『いちばん大切な食べ物の話』 by  小泉武夫 井出留美

ちくまQブックス いちばん大切な食べ物の話
小泉武夫
井出留美
筑摩書房
2022年11月15日 初版第1刷発行

 

図書館の新刊の棚にあったので借りてみた。

 

著者の小泉武夫さんは、東京農業大学名誉教授。専門は食文化論。発酵学、醸造学、発酵の第一任者として発酵技術を社会に役立てる提案を多数配信している。
井出留美さんは、食品ロス問題ジャーナリスト『SDG’s 時代の食べ方』など著書やネットメディアでの連載で、食料問題に関する提案を多数発信している。

 

裏の説明には、
”きみの未来は「なぜ」からはじまる

私たちの体は食べたものでできている。だけどその大切な食べ物のことをずいぶんおろそかにしていない? まだ食べられるのに捨てられる食品、低い食料自給率、狭い場所に閉じ込められる家畜、栄養不足で育てられる野菜、価格優先の食品メーカー等々。 今こそ日本の食を立て直そう!

 

表紙には、
”どこで誰がどうやって作っているか知ってる?”の吹き出し

表紙裏には、ちくま Q ブックスに説明。
”ちくま Q ブックスは、ノンフィクション読書を全力応援!
身近な「なぜ?」(Question)がスタート地点。「知りたい」に答えます。

正解することよりも探求(Quest)することの大切さを伝えます。

読み終えたときには、次のQが生まれてくるかも? スタート地点とはちょっと違った世界が見えてきます。”
と。

 

薄いソフトカバー単行本で、表紙のイラストを見る限り、わかりやすく、簡単に書かれた本のよう。実際、小泉さんと井出さんの対話形式で書かれているので、とてもわかりやすい。私自身が発酵の専門家なので、小泉さんの言われることは100%理解できる。まさに、「発酵が世界を救う!」と思って、仕事をしてきたのは、私も小泉さんと一緒だ。

簡単な啓発本って、感じかな。私にとっては、そんなに新鮮でびっくり!という内容はなかったけれど、食、健康、環境に興味があるならとっつきやすい本だと思う。世の中の知識が網羅されているというよりは、小泉さんの知識が簡単にまとめられている本って感じ。

 

目次
まえがき
第1章  とっても低い日本の食料自給率
第2章 改革で成功した先人から学ぼう
第3章 ものの価値を知る
第4章 日本の食のために今すぐ取り組むべきこと
第5章 日本の伝統的な食生活を見直す

 

第1章 では、「カロリーベース」での日本の食料自給率は38%で、他国に比べても低いし、ウクライナの戦争や自然災害など、有事の際には食料不足になるリスクがあるというはなし。もちろん、だからこそ備蓄もあるのだけれど、農業従事者の数も減る中、このままでは必要な食べ物が足りなくなっちゃうかもよ、という話。
1965年度には73%だった数字が38%まで下がってしまったのは、食の変化の影響が大きいという。魚から肉食へ、お米からパンやパスタへ、食習慣がかわったことで、日本では生産していないものを食べるようになってきた。
農林水産省は、自給率をあげるための方法として、農業従事者への支援、食品ロスを削減する、といういったことに取り組んでいる。

 

食品ロスを減らすことは、私たち一人一人が出来る取り組み。「食べ残さない」もそうだけれど、そもそも、買ったけど冷蔵庫で腐らせてしまった、、、、ってこともないようにしなきゃな、って思う。

 

第2章では、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領が、積極的に食料自給率をあげる取り組みをして、今でも131%の自給率を維持している、って話に始まり、米沢藩上杉鷹山が農家の収入を大きく増やした話など。
シャルル・ド・ゴールは、学校給食を基準に必要な食料量を決めて、各県で独立してまかなえるように農作物を作らせた。100%地産地消をめざしたら、どの県も100%を超えてしまった。
上杉鷹山は、漢方薬の原料となるウコギを全農家に植えさせて、漢方薬として売った。農家が豊かになると、さらに土地にあった作物を調査し、お米を作るために、牛を飼うようにした。牛は食べるためではなく、牛の糞尿を対比にして発酵させると米作りによい肥料になるから。そして、お米も米沢牛も名産になっちゃった。ついでに、紅花もつくって染料としていたのだけれど、今では紅花油として絶大な人気商品になっている。
紅花油は、酸化しにくくて体にいい油なので、今でも人気商品。

たしかに、農家が豊かになるというのは、地域が豊かになることにつながるのだと思う。

 

