『自分の小さな箱から脱出する方法』 by  アービンジャー・インスティチュート (その1)

自分の小さな箱から脱出する方法
人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!
アービンジャー・インスティチュート *
金森重樹 監修
冨永星 訳
大和書房
2006年11月5日第1刷発行
2016年2月1日第45刷発行

 

*The Arbinger Institute:アメリカ・ユタ州に拠点を置く研究所。哲学者 T・ウォーナー が創設メンバーに加わっていたという異色の集団。現在ではビジネス、法律、経済、哲学、教育、心理学の専門家が一堂に会し組織内にある人間関係の諸問題を解決することによって収益を高めようという独自のマネジメント研修やコンサルティング業務を行っている。ちなみにArbingerとは先駆けの意。

 

同世代の友人が、すごくいい本だった、といっていたので図書館で借りて読んでみた。

初版が2006年ということだけれど、これまで知らずにいた。人間関係についての本は色々読んできたつもりだったけど、世の中まだまだ知らないことがいっぱい。

 

表紙裏には、図と共にメモが
「知っておくべきこと
・自分への裏切りは自己欺瞞へ、さらには箱へとつながっていく
・箱の中にいると、業績向上に気持ちを集中することができなくなる
・自分が人にどのような影響を及ぼすか、成功できるかどうかは、すべて箱の外に出ているか否かにかかっている
・他の人に抵抗するのをやめたとき、箱の外に出ることができる 」

 

これだけ読んでも、何のことだかわからないだろう。でも、「箱」が自分を取り囲む壁の事、ってわかったら、すごくわかりやすい。


感想。
これは!!
久しぶりに、星5つ。
もしかすると、今年読んだ本のなかで、最もインパクトがあったかもしれない。
ま、年末近くに読んだという、認知バイアスもあるけど。
一度さらっと読んで、ちょっと鳥肌が立って、もう一度じっくり読み直した。 

うん、人間関係というか、自分自身を省みるという点で、とてもよく書かれている本だと思う。

 

いやいや、しってるんだよ、こういうの。前にも読んだよ、と思いつつ、やはり人間、のど元過ぎれば、、、ではないけれど、久しぶりにガツンと来た感じ。『鏡の法則』に近いかな。でも、もっと理論的に説明されていると言ったらいいだろうか。
さすが、著者が「Institute」なわけだ。英知が詰まっている感じ。

 

仕事は楽しいかね?』のように、物語風になっているのだけれど、イラストによる図解、理論的説明がしっかりしていて、読みやすい。訳も良いのかもしれない。

 

なんか、訳者の冨永星さんて名前を見たことがあるような気がして調べてみたら、カルロ・ロヴェッリ『世界は「関係」でできている』とか『時間は存在しない』の訳者でもあった。本書の訳者紹介には、京都大学理学部数理科学系を卒業とあった。すごい、こういう本も翻訳されているんだ。ちょっと、訳者にも興味を持ってしまった。

megureca.hatenablog.com

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この本には、人間関係に関する大事なことが詰まっている。人生における問題のほぼ99%は人間関係に関することだ。だから、人間関係には何の問題もないと思っている人でも、読んでみると、あ、、、確かにそういうことがあった、とか、色々な気づきがあると思う。


会社の中でなぜ自分だけ出世しないのか、なぜあの上司はあんなに嫌な奴なのか、などなど、、、ちらりとでも思うことがあったら、この本がモヤモヤを払拭してくれるかもしれない。

 

薦めてくれた友人は、素晴らしい人格の持ち主で人間関係の悩みなんてなさそうだけれど、その彼をもって「いい本」と言わしめた本。あぁぁ、読んでよかった。
しかも、年内に読んでよかった。2023年からは新たな気持ちで!、、、なんて言わず、いますぐ、実行しよう。自分の小さな箱から脱出しよう


目次
第1部 「箱」という名の自己欺瞞の世界
Chapter 1 「君には問題がある」
Chapter 2 自分だけきづいていないこと
Chapter 3 何も見えない状況に陥るとき
Chapter 4 さまざまな問題のもとになっている一つの問題
Chapter 5 効果的なリーダーシップを支えるもの
Chapter 6 自己欺瞞に冒されている人ほど問題がみえない 
Chapter 7 目の前の相手は「人」か「物か
Chapter 8 うまくいかないのは自分が悪いのか? 

