『16歳のデモクラシー  受験勉強で身につけるリベラルアーツ』 by  佐藤優

16歳のデモクラシー
受験勉強で身につけるリベラルアーツ
佐藤優
晶文社
2020年1月25日 初版

 

 図書館の棚で見つけた。2020年の本だけれども、多分読んだことがないと思ったので借りてみた。ソフトカバーの単行本。内容は佐藤さんが埼玉県立川口北高校の2年生たちに行った特別授業4回分を書籍にしたもの。

 佐藤さんが高校生たちを相手にした講演を本にしたものは他にもあるけれど、いつも難しい話を分かりやすく、かつ難しいかもしれないけれど、頑張って考えてみて、と高校生たちを励ましているところが結構好きだ。実際、内容は私にも難しい・・・。

 

表紙の裏には、
”「君たちが社会で活躍する頃には、日本のファシズム傾向は今より強まっているかもしれない。過去の歴史を知ることは、現在を読むために必要だ。」
インテリジェンスの泰斗が高校生たちに呼びかけ、学校での授業内容をベースに世界と社会の見方を伝える。デモクラシー論の古典であるラインホールド・ニーバー『光の子と闇の子』をテキストに、時に英語原文にも当たりながらデモクラシーの本質を探究していく。高校での勉強や大学入試のさらにその先を見据えた、確かな教養を身につけるための全4講義。
力強く歩みだすための知力とは何か
学びはじめ、学びなおし、学び続ける知的メソッド。”とある。

ラインホールド・ニーバーの『光の子と闇の子』は、佐藤さんがいつもデモクラシーを理解するのに最も重要な本、と言っているので買ってはあるのだが、じっくりと読んだことがない。高校生達と一緒に勉強するつもりで読んでみた。 

説明にあるように、本書の中に時々、英語の原文が引用されている。そして、その日本語訳も。そして、都度、英語の勉強は大事だから、こうして日本語と英語が一緒になっていれば辞書を引かなくても、どの言葉がどの言葉なのかを分析すればいい勉強になる、と。

目次
第1講 歴史の年号はなぜ重要なのか
第2講 デモクラシーの起源
第3講 世界戦争が起こるメカニズム
第4講 未来を見通す力をつける

 

感想 。
う~~ん、勉強になるなぁ・・・。
高校生が受けた授業、私も一緒に受けてみたい・・・。
ほんと、私にとっても、とても勉強になる一冊だった。
このところ、中国関連の本を続けて読んだので、中国の体制にかかわる言葉がすらすらと分かって、あぁ、、、点と点がつながった・・・って感じが面白い。
conecting the dots!
冊封体制(さくほうたいせい)とか、易姓革命(えきせいかくめい)とか、デモクラシーの話をしながら、中国の体制との比較で話が出てくると、中国の特殊性がきわだっていることが更に理解できた気がした。

沖縄は、かつて中国の冊封体制の中にあったのだという話も、琉球が日本に勝手に沖縄にされた経緯のなかででてくると、沖縄の歴史を振り返るという機会にもなった。

あと、高校生向けに、言葉の定義を徹底的にやってくれているところもいい。カタカナ言葉で、ホワッとした意味でつかっている言葉を、高校生たちに辞書を引かせながら、徹底的にその意味を理解出来るようにすすめている。

例えば、イデオロギー。「○○のイデオロギーが、、、、」と日本語になっているけれど、辞書の定義で言えば、単なる政治的思想ではなく、「その人の行動に影響を与える考え方」となる。
リバタリアニズム」も、そのまま使いがちだけれど、ヨーロッパのリベラル(自由主義)が国が干渉しない自由であることに対して、アメリカの「リバタリアニズム」は、国民が自由になるための制度を国がつくること、と説明されると、よりヨーロッパとアメリカの思想の違いがわかる。


第1講では、佐藤さんお得意の年号テストがでてくる。世界史の出来事の年号を書きなさい、という小テスト。以下10個。


ウェストファリア条約 1648年
・第1次世界対戦勃発 1914年
・第2次世界大戦勃発 1939年
真珠湾攻撃 1941年
・広島長崎原爆投下 1945年
サンフランシスコ平和条約の発効 1952年
ソ連崩壊 1991年
・ロシア社会主義革命 1917年
・9/11米国同時多発テロ 2001年
明治維新 1868年

 

そうか、今の高校生には、2001年の9.11米国同時多発テロも、歴史で習う事なのか・・・・。
サンフランシスコ平和条約の話は、先日読んだ『高校生のための法学入門』の憲法ができた経緯の話で何度も出てきたので覚えていた。

megureca.hatenablog.com

 

でも、戦争以外は、普段年号を見る機会が無ければ、曖昧だ。佐藤さんは、年号を覚えていた方が、他の出来事とのつながりで考えられるから、世の中のことを理解するには便利なのだ、という。年号がわからなくても、すくなくとの上記10の出来事の順番は理解しておこう、って。