第3章では、本物を食べよう、という話。日本では、発酵食品ではない「キムチ風漬物」が売っているけれど、それは、本来のキムチのような健康効果は全くない。それを「キムチ風」と売るのは、キムチを大切な民族文化としている韓国に大変失礼なことだし、間違っている、と。確かに。言われてみればそうだ。日本人が海外で、マヨネーズだらけの寿司をみて「これは寿司ではない」と思うのと一緒かも・・・・。キムチを買うときは、本当の発酵キムチなのかを確認して買おう。専門店なら間違いないけど、スーパーに並んでいるキムチは、「キムチ風」が結構ある・・・・。
また、アトピーの子どもが旬の野菜をおかずに玄米を食べて、自分で仕込んだ味噌をつかったみそ汁をたべてたら、アトピーがきれいになおっちゃった、って話。まぁ、加工食品をやめるだけでも、結構効果あると思う。

私は、別にアレルギー体質ではないけれど、スーパーで売られている長期保存のきくお豆腐(充填豆腐)を食べると、お腹がシクシクする。お腹を壊すわけではないけれど、腸内細菌が泣いているような気がする・・・・。

加工品を買うときは、原材料や製造方法をチェックしよう。

 

第4章では、農業をもっと応援し、自然な食品を取ろうということと、なぜ発酵食品が体に良いか、という話。ついでに、生ごみ処理問題にも言及されている。
私は、生ごみをベランダでコンポスト処理しているのだけれど、きっかけは生ゴミの焼却に使われるエネルギーの多さに衝撃をうけたこと。生ごみは水分が多いだけに、大量のエネルギーを使用してしまうのだ。
また、水分が多い生ごみの焼却灰は、不完全燃焼によってダイオキシンが含まれている可能性があり、その廃棄場所も問題になる、と。
コンポストにすれば、また畑の栄養になる。コンポストにするということは、生ごみを発酵させて土にするということ。発酵技術はこんなところでも活躍しているのだ。
発酵食品がなぜ体に良いかといえば、無数の菌体が住んでいるから。微生物は、とても小さい。納豆菌なら0.4ミクロンくらい。納豆1gには、10億~15億個の納豆菌がいる。一粒だと、700万個の納豆菌。そして、納豆菌や味噌、ヨーグルト、チーズ、漬物、といった発酵食品を食べるということは、これらの微生物が体に入ってくるということ。最近、菌体成分が、腸で免疫細胞をつくりなさい!という信号を送っているということがわかってきた。
中でも、納豆は最強の免疫強化になるそうだ。生きている菌なら、菌そのものが作り出す有用物質もあるのでより効果的だけれど、スイッチを押すという意味では死んでしまった菌体でも効果があるそうだ。

大切なのは、自然な食品であるということ。チーズなら、ナチュラルチーズじゃないとね。

ちなみに、納豆は冷蔵庫にしまってあれば賞味期限が過ぎていても大丈夫。ちょっと、ニオイがきつくなるけど・・・とのこと。漬物だって、本物の発酵させた漬物は、酸っぱくなるだけで腐りはしない。腐った発酵食品というのものはないのだ。発酵と腐敗は、まったく違うものだから。

 

第5章では、伝統的日本の食習慣をみなおそう、という話。江戸時代はどこに行くにも歩いていかなくてはいけなかった。そんな時代のスタミナ食は、毎朝のお味噌汁だったそうだ。豆腐の味噌汁に、ひきわり納豆を入れて、油揚げの千切りをちらす。そのスタミナ汁ぶりは、牛肉がたっぷり入っているスープと変わらないのだそうだ。
タンパク質として、イワシが薦められている。生もいいけど、イワシ丸干しがいいですよ!って。生なら3枚におろして、天ぷらにして、天丼にしてもいいいって。
あぁ、なんか、イワシが食べたくなる。

日本人は、食べ物に関しては安いもの、安いもの、と選ぶ傾向があるそうだ。まぁ、毎日のことだから、、、と思うけれど、3本セットで120円の遠くでとれたキュウリより、1本80円の近くでとれたキュウリを選ぼう、って。新鮮であること、地元でとれたのであれば輸送エネルギーも少ないこと、、を選ぶってこと。

私たちの身体は、食べたものでできている。やっぱり、食は大事だ。食を支える農業を応援するつもりで、1本80円のキュウリを選ぶっていうのも、大事かもしれない。

 

簡単に読める一冊。
健康のためにも、もっと食を、農業を、大事にしよう!って思えた。