第2部 人はどのようにして箱に入るか
Chapter 9 箱に入っているのはあなた一人じゃない
Chapter 10 箱の中に押し戻されてしまうとき
Chapter 11 あなたを箱の中に追い込む「自分への裏切り」
Chapter 12 ほんとうに相手が悪いのか?自分を正当化できるのか?
Chapter 13 他の人たちが何を必要としているのか
Chapter 14 なぜ自分ばかりが責められるのか
Chapter 15 自分の気持ちはどこに向いているか
Chapter 16 箱の問題は、なぜ解決しなければならないか

第3部 箱からどのようにして出るか
Chapter 17 「素直な自分」を引き出す
Chapter 18 「どうすれば箱の中からでられるか」
Chapter 19 人として、相手と接する
Chapter 20 箱の中にいるときにしても無駄なこと
Chapter 21 自分が楽な人間関係を選択する
Chapter 22 何のために努力するのか
Chapter 23 本気にならなければ人はついてこない
Chapter 24 2度目のチャンスは用意されている


私自身、しっかり覚えておきたいと思ったので、丁寧に覚書。

主な登場人物は、

トム・コーラム:最近ザグラム社に転職してきた。上級管理職の研修で本書の内容を学んでいく。

パド・ジェファーソン:ザグラム社専務副社長。トムの研修相手。

ケイト・ステナルード:ザグラム社会長。

ルー・ハーバート:ザグラム社元会長。ケイトの元上司。

 

第1部 「箱」という名の自己欺瞞の世界

Chapter 1 「君には問題がある」
 主人公は、トム・コーラム。以前の会社(テトリックス社)の競合ともいえるザグラム社に転職して2か月。上級管理職を対象とした1to1研修を受けるために、専務副社長のパド・ジェファーソンに面接に行く。自信満々で面接に臨んだのに、そこでいきなり「君には問題がある」といわれる。パドににいきなり「君には問題がある」と言われて顔から血の気がひいていくトム。トムは何をいわれているのか意味がわからない。

 

Chapter 2 自分だけきづいていないこと
パドが言うには、「君には問題があって、そのことは職場の人も、奥さんも、義理のお母さんも、近所の人もしっている。問題なのは、君自身がそのことにきがついていないということだ。」と。そして、家族との約束を守らなかっただろう、などといいだす。たしかに、身に覚えがなくはない。職場での部下の扱いも公正でない、と言われて戸惑うトム。確かに、自分には問題はあるかもしれないけれど、、、、そんなの誰にでもあるだろう、とちょっと反発して思うトム。

 

Chapter 3 何も見えない状況に陥るとき
そして、パドは自分自身の経験の「何も見えない状況」に陥った話を始める。


パドは、待望の第一子が生まれてからすぐ、会社の重要プロジェクトメンバーに抜擢されて、妻と子供の住むワシントンを離れてサンフランシスコに飛ぶことになった。バタバタの引っ越しでみんなよりちょっと遅れてサンフランシスコに着任したパド。新設のオフィスには、すでにメンバーが集まっていて、パドは残っていた21階のゲストオフィスを使うようになり、25階にいる他のメンバーとははなれて仕事をすることになった。パドは、ひたすら仕事に没頭した。食事は、1階のデリカテッセンでベーグルやサンドイッチが3食。25階にはほとんど足をはこばず、自分の仕事に没頭した。あとから、25階のメンバーには、無料で食事が提供されていることをしって、ショックを受けた。しかも、パドは、みんなの最新の変更を仕事に織り込めなかったと言って、最初の10日間で2度も厳しく叱責された。

パドは、勝手に孤立して、勝手に他のメンバーとの交流を絶ってしまっていたのだ。周りが見えなくなっていたのだ。

 

そして、パドは、これを哲学者は自己欺瞞と呼ぶ、とトムに説明した。で、わが社ではそれをもっと砕けた言い方で『箱の中に入っている』とよぶのだ、と。

自己欺瞞』あるいは『箱』それが問題なのだ、と。

 

ザグラム社のこの研修の目的は、仕事だけでなく人生のあらゆる場面で『箱』から抜け出すことだった。


Chapter 4 さまざまな問題のもとになっている一つの問題

トムは、『箱』と言われても、わかるような、わからないような、戸惑いを隠せない。


パドは、イグナス・ゼンメルヴァイスの話をする。行動心理学などでもよく事例として取り上げている話だ。イグナスが担当する産科病棟の女性患者の死亡率が他の病棟より際立って高かった。原因は、死体解剖も担当している自分自身が原因だった、という話。イグナスは、死体解剖で細菌に感染した手で産科病棟患者を担当したたために、自分で細菌をまき散らしていた、ということ。自分自身に原因があったことに気が付いたイグナスは、消毒の徹底によって、死亡率を激減させることができた。


同じように組織の中にも自分が細菌を持っているのに、気が付かずに組織をダメにしているケースがあるというのだ。その細菌こそ、『自己欺瞞』であり『箱』。本人が自覚していないから、周りにその悪影響を感染させる。

