映画:『土を喰らう十二ヵ月』

映画:『土を喰らう十二ヵ月』

 

坐禅会でお世話になっている全生庵平井住職が銀幕デビューを果たしたという、沢田研二主演の映画『土を喰らう十二ヵ月』を観てきた。

 

パンフレットには、

”喰らうは生きる
食べるは愛する
いっしょのご飯が
いちばんうまい

沢田研二、主演。
料理研究家土井善晴が映画に挑む。
四季折々の食で綴る人生ドラマ

監督:脚本 中江裕司
原案:水上勉 土を喰う日々 わが精進十二ヵ月』


感想。
うん、地味なお話だ。上映している映画館が少ないわけだ。。。
でも、私は好きだな。
2時間、ほぼ無表情で観てしまった、、、って感じなくらい、地味。
でも、導入のジャズ、雨や風、鳥のさえずりなどの自然音、多分、音が少ないのがいい感じ。
セリフも、文字にしたら随分と少ないと思う。沢田研二松たか子火野正平奈良岡朋子檀ふみ、、、そうそうたるメンバーによって醸しだされる、言葉ではない表現。
静かな映画で、私は好きだ。

 

これは、10代、20代がみても、心にしみいったりはしないだろう、、、。でも、きっと、家族、友人、大切な人を失ったことのある人には、しみいる。50歳を過ぎて、いかに人生100年時代とはいえ、人生の折り返しをしてしまったことに気が付いた人には、しみるんじゃないだろうか。都会の騒音につかれている人、加工食品にまみれた生活をして胃腸がつかれている人にもしみいるかも?!

 

出てくるお料理は、主人公のツトムがつくる精進料理。雪の季節から始まり、春、夏、秋、冬、、、と季節がぐるっと一周する。その間に起こる人生に数度しかないであろう出来事と、食事という日常の出来事。

自然の描写には、冬眠から覚めたカエル。夏の元気なカエル。冬ごもり支度をしているかのカエル。あぁ、カエルって可愛い顔しているなぁ、、なんて。鳥、亀、鹿、、、。雪から新緑へ。。。

啓蟄など、二十四節気の言葉が、季節ごとにでてくる。

 

そして、冬の保存食、干し柿や白菜の漬物。春にはタケノコ。秋にはキノコ、冬には大根。
などなど、、、お釜さんで炊くご飯。シンプルでいて、丁寧な仕事のお料理たち。また、それをとっても美味しそうにほおばる松たか子演じる真知子。

なんか、丁寧に作った素朴な食事っていいなぁ、、って思った。今日は、ゆっくりお料理して食べよう、って思える。

 

ネタバレにならない範囲で、ちょっとだけストーリー紹介。

 

主人公のツトムは、口減らしのために9歳で禅寺に預けられた。13歳でお寺を脱走(と本人の回想)するまで、住職に精進料理を習って生活していた。そんなツトムもいまでは初老の作家。(これは、水上勉さんがモデル)
 ツトムは、信濃の山荘に住み、山の山菜をとったり、畑で育てた野菜をつかってお料理をしている。13年前に妻を亡くし、妻の御骨とともに一人暮らし。出版社に務める真知子は作家ツトムの担当編集者として時々訪れ、年の離れた恋人。真知子は、食いしん坊だ。ツトムが真知子と一緒に食事をすると、ツトムは自分の分まで真知子に譲ってしまう。ツトムには、それが幸せだった。

妻が亡くなって13年にもなるが、ツトムは時々、愛犬の「山椒」をつれて、山小屋に一人で暮らすちょっと偏屈者の義母を訪ねる。義母は、味噌を付けるのが上手で、ツトムはそれを分けてもらうのだった。妻が好きだった山椒の佃煮を美味しそうに食べる義母は、「これはおまえにはやらん」といって、ツトムには山もりご飯と沢庵をふるまうのであった。そう、妻は、犬に「山椒」と名づけるほど、山椒がすきだったのだ。

 

ある日、その義母が亡くなってしまう。妻の弟夫婦がいるのだが、義母と折り合いの悪かった嫁は、ツトムにあれこれ押し付ける。それを止めもしない弟、、。そして、ツトムの家で葬式をすることになり、ツトムは、通夜振る舞いの準備から、祭壇、棺桶の準備まで翻弄される。実は、ツトムの父は棺桶をつくる大工だったし、お寺で育ったためにツトムは人の死を忌むことがない。人としての自然の成り行きの一つ、くらいに思っているのだろう。そして、通夜振る舞いとして、とれたてのゴマでゴマ豆腐をつくるのだ。お悔やみに来た真知子も、その手伝い。

