 昭和33年7月~34年3月号


先日読んだヤマザキマリさんの『歩きながら考える』ででてきたので、気になった。

megureca.hatenablog.com

 

安部公房は、砂の女が衝撃的に面白かったので、これも、ちょっと気になった。

megureca.hatenablog.com

図書館でさがしてみたけれど、単行本はなく、全集の中におさめられていた。借りて読んでみた。

 

全集自体が昭和48年のもので、表紙は真っ黒い布。今日日の単行本より縦に細長く、なんとも、、、重鎮な、、というのか、古めかしく、本文は、上下2段構え。小さな活字。。時代を感じる、骨董品みたいな本。『第四間氷期』のほかに、4つの短編がおさめられていた。

 

お話は、SFである。


読んでいて、これが昭和38年にかかれたのか?!と思うと、安部公房の創造力のたくましさに、あらためて感激してしまう。しかも、こういう作品もあったんだ!という驚き。

 

感想。
不気味・・・。
いくら科学が発達しても、、、現実にはならないだろう、、、と思いつつも、、、不気味さがひたひたと・・・・。
「未来予想」をしたがる人間と、「予測されたから従ってしまう」人間と、、、。
自分がつくった夢の機械に、自分の人生を翻弄されてしまう一人の科学者の物語。
やはり、「未来予想」をコンピューターにさせるなんて、まちがっているのか?!?!
今、現実となっている環境問題とはちょっと違う形だけれど、海面上昇により陸地がなくなってしまうとなったときに政府は何をするのか。
小松左京の『日本沈没』が昭和48年の作品なので、それより10年も前の安部公房の作品。
う~~ん、すごい創造力。

まぁ、なんとも不気味なはなしだった。
読み終わって、「ふえぇぇぇ、、、」って思わず、溜息ついちゃうような。
でも、読み始めたら止まらない。。。
面白かった。


以下、ネタバレあり。


物語りの主人公、勝見博士は、コンピュータープログラミングの第一人者。


昭和38年って、まだパソコンなんて普及していないし、一般に「プログラマー」という職業はなかったとおもうのだけど・・・。この設定自体、すごい。

 

舞台は、日本。東京湾周辺。勝見は、中央計算技術研究所の予言機械開発部・分室長。彼が作った「予言機械」は、見事に天気予報、産業、経済の予報をあてた。今後一か月で見込まれる不渡り手形、ある百貨店の売上予測、などなど、、・
その予言機械「モスクワ1号」は、予言を言葉で吐き出す。


”モスクワ1号は、なお貴国の株価指数、ならびに生産在庫の比率予想なども可能である。しかし、経済不安をおこすおそれなしともしないので、それは遠慮したい。われわれが望んでいるのは、あくまでもフェアーな競争以外のなにものでもない・・・”


たちまち時の「機械」になったモスクワ1号だったのだが、予言は、政治的、経済に悪用されかねないところから、「予言機械」に対する人気はだんだんと落ちていく、、、。

それに加えて、ソ連(ロシアではなく、ソ連!)が「モスクワ2号」を発表し、世界は、すべて、共産主義にかわるのだ、と予言する。

だんだん、「予言」に疑問を持ち始める世間や政府。大々的につくった予言機械開発部だったけれど、何の予言をするためなら開発予算をもらえるのか、、という状況に陥っていく。

 

政府の委員会からも厳しい条件を言い渡され、勝見が助手の頼木とともに思いついたのは、「モスクワ1号そのものの予言」あるいは「人間の未来予言」だった。

 

そして、サンプルとしてある人間の未来予言をしようと、二人はサンプルを探しに街に出る。喫茶店で待ちぼうけをくっているようにみえる何の変哲もない普通の中年男がいた。これはいいサンプルと見定めた男を選んで、尾行を開始。どうやら、待ちぼうけにあった相手の家に行くと見えた男。とある家に入っていった男。誰の家なのかを確かめるためにその後を追った頼木は、ドアの向こうでドンと何かが倒れるような音をきいて、、、、。

 

翌日の新聞には、その男が殺されたという記事・・・。交際相手が男を殺したと自首。しかし、女が殺したとは思えない警察は、真犯人を追う。この男を尾行していた二人は、犯人と疑われる可能性を否定するために、先回りして色々と画策する。とある病院の医師と協力して死体の脳から、過去の記憶を取り出す実験をしてみたり、、。

 

なぜかよくわからない殺人事件に巻き込まれた勝見と頼木だったけれど、実は、その男を殺した男を生み出したのは、「予言機械」が発端だった。そこから、胎児売買事件、秘密の海底開発協会、、、、。実は、頼木は全てを仕組んだ張本人で、そもそも、頼木が海底開発協会とつながっていて、勝見をはめていた。いつのまにか勝見は、自分のつくった「予言機械」が生み出した怪物に、自分は死ぬ運命だと定められ、、、、。

なんとも、奇妙な転回に。

 

そして、なぜ、このお話が『第四間氷期』というタイトルかというと、海底開発協会が行っていたのは、きたるべき日本沈没の日に備えて、水中牧場をつくり、家畜のみならず、水生人間を作り出すことだったから。

 

昭和38年の話だから、「遺伝子組換え」なんて言葉は一般的ではなかっただろうし、そもそも、遺伝子の解明だって進んでいないころだ。ワトソン&クリックの2人がDNAの構造をNature誌に発表したのは、 1953年4月1日、つまり昭和28年。それから10年後の作品だ。ようやく、遺伝子の構造がわかったころ。

 

お話の中では、遺伝子組換えではなく、胎児の発生の過程に人為的に手を加えることで、犬、豚などに鰓を発生させ、水生犬、水生豚を大量飼育している。密かな実験だけれど、密かに大量生産され、実は、地上の流通にのっているのだ。結構、不気味。発生をいじることで、ちょっと奇形な犬や豚なのだけれど、それが水生犬、水生豚としては正常だとして、大量海底飼育されている。。。

 

で、極めつけは、水生人間。。。。海底火山の爆発により、ほぼ水没した日本は、人間社会から、水生人間の社会に移行していく、、、、。 

海底開発協会は、水生人間をつくることが最終目的で、そのために人間の胎児を大量に入手していた。

 

結構、グロテスクな話である。

 

読んでいて、ときどき、「予言機械」が映し出している未来の話なのか、勝見が生きている現実の世界なのか、わからなくなる。

やはり、予言なんてするものではないのか。予言したから、勝見は死ぬ運命にはまったのか、、、。最後は、勝見が、ひたひたと近寄る殺人鬼の足音を耳にして、THE END。

 

なんとも、、、SFな世界。

 

いやぁ、、、やっぱり、安部公房って、どういう頭をしていた人なんだろう、、と思ってしまう。『砂の女』も、SFっぽいといえば、ひたすら砂を掻き出す生活は、SFっぽい。

 

いやぁ、なぞの世界へはまってしまった。

ちょっと、現実にもどんなきゃ!!ってくらい。

 

読書は、未知との遭遇

やっぱり、楽しい。