『歴史総合パートナーズ⑯ 北方領土の何が問題?』 by  黒岩幸子

歴史総合パートナーズ⑯ 北方領土の何が問題?
黒岩幸子
清水書院
2022年8月22日 初版第1刷発行

 

図書館の新刊の棚にあったのだが、どうやら学校の副読本のような感じで使われているものみたい。薄くてすぐに読めそうだったので借りてみた。シリーズになっているようで、本書は、⑯とある。

 

表紙裏には、本シリーズの説明が。
”歴史する?
「歴史は暗記もの」、自分とは関係ない過去の話。そう思っていませんか?
身の回りの物事や出来事を探っていくと、きっと奥深い歴史が見えてくるでしょう。私たちはその見え方に縛られもしますが、歴史を捉え直すとき、変わりようもないと思った現在の先に、別の道が見えたりもします。私たちは決して歴史と無関係に存在しているのではありません。いつも「歴史している」のです。
 混沌とした今日の世界で、より良い一歩を踏み出すには、お仕着せでなく私たち一人ひとりが「歴史する」、つまり未来を想像/創造するために、日々直面する問題を過去の豊かな経験を頼りに考え、行動することが求められます。それは自ら歴史を編み上げる営みであり、また時空を超える旅でもあります。
 2022年から高等学校の必修科目として「歴史総合」が始まり、歴史の学びが変わります。これを契機に、いまを生きる私たちにとって意味ある歴史とは何か、問いかけようと思います。
本シリーズをパートナーにあなたも「歴史して」みませんか?”
とある。

 

目次
はじめに: 北方領土歴史してみよう
1.日本の北側の国境はどのように決まったの?(18世紀~1930年ころ)
2.第二次世界大戦で千島はどうなったの? (1930年代~1945年)
3.占領された千島の日本人の運命は?
4.日本は千島占領にどのように対応したの?
5.「北方領土」はいつになったら出てくるの?
6.ソ連邦解体後の日ロ関係はどうなったの?
おわりに:解決策はどこに?

 

感想。
難しいよ。というか、やっぱり、覚えられないよ、、、。北方領土の話は、佐藤優さんの著書などでもよく目にするけれど、やっぱり、、、、覚えられない・・・。
でも、一応、流れがわかるのと、千島列島の地図と、それぞれに島の名前を文章と見比べながら読むことができるので、わかりやすくはある。

 

二島返還なのか、全島返還なのかという課題は、良く取り上げられるけれど、単に一部の返還ということではなく、日本国としては「国後島択捉島」は、もともと一度も外国の領土となったことがないから、「返還」ではないという主張。一方で、「国後島択捉島」に住んでいた根室国の人々にすれば、戦争によって島を追い出されてしまったので、帰りたい土地。戦後の日ソの交渉でソ連側は、「歯舞・色丹」の日本への引き渡しを提案してきた。日本は、国後・択捉の返還も要求する方針をとって、問題は解決に至らず。

 

その後、佐藤宗男事件で交渉頓挫、プーチン政権に代わって安倍首相との交渉が行われるも、交渉まとまらず、、、。

 

どの二島なのかが、人によって優先順位が異なるってことなんだろう。国後島択捉島に住んでいた人からすれば、歯舞・色丹だけが帰ってきて解決ってされてしまってはたまらない。実際、北海道の中でも、北方領土返還については複数のグループがことなる意見をもって存在するらしい。

 

もともと千島列島には、南千島・中千島・北千島、という地域があった。日ソの交渉で日本は、「サンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島に国後島択捉島は含まれない」と主張し、そのころから国後島択捉島に歯舞・色丹を含めた土地を「北方領土」と呼ぶようになったのだそうだ。

 

本書の中で、北千島に位置するシュムシュ島(千島列島の最北の島)に住んでいた千島アイヌが、カムチャッカ半島への出入りを規制するために、色丹島強制移住させられた歴史がでてくる。一番北の端の島から、ぐっと南の島へ。生活環境の大きな変化、加えて日本政府が強いる教育を含めた生活環境になじめず、多くのアイヌが亡くなってしまったそうだ。

期せずして、またアイヌの話・・・・。

 

本書が出版されたのは、2022年8月。最後の方には、ロシアのウクライナ侵攻によって、北方領土問題は再び凍結状態になってしまった、と。

 

そして、このような領土問題が長く続き、解決が難しいことの要因は、日本とロシアとでは、「パラレルヒストリー」が存在するからだという。つまり、日本にとっての歴史解釈と、ロシアにとっての歴史解釈は異なるストーリーで存在するということ。並行して存在するヒストリーだ。

 

イマヌエル・カントの言葉が引用されている。
将来の戦争の種を密かに保留して締結された平和条約は、決して平和条約とみなされてはならない。
なぜならその場合には、それは実は単なる休戦であり、敵対行為の延期であって、平和ではないからである。

 

本当に、そうだ。

目の前をみれば、即時休戦は必要。でも、戦争の種を解決した平和条約が結ばれない限り、常に戦争への不安がの残ることになる。 

 

高等学校の参考書、難しいなぁ。

各章に「レッスン」として、課題がでている。答えは記載されていないので、自分たちで調べなさい、ってことなんだろうけれど、どのレッスンも、私には即座にこたえることができない。

たとえば、4.日本は千島占領にどのように対応したの?のレッスンは、


”① サンフランシスコ平和条約の第2条を全て読みましょう。日本は、南樺太と千島以外にどんな領土を放棄したでしょうか。
② 北海道東岸と北方四島の間の実質的な海の境界線を確認しましょう。ソ連(ロシア)が主張する領海を日本は中間ラインと呼んでいます。”
とある。


サンフランシスコ平和条約は、1951年9月8日に日本が連合国48カ国と調印した条約。翌年4月の条約発効によって日本は主権を回復した。
第2条(c)
「日本国は千島列島並びに日本国が1905年9月5日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利権限および請求権を放棄する。
つまり、日本は千島列島と南樺太を放棄するとなっている。でも、放棄した領土の帰属先は書かれていない。ソ連に返すともいっていない。また、千島列島の地理的範囲が示されていない。だから、国後島択捉島ははいっていた、はいっていない、、、という議論になる。 

 

私が高校生の時は、こんな難しいことまで考えなかったなぁ、、、という気がする。というか、当時の教科書には北方領土問題は、さらっとしか書かれていなかったのかもしれない。なんせ、、、昭和だから・・。

 

高校で取り入れられた「歴史総合」というのが、どういうものか知らないけれど、日本史と世界史をつなげる歴史って感じだろうか。多分、それが大事だ。私がそれに気が付いたのは、ここ最近のことだ。それをしないと、「パラレルヒストリー」があるということを忘れてしまう。

 

歴史は、今につながっているのだ。

歴史を学ぶというのは、今をまなぶということなんだなぁ、、、。

 

このシリーズも、なかなか面白そう。だいぶ、説教くさい?!感じはあるけれど、一応、自分の頭で考えるためのヒント本のような感じ。やっぱり、教科書、教材って面白い。こういう読書も、楽しい。