 

無事に葬儀を済ませたと思ったら、御骨まで押し付けられてしまう。そして、妻の骨壺と、義母の骨壺と並んですごすことになるツトムだった。

義母が亡くなってから、あるときツトムは真知子に「ここでいっしょに暮らさないか」という。「考えさせて」と答える真知子。

ツトムは、真知子がいてもいなくても、自分の毎日の料理を淡々とつくって暮らす。そして、あの白い「骨壺」というものは、何と人工的なんだと思い、自分の骨壺を焼いてみることにする。散歩で見かけた赤土土壌から土をとってきて、土をこね、ツボを作り、焼き窯で焼くツトム。だが、その途中、ツトムは心筋梗塞で突然倒れてしまう。たまたまツトムの元へ訪れた真知子が窯で倒れているツトムをみつけ、救急車で病院へ。ツトムは奇蹟的に助かる。

 

そして、退院してきたツトムに、「わたし、ここで暮らそうと思う」といった真知子。
だが、今度はツトムが「君にここに来てもらうと困ることになる」と言い出す・・・。

その先は、ネタバレになるのでここまでにしよう。

 

映画の中での最後の料理は、ふろ吹き大根。お米のとぎ汁で炊いただいこんに、義母の作ったみそ、ゆずをあわせて。

ていねいに、「いただきます」をするツトムの姿で終わる。


なんとも、地味・・・だよ。たしかに、地味な話だよ。
でもね、いいなぁ。。。

私は、いつか、自給自足で暮らしてみたいとおもうくらい、畑づくり、料理が好きだ。

私の場合は、精進料理ではなく、肉も魚も食べたいけど。

庭に畑のある山荘での暮らしが羨ましい。

 

ちなみに平井住職は、ツトムの寺生活時代の回想で出演。タケノコのほり方を教えてもらったのだった。それにならって、今でもタケノコを採るツトム。また、梅干しの漬け方も、住職仕込み。精進料理は、本当に丁寧な仕事なのだ。

 

竹林を歩く2人の足元の映像が出てきたときに、あ、ここに住職でてくるんだ、とおもったらやっぱり。最初にうつったのは後姿だったけれど、すぐわかる。ちゃんと、セリフも。
ツトムに「まだ土の中にいるタケノコ」を掘ること、採ったたけのこはその場で皮をむいて、皮は竹林にすてること「栄養になるから」と、教える。

 

住職は、子役と二人で新幹線で京都に行って撮影したので、沢田研二にも松たか子にも会えなかった、、、といっていたが、、、確かに、このシーンの撮影なら、まったく会わずじまいだろう・・・。なんせ、舞台が京都に飛んじゃうし。

 

回想のなかでは、ほうれん草の根っこを洗うのが面倒だからと切り落としたツトムに、「一番美味しいところをもったいない」といって、大事に拾い上げた住職を思い出すツトムのセリフがあった。

 

エンドロールに、ちゃんと
平井正修”ってでてきた。

 

たった、あれだけのシーンのために、本物?!の住職を出演させるとは、すごいこだわりだなあ、、とおもってしまった。とりあえず、坊主頭ならだれでもよさそうだけど、、、なんて、言ったらおこられるか。

 

奇をてらったところはなにもない。

ごくごく、シンプルな初老の男の暮らし。

ただ、それだけの話といえばそれまで。

 

だけどね、なんだか、ほっとする感じだった。

人は、一人で死んでいくもの。

そうなんだよね。

でも、ツトムの「好きな人と食べるごはんが一番うまいじゃないか」という言葉に、人は、一人で生きているわけではない、ということも、そうなんだよね、って思う。

 

静かに、こうして毎日生きて、生活していけていることをありがたく思う。

そんな、静かな映画だった。

 

観るなら、年内がおすすめ。

そして、新たな気持ちで2023年を迎えたい!

そんな感じ。

ちょっと疲れている人に、お薦め。

 

そんなに、頑張らなくてもいい。

毎日を丁寧に生きよう。