『タイタンの妖女』 by カート・ヴォネガット・ジュニア

タイタンの妖女
カート・ヴォネガット・ジュニア
朝倉久志 訳
ハヤカワ文庫

1997年10月31日 発行

2005年5月31日 21刷

 

『「言葉」が暴走する時代の処世術 コミュニケーションで悩む全ての人へ』(集英社新書、山極寿一 太田光)の中で、太田光が好きだと言っていた一冊。

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図書館で借りてみた。ハワヤカ文庫SFのシリーズ。太田さん曰く、ブラックジョークの塊のような人、といっていた作家。

ほんとに。ブラックジョークというか、救いようがないというか、、、面白いんだけど、むなしくなるような、、、ディストピアといっていいかもしれないし、本人がそれをしらなければユートピアかもしれないし、、、、。

SFだと思って読むから楽しめる。圧倒的にSFの世界ではあるのだけれど、人間の私利私欲の浅ましさを全面に描いているというのか、なかなか、シュールというか。

世の中なんて、こんなもんだよね、っていう斜に構えた感じが見え隠れする。

 

裏の説明には、
”すべての時空にあまねく存在し、神のごとき全能者になったウィンストン ・N・ラムファード は、戦いに明け暮れる人類の救済に乗り出す。だがそのために操られた大富豪コンスタントの運命は悲惨であった。富を失い、記憶を奪われ、太陽系を星から星へと流浪するはめになったのだ。最後の目的地タイタンで明かされるはずの彼の使命とは一体何なのか? 心やさしきニヒリストが人類の究極の運命に果敢に挑戦した傑作!” 

 

著者のカート・ヴォネガットは、アメリカの小説家。
ウィキペディアの情報によると、
”1976年の作品『スラップスティック』より以前の作品はカート・ヴォネガット・ジュニアの名で出版されていた。 人類に対する絶望と皮肉と愛情を、シニカルかつユーモラスな筆致で描き人気を博した。現代アメリカ文学を代表する作家の一人とみなされている。”と。

なるほど、人類に対する絶望と皮肉と愛情。。。まさに、それがつまった一冊だった。

SFなので、なんだかよくわからないことが次々おこるのだけれど、気にせずどんどん読み進めると、、、、最後に主人公は、、、、きっと、幸せだったんだろう。著者の愛情が垣間見える感じ。

面白いのだけど、ちょっと、疲れた。皮肉が多いからだろうか。登場する人物(だったり機械だったり、、、)の素性が、みんなどこかひにくれているのだ。みんな、人にやさしくない。感情は、頭に埋められたアンテナでコントロールされているし、不要な記憶は消されちゃう。。。

いったい、どういう結末になるんだろう、、、と気になるから、読み進めるのだけれど、次々と訳のわからない世界になっていく。それが、一応、主人公のいる世界を軸に、展開していく。宇宙船で次から次へと違う惑星に飛んでいく。そして、最後は、土星の月、タイタンに到着し、最後はしずかな余生、、、って感じの話。何も残らないむなしさ、、、みたいな感じ。

あぁ、、ついつい、読んじゃったよ、、、って。。。

SFの世界といっても、そういう仕掛けか!っていうサイエンスのすごいネタがあるというより、まぁ、起こりそうにもないけど、仕組みはともかく、想像の世界が広がっているっていう感じだろうか。科学者のかいたSFではないストーリーといったらいいだろうか。。。


以下、ネタバレあり。

 

物語のすべては、一人の男 ウィストン・ナイルズ・ラムフィードが仕組んでいる。その男は、神出鬼没に「実在化」して、人々の前に現れ、人の運命を操っている。ラムフィードは、3Dホログラムのような技で、実在化するのだ。

操られた一人が、物語の主人公、マラカイ・コンスタント。彼は、父親の莫大な遺産を受け継ぎ、時価30億ドルの資産家。全米一の大富豪で、悪名高い女たらし。あまり良い人ではない。彼は、父親とは一度しか会ったことがないのだが、そのときに投資で成功した秘訣を教えてもらった。

父親は、聖書に書かれたことを忠実に守った。
”In the beginning God created the heaven and the earth.”
(はじめに神は天と地を創造された)
I.N.T.H.E.B.E.G.I.N.N.I.N.G.G.....
聖書の文字の順に、その名前のイニシャルの会社に投資していき、莫大な利益を上げたのだった・・・。

こんなところにも、作者の皮肉が隠れている・・・。

そして、大富豪のコンスタントは、宇宙船も持っていれば、不動産会社、煙草会社、、、あらゆるものを所有していた。
しかし、あるい日酔っぱらった勢いで、はべらせた女たちに自分の資産を次から次へとあげてしまう。おまけに、所有していた煙草会社のたばこは、不妊のもとであるという研究結果が発表され、株価は暴落。訴訟問題に。ほぼ、破産寸前となってしまう。

そんなコンスタントに狙いをさだめたラムフィードは、自分のことを愛してくれない自分の妻ビアトリスをコンスタントと、コンスタントから買い取った実家用宇宙船で、火星へ送り込んでしまう。