 

Chapter 5 効果的なリーダーシップを支えるもの
パドは、また自分の経験を話してくれる。

 

パドがザグラム社に入って間もないころ、ある困難な課題に当たった。会議では、解決できた問題を報告し、一つは未解決で残っていると告げたところ、当時の会長ルー・ハーバートは、その課題をパドではなくケイト・ステナルードに完成するように指示した。自分の未熟さに恥ずかしくなったパドだったが、ミーティングの後、ルーに直接声をかけられる。そして、ルーは、パドを叱責するのではなく、引っ越しはうまくいったか、家族はちゃんと落ち着いたかなどときき、引っ越しで苦労したときいて心を痛めている、何かわたしにできることはないか、といった。そして、「君がこの会社に来てくれてうれしく思っている。きっと大きな貢献をしてくれるだろう。しかし、私たちの期待に2度と背かないでほしい」といった。感傷的かもしれないけれど、ルーはそういった。そして、パドはそれに応えようと誓った。

 

また、家で、前の晩に食器を洗っておかなかったことで、朝妻と口喧嘩になった時の話をした。会社に遅刻しそうになったので、険悪な状態でもなんでもとりあえず、出かけないと。そして、ごめんといって妻にキスした。妻は、「ごめんなんておもっていないでしょ」とつぶやいた。

 

それをきいたトムは、自分も今朝妻とかわしてきた会話を思い出す。「あなたはわたしのことなんてろくに気にかけてもくれない・・・」
また、前職場のパワハラ上司、スターリーのことを思い出し、ルーとは大違い、、と思った。そのことをパドにつたえたトム。ルーは素晴らしい上司だけれど、スターリーは本当にひどい上司だったんだ、と。だから、パドは期待に応えようと思えただろうけれど、スターリーのようなひどい上司の下にいた自分は、期待に応えようと思えないのはしかたのないことだ、と。

 

パドは、人間関係がスムーズにいくかどうかは、行動やテクニックによるのではなく、もっと深いところにあるものなんだ、という。

 


Chapter 6 自己欺瞞に冒されている人ほど問題がみえない 
パドがいう深いところにあるものとは、自己欺瞞自己欺瞞の説明のために、パドは、出張で飛行機に乗ったときの話をする。

 

全席自由のフライトにのったパドは、空席が少ないと聞いて早めに飛行機に乗り込むと、窓側に座り、通路側に書類カバンをおいて書類を読み始めた。後から乗ってきた人は空席をさがして、パドの隣に座りたそうにしていた。気づきはしたけれど、パドは書類に没頭する振りをして人々を牽制した。

そう、人でなしの、自分勝手な行動の例を語り始めたのだ。
そして、その時のパドは、ほかの乗客を「人」ではなく「物」としかおもっていなかったのだ、と。

また、別の飛行機では、パドと妻はいっしょにフロリダに旅行に行く飛行機で、発券のミスで、バラバラの席になってしまう。何とか一緒に座れる席をさがすアテンダントをみた一人の乗客が、『私の隣が空いているみたいなので、私がそちらに移ってもかまいませんよ』と声をかけてくれた。そう、その乗客は、パドたちのことを「物」ではなく「人」としてみたのだ。

 

隣の席に人を座らせようとしなかったパドは、箱の中にいた。自分の世界にいた。一方で、席を譲ってくれた女性は、箱の中ではなく、壁のない開けた世界にいた

そこで、トムは自分の経験をパドにはなして、自分は箱にはいっていたのだろうか?と尋ねる。

トムがいつも使っている会議室を部下が勝手に使って、あろうことかホワイトボードに書いてあったメモを消してしまった。トムは部下を叱った。これは、自己欺瞞なのか?と。

パドは、トムに「その人の名前をしっているか?」と聞いた。トムは答えられなかった。トムにとっては、だまって自分のメモを消したろくでもない部下であり、何のために部下が会議室をつかったのかとか、メモをけしたのかなど、興味の対象外だった。
トムは、相手のことを知ろうともしなかった。それも自己欺瞞なのだという

そしてパドは、「彼女は、ジョイス・マルマンというんだよ」と、トムの部下の名前を口にした。


Chapter 7 目の前の相手は「人」か「物か
パドは、相手を注意したことが悪いのではない、トムはジョイスを「物」としていみていたのだと言った。。つまり、隣の席に人を座らせまいとしたパドと同様に、「箱」にはいっていたのだと。

相手を物としてみてもいけないし、集団としてみてもいけない。相手を人として見る。そのためには箱の外に出ることが必要なのだ、と。

 

そして、二人は、ランチの休憩に入る。

 

と、だいぶ長くなったので、本日は、ここまで。

第2部からは、また明日。