第2講から、本格的に『光の子と闇の子』を読み始める。一緒に読むのが『世界史B』の教科書。『光の子と闇の子』は、1944年にラインホールドがスタンフォード大学で行った講義がもとになっている。この、1944年というのが重要。ようするに、第二次世界大戦の最中で、まだナチスが存在していた時。戦争のさなかで考えたことが本になっているのだ。

ナチスは今では完全否定されているけれど、ナチスが台頭してきたのは時代の流れだったということ。ヒトラーは、健康オタクだった。だから、健康診断でガンがあったらガンを切除するように、人種にも欠陥があれば排除する・・・と。そして、ヒトラーベジタリアンで、大好きなお肉、ケーキはずっと我慢していたのだけれど、自殺する1週間前は、肉をたべてケーキを食べて、もう死んじゃうからいいんだも~~んという、シニシズムに至っていた、、と。そして、その変化は社会の変化の流れもそうなりえる、と。
社会に「世の中はなるようにしかならない」というシニシズムが蔓延することの恐ろしさは、ヒトラーの最後と同じ流れになること、と。

 

『光の子と闇の子』をもとに、政治形態の大きな流れを佐藤さんが解説している。

人が増え、社会ができる。さらに大きくなると国家ができる。一つにまとまるために、君主政治が始まる。

君主政治が続くとだんだんと君主が勝手なことをし出すので、それが僭主(せいんしゅ)制、独裁制になる。 その様子を見た人たちが、何人かの優秀な人たちで集団指導していこうと考える。これが貴族制になる。貴族政が堕落すると、寡頭制になり、普通の人たちが集まり政治を行う民主制になる。しかし民主制も堕落し、衆愚政になる。このだらしない状態を解決するためには、一人の人が治めた方が良いと考えるようになり、また君主制に戻る。君主制が堕落すると僭主制になって行き…”
と、変遷をたどるのだと。

わかりやすい。

そして、この誰かひとりに決めてもらえば、、、という「強い人に全部決めてもらった方がいい」という思想こそが、ヒトラーに権力を与え、ナチスをうむ出すことになったのだ、、と。そして、ヒトラーの時代、ドイツには、「当時の世界で最も民主的な憲法」といわれた「ワイマール憲法」があった。ヒトラーは、憲法はかえていない。ただ、ヒトラーが出す命令を憲法とすればよかった。

 

佐藤さんが、とても怖いことを言っている。
どんなに立派な憲法を作っても、実際に政治を行う人がそれに反する行為をして、国民がそれを阻止しなければ、ナチスのようなものが生まれる。

うむ、さもありなん。さぁ、今の与党はどうか。。。。

 

そして、
ナチズムも怖いけれど、民主主義やデモクラシーを信じ、「自分のことは絶対正しい」と思っている人も怖い!”と。

うむ、さもありなん。

 

高校生相手に、真剣勝負しているな、って感じがいい。
どの勉強も、受験勉強のためだと思ってやるのでは、されかに搾取されて自分のものにならない。自分のものにするような勉強の仕方をしなさい、とすすめている。
「大学入学はゴールではなく、スタート」
本当にそうだ。
受験ものって、なんでもそうだ。
合格して始まる新しいキャリアのために、受験するのだ。
こういう、「勉強の仕方」って、私は教わったことなかったなぁ、、、と思う。学校の授業もそんなに真剣に聞いていたわけではないし、いわゆる塾や予備校に通ったことがないので、勉強の仕方をしらずに独学でずっとやってきたような気がする。

 

ボイジャーに伝えて』で、美紗子に勉強の仕方にも法則がある、と教えてもらって成績を伸ばしていく公平が羨ましく感じた。

megureca.hatenablog.com

学校の先生でもなく、親でもなく、はたまた塾の先生でもなく、、、普通ならば接点がないような大人とかかわることって、10代にとっては、とても大切な気がする。

先生や親は、「正しいことを教えてくれる人」って信じているなかで、ちょっと違う視点ではなす大人に接すると、自分の頭で考える訓練になるのかな?そうやって、「親が先生が言っていることが100%正しいわけではないのかもしれない」とか、世界には色々な見方があるってことを覚えていく。

 

高校生でこういう授業うけていたら、また違う道を進んでいたかもしれないなぁ、、、と、本書や『高校生のための法学入門』を読んで思った。

 

まぁ、直接口で伝授されなくても、こうして本を読むことでいくつになっても学ぶことはできるけど、ね。やっぱり、10代で聞くのと、社会人になって聞くのでは違う。

 

「大学入学はゴールではなく、スタート」

今、受験真っ最中のすべての若者に伝えたい。

勉強するのは、〇〇大学卒という学歴を作るためではない。その先の基礎固めをするためってこと。身についた知識や思考は、一生使える。

今こそ、思いっきり勉強して、大学での勉強を楽しんでほしい。

勉強だけしていればいいときというのは、人生において、今だけなんだから。

 

頑張れ!受験生!!

私も、頑張ります!

 

佐藤さんの言っていることが100%正しいとも思わない。でも、間違いなく刺激になる一冊。

読書は楽しい。