火星についたコンスタントは、もう、地球上での記憶は消されていて、ただの一兵卒として仕事をしている。そこでの名前は、アンク。そして、ビクトリアは、ビーという名前で、兵士の学校で教師をしている。また、どうしてそういう展開になるのかわからないのだけれど、アンクとビーの間には、クロノという子供が生まれている。しかし、お互いに愛情を持って暮らしているわけでもなく、それぞれ別々で、憎みあっているともいえる。

アンクは、あまりにも色々な記憶を持っているので、なんども記憶を消す手術をされる。そして、アンクは、親友だった兵士を、上司の命令に沿って自分の手で殺してしまう。すべては操られているのだ。

火星と地球は戦争をしている。今は火星軍として働いているアンクやビーだったが、地球にもどるチャンスが来る。ビーとクロノは、無事に地球に帰り着くのだが、地球はほとんどの人が火星との戦争で死んでしまっている。全世界で生き残りは316名。アメリカで58名だった。そんな地球に着陸したビーとクロノは、ジャングルでサバイバルしているうちに、母と息子らしい愛情を育む。


一方、アンクは、元上官のボアズと一緒に別の宇宙船に乗って地球に向かうのだが、ラムフィードの思惑で、二人の乗った宇宙船は水星に着陸してしまう。
水星で何年か過ごしているうちに、ボアズは、もう地球へ帰る気持ちをなくして、水星のなぞの生物をペットにしてのんびり過ごすという。ボアズと謎の生物のあいだで愛情が芽生えたのだ。。

ボアズは、閉された水星で、人生に大切なことは「寂しくないこと、びくびくしないこと」と学んだのだ。
謎の生物は、言葉は発さないが、みんなでメッセージをボアズに送った。
「ボアズ、イカナイデ」
それに従ったボアズは、ひとり水星に残る。。。そして自分に言い聞かせる。「ボアズ、おまえはいいこだよ。ボアズ、さあ、おやすみ」
その後の消息は不明・・・。

 

そして、アンクは、一人で地球に向かう。アンクは、地球年齢で43歳になっていた。そして、かつてのラムフィードの館を訪れ、そこで再び、ラムフィードに運命を翻弄される。町では、ビーがマラカイ人形を信仰のしるしとして売っていた。マラカイ人形は、まさに絞首刑のように首をつるした人形だった。その名も、アンクのかつての名前、マラカイ・コンスタントの絞首刑人形、、、という皮肉。
また、生き残っていた人々は、みんなハンディキャップを追っていた。自らにハンディキャップを課すことで幸せになるのだった。

なにが彼等をそんなに幸福にしたかというと、もう他人の弱点に付け込む人間がだれもいなくなったからである。。。生き残った人たちは、火星人も地球人も同じように葬り、平和にくらしていた。

しかし、ラムフィードに翻弄され続けるアンクは、今度はビーとクロノと一緒に、タイタンへ飛ばされてしまう。

タイタンでは、トラルファマドール星からきたサロという機械と出会う。サロは、地球からの様々なメッセージを解読し、ラムフィードとも友達になっていた。
ストーンヘッジは、「交換部品もっか至急製造中」
万里の長城は、「おちつけ、おまえを忘れたわけではない」
など、トラルファマドール語でのメッセージだったのだ。
そして、実のところ、ラムフィードもサロに利用されていたに過ぎないのだった・・・。
サロもトラルファマドールの機械でしかなかった。。

地球人に「よろしく」と伝えるためだけの。。。

結局そこでアンクも、ビーも、仲睦まじく暮らすわけでもなく、それぞれに年老いて、死んでいく。。。


救いようがないといえば、救いようのない物語・・。

なんじゃこりゃ?!!?という感じ。

宇宙で生活するためには、肺呼吸ではなく「呼吸玉(ヒョウロク玉)」という飴をたべて腸から酸素をとるとか、宇宙船の推進エネルギーは、UWTB(Universal Will To Become:そうなろうとする万有意志)を使うので永遠だ、、とか。SFの世界もあるにはある。

タイタンにいたサロは、持っていたUWTBを火星の自殺のために提供した。

 

コンスタントが、破産しそうになったときに初めて目にした「父からの手紙」には、
「もしおまえが無一文でだれかがとっぴょうしもない相談をもちかけてきたとしたらわしはその話に乗れと忠告する。なにかを学ぼうという気になったらおまえはなにかをまなべるかもしれない。わしがこれまでにまなんだたった一つのことはこの世には運のいい人間と運のわるい人間がいて、そのわけはハーヴァード・ビジネス・スクールの卒業生にもわからんということだ」とあった。

 

これは、作者からのメッセージの一つだろう。
運の良しあしなんて、だれにもわからん。 

 

なんとも、ブラックなお話。

つじつまが合わないのは、SFだから気にせず読み飛ばす。

なぜ、タイトルが妖女なのか?

結局、男は女に翻弄されるというブラックなのか??

 

なんだか、よくわからないお話だったけど、これが読み継がれるって、ブラックだなぁ、、、と思った。

 

不思議な一冊。

頭も心も、疲れていない時なら楽